24/12/31
年金をもらいながら働く人は「確定申告」すべき?した方が得する7つの事例紹介
年が明けるとすぐに、所得税等に係る確定申告の時期がやってきます。年金受給者には「確定申告不要制度」と呼ばれるルールが設けられていますが、友人や知人が確定申告を済ませてきたことを耳にして、「私も確定申告が必要なのかな?」と迷う人も多いようです。年金を受給しながら働く人も増えた昨今、どのようなケースで確定申告が必要なのでしょうか。今回は、確定申告が必要かどうかを判断するための3つのステップを紹介します。あわせて、確定申告をするとお得になるケースや住民税の申告が必要になるケースについても見ていきましょう。
年末調整が行われない年金は「確定申告」が原則
年金をもらい始める前から給与所得を得ていたほとんどの人は、勤務先で行われる「年末調整」を通じて、毎月の給与や賞与から源泉徴収された税額と、1年間(1月1日~12月31日)の所得に応じて本来納めるべき税額の間で生じる過不足を精算していたはずです。公的年金等も、所得税および復興特別所得税が源泉徴収されていますが、その精算は確定申告で行うことが原則とされています。
年金受給者は「確定申告が原則」とは言っても、本人や家族にとっては非常に負担が大きいですよね。そこで、要件を満たす年金受給者については、確定申告を不要とする制度が設けられています。下のフローチャートを見てみましょう。「公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下(ですべて源泉徴収の対象)」かつ「公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下」であれば、確定申告をする必要はありません。
<年金所得者に係る確定申告不要制度の対象者>
政府広報オンライン「ご存じですか?年金受給者の確定申告不要制度」より
ここからは、3つのステップに分けて、確定申告が必要かどうかを詳しく見ていきます。公的年金等収入の増減や年金以外の所得の発生状況によって、今後確定申告が必要となることもあれば、逆に不要になることもあるはずです。毎年の変化に十分留意しながら判断するようにしましょう。
もし所得税(復興特別所得税を含む)の確定申告対象となった場合には、翌年2月16日から3月15日(2024年分は2025年2月17日から3月17日)までの期間に申告および納税を済ませなければなりません。
ステップ1:公的年金等の収入が年間400万円を超えていないかを確認
まずは、「公的年金等に係る雑所得」に該当する、老齢または退職を支給事由とする年金収入(額面金額)の合計額を見ていきます。
公的年金「等」という言葉が示すとおり、対象は公的年金に限りません。私的年金として位置づけられる、国民年金基金や企業年金(厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金)等も対象です。iDeCo(個人型確定拠出年金)の老齢給付金を年金として受け取っている人は、その金額も含める必要があります。
額面金額は、毎年1月頃に届く「公的年金等の源泉徴収票」に記載されているので、失くさないようにしましょう。複数の年金をもらっている場合には、それぞれの支払者から源泉徴収票が届きます。「支払金額」を合計して400万円を超えていたら、税務署への確定申告が必須です。
<公的年金等の源泉徴収票>
日本年金機構「令和5年分 公的年金等の源泉徴収票」より
なお、障害年金や遺族年金のほか、一定の要件を満たした所得が少ない年金生活者に支給される「年金生活者支援給付金」については、所得税および復興特別所得税の課税対象外です。これらの非課税所得に係る年金収入については、400万円の判定基準には含まれません。
ステップ2:源泉徴収されていない公的年金等はないかを調べる
「公的年金等に係る雑所得」のうち源泉徴収されていない年金収入がある人は、年金収入が400万円以下でも確定申告が必須です。例えば、日本で源泉徴収が行われない「外国の法令に基づく公的年金等の収入」をもらっている人は、確定申告不要制度の適用が受けられません。したがって、みずから確定申告を行う必要があります。
なお、源泉徴収は、一定の金額(65歳未満:108万円、65歳以上:158万円)を超える年金を受け取るときに行われますが、それらの金額を下回っていることを理由に源泉徴収が行われないケースは問題ありません。その他の要件を満たしていれば、確定申告不要制度の適用が可能です。
ステップ3:「公的年金等に係る雑所得」以外の所得が20万円を超えていないかをチェック
公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下で、それらすべてが源泉徴収の対象となっている人は、「公的年金等に係る雑所得」以外の所得金額がいくらになるかをチェックしましょう。
●年金を受給しながら働くほとんどの人は確定申告が必要
所得とは、収入から必要経費を差し引いたものであり、10種類ある所得それぞれに計算方法が定められています。年金をもらいながら働く人にとっては、「給与所得」の金額も、20万円に含まれるうちの一つです。給与や賞与、パート収入以外にも、個人年金や配当を定期的に受け取っている人もいれば、生命保険契約の満期や解約により一時的に保険金を受け取ることもあるかもしれません。これらを合計した所得額が20万円を超えていれば、確定申告を行う必要があります。
<「公的年金等に係る雑所得以外の所得」の主な種類と計算方法>
国税庁「公的年金等を受給されている方へ」より筆者作成
給与所得控除額は、給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額)が162.5万円までの場合、55万円。したがって、給与等収入が75万円を超えると、給与所得が20万円超となることから、年金を受給しながら働くほとんどの人は、確定申告が原則として必要になるはずです。
<給与所得控除額>
国税庁「タックスアンサー No.1410 給与所得控除」より筆者作成
●公的年金等の所得が「ゼロ」なら確定申告が不要になることも
ここで、絶対ではなく、「原則必要」と留めているのには理由があります。年金所得者に係る「確定申告不要制度」はあくまで、申告すべき公的年金等がある場合にその負担を軽減するためのものです。公的年金等に係る雑所得についても、公的年金等の収入額から一定の控除額を差し引く形で計算が行われるわけですが、下の表が示すとおり、65歳未満の場合には60万円以下、65歳以上の場合には110万円以下であれば、その所得額はゼロとなります。
<公的年金等に係る雑所得の速算表>
国税庁「タックスアンサー No.1600 公的年金等の課税関係」より
つまり、公的年金等については申告すべき所得はないことから、給与の年間収入額が2,000万円を超える場合や、給与所得および退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超えるなどといったケースを除けば、確定申告は不要です。
「確定申告不要制度」の対象でも申告をすれば税金が戻ってくる
確定申告をしなければならないケースがある一方、「確定申告不要制度」の適用要件を満たしていたとしても、次のようなケースではあえて確定申告(還付申告)を行うことで税金が戻ってくることがあります。なお、還付申告は、翌年1月1日から5年間(2024年分は2025年1月1日から2029年12月31日)可能です。
●確定申告をした方がよいケース(1):扶養親族等申告書を提出していなかった
源泉徴収対象(65歳未満:108万円、65歳以上:158万円)の年金受給者に毎年届く「扶養親族等申告書」。この申告書を提出することで、配偶者控除や扶養控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除といった各種控除額が、源泉徴収の段階で適用されます。扶養親族等申告書を提出していない人は、家計の実態よりも税金を払いすぎていることが考えられるので、還付申告で精算しましょう。
●確定申告をした方がよいケース(2):年の途中で退職し、再就職をしなかった
年金をもらいながら働く人も、いずれは完全リタイアする時期がやってきます。例えば年初に退職して給与所得の額が20万円以下になる場合、これまで見てきたように公的年金等収入の額が400万円以下であれば確定申告は不要です。しかしながら、給与から源泉徴収された分を精算する機会がないままとなってしまうので、申告をして納めすぎている税金を取り戻しましょう。
●確定申告をした方がよいケース(3):医療費が多くかかった
1年間で支払った医療費から保険金などで補てんされる金額を差し引いて10万円(総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%)を超えていると、その超えた分を所得から控除(医療費控除)できます。生計をともにする家族や親族のために支払った医療費も対象となるので、領収書等を今一度確認しましょう。
●確定申告をした方がよいケース(4):社会保険料や生命保険料などを支払った
介護保険料や国民健康保険料(税)、後期高齢者医療保険料は、通常年金から天引きされる形で徴収が行われています(特別徴収)。もし特別徴収されていない社会保険料や、家族の社会保険料を支払っている場合には還付申告での精算が必要です。
その他、生命保険料控除(最大合計12万円)や地震保険料控除(最大5万円)の対象となる保険料を支払っている人も、忘れずに申告しましょう。
●確定申告をした方がよいケース(5):ふるさと納税などの寄付を行った
ふるさと納税による地方自治体への寄付、その他国や特定公益増進法人などに対して寄付を行いたいと考えている人も多いはずです。これらの「特定寄付金」については、「年間の寄付金額」もしくは「総所得金額×40%」のいずれか少ない金額から2,000円を差し引いた金額を、「寄付金控除」として所得から控除できるので、申告の準備をしておきましょう。
なお、年金受給者も、ふるさと納税の「ワンストップ特例制度」が利用可能です。ただし、これまで紹介してきた医療費控除などを申告する場合には、ワンストップ特例制度が無効となる点に注意してください。その他の理由も含めて、ワンストップ特例制度の要件を満たさなくなった場合には申告が必要となります。
●確定申告をした方がよいケース(6):災害や盗難などの被害に遭った
生活に通常必要な資産が災害や盗難、横領の被害に遭った場合に適用できるのが、「雑損控除」です。「(損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の金額)-(総所得金額×10%)」もしくは「(災害関連支出の金額-保険金等の金額)-5万円」のいずれか多い方の金額を、所得から控除することができるので、忘れずに申告しましょう。所得金額から控除しきれない場合には翌年以後3年間繰り越すことができます。
●確定申告をした方がよいケース(7):住宅の取得・リフォームを行った
住宅ローンを利用して住宅の新築・購入、リフォームを行うと、住宅ローン控除による減税が受けられることは、みなさんもご存知のとおりです。さらに、住宅ローンを利用しない場合でも、省エネ改修や耐震改修、バリアフリー改修、多世帯同居改修など一定の条件を満たすリフォームで税額控除を受けることができます。それぞれの控除で細かく定められている適用要件や申告書の添付書類にも注意しながら、申告の準備を進めましょう。
所得税の確定申告は不要でも住民税の申告が必要なケースがある
所得税(復興特別所得税を含む)の確定申告を行った場合、そのデータは税務署から各地方公共団体に送信されるため、改めて住民税の確定申告を行う必要はありません。一方で、「確定申告不要制度」によって所得税等の確定申告を行わない年金受給者については、住民税側での申告が必要になる場合があります。住民税の申告について分からないことがあれば、お住まいの市区町村に相談しましょう。
●住民税の申告が必要なケース①:源泉徴収票に記載されている以外の控除を受ける
公的年金等に係る雑所得のみがある人で、「公的年金等の源泉徴収票」に記載されている控除(社会保険料控除や配偶者控除、扶養控除、基礎控除等)以外の各種控除の適用を受ける場合には、住民税の申告が必要です。例えば、医療費控除の適用を受けたい場合、確定申告(還付申告)を行うことで所得税の軽減となります。先に所得税の申告をしていれば、住民税の申告が発生することはありません。
●住民税の申告が必要なケース②:「公的年金等に係る雑所得」以外の所得があるとき
所得税の確定申告においては、「公的年金等に係る雑所得」以外の所得が20万円を超えていないかがポイントでした。例えば、公的年金等収入が200万円で、その他の収入が給与収入70万円のみとしましょう。この場合、給与所得は15万円(70万円-給与所得控除55万円)となることから、所得税の確定申告は不要です。一方、「公的年金等に係る雑所得」以外の所得があるかどうかを問われる住民税については、申告を行わなければなりません。つまり、年金をもらいながら働いている場合には、所得税の確定申告は不要でも、住民税の申告が生じる可能性がより高くなる点に注意してください。なお、このケースにおいても、所得税の還付を受けるために確定申告を行っていれば住民税の申告は不要です。
スケジュールに余裕をもって確定申告の準備を始めよう
今回は、年金をもらいながら働く人が、所得税の確定申告が必要かどうかを判断する3つのステップを紹介しました。多くのケースでは確定申告が必要となりますが、必要でなくても「確定申告をしたらお得」なケースもあるなど、個人や家庭の状況によって判断に迷うところもあるはずです。分からないことがあれば、まずは税理士や税務署に相談するようにしましょう。確定申告の時期を中心に、税理士会や税務署、自治体等による無料相談会も全国各地で開催されています。これらの機会も活用しながら、スケジュールに余裕をもって申告の準備を始めてみませんか。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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