21/08/28
定年後に住む場所の違いで、年金の手取りが月1万円以上の差に
老後に受け取る老齢年金。額面の老齢年金が同じでも、住んでいる場所によって年金の手取りが異なるということはあまり知られていません。今回は、住む場所によって年金の手取りが変わる理由をご紹介します。「税金のせい」ではありませんよ。
振り込まれている年金は「額面」ではなく「手取り」
老後のライフプランを考える上では、老齢年金の金額を手取りベースで把握しておくことはとても大切です。50代にもなると、自分の将来の年金受給額に関心を持つ方が多くなります。年金受給額の把握には、誕生月に毎年送られてくるねんきん定期便が非常に役立ちます。
しかし、いざ公的年金を受け取り始めると「思ったよりも少ない」と感じる方が多いようです。なぜなら、ねんきん定期便に記載されている金額は、手取り額ではなく額面だから。年金収入にかかる税金や社会保険料が反映されていないためです。
●年金の手取り額のイメージ
筆者作成
老齢年金から天引きされるのは、「所得税」「住民税」「国民健康保険料(後期高齢者医療保険料)」「介護保険料」です。
医療保険料は、75歳未満なら「国民健康保険料」、75歳以上なら「後期高齢者医療保険料」が天引きされます。
つまり、年金からは4つもの税や保険料が引かれた上で、やっと手元に届いているのです。この仕組みは、会社員時代の給与の「額面」と「手取り」の関係と同じです。「額面」の金額を聞いて喜んでいると、いろいろと引かれた「手取り」の金額が、思った以上に少なく感じたという経験がある人は多いでしょう。
住んでいる場所によって変わるのは、税金ではなく社会保険料
年金の手取りが住んでいる場所によって変わるのは「住民税の金額が違うから」と勘違いされている方も多いのですが、税金(所得税・住民税)は、どこに住んでいても基本的な計算方法は同じです。地域による差はほとんどありません。
住んでいる場所によって金額が変わるのは、社会保険料の「国民健康保険料(後期高齢者医療保険料)」「介護保険料」です。
たとえば、国民健康保険の保険料が高い自治体と安い自治体を比べると、以下のようになります。
●国民健康保険の保険料が安い自治体ベスト5
●国民健康保険の保険料が高い自治体ベスト5
厚生労働省「市町村国民健康保険における保険料の地域差分析」(平成29年度)より筆者作成
全国で最も国民健康保険料が安い自治体は、東京都御蔵島村でした。最も高い北海道天塩町との金額差は年間13万4636円で3.4倍もの開きがあります。月額に換算したら、単純計算で約1.1万円も年金の手取りが変わってくるということになります。
住んでいる自治体によって社会保険料が異なる理由
このように住んでいる自治体によって社会保険料が異なる理由はどうしてでしょうか。こちらも国民健康保険料を例に挙げて説明しましょう。
「国民」という名称からは国が運営しているような印象を受けますが、国民健康保険料の運営主体は都道府県となっています。もともとは自治体(市区町村)が運営を担ってきましたが、2018年4月からは運営主体が都道府県に変わりました。
各自治体が保険料の決定・徴収と給付を行う役割は変わっていませんが、国民健康保険の事業に必要な費用として、都道府県が「分担額」を自治体に割り振る方式となっています。この「分担額」は、各自治体の年齢構成を元にその地域が必要とする医療費をあらかじめ見積もり、加入者数で割ることで決まります。そしてここから、各自治体が負担すべき保険料が決定されます。ですから、自治体によって金額の差が生じるというわけです。
各自治体の保険料格差を是正しようという動きもありますが、各自治体の財政状況等による影響も大きく、同じ都道府県でも自治体によって保険料が異なってしまうのが現状です。
まとめ
このように同じ都道府県に住んでいても住む地域が違うと社会保険料の負担が異なるため老齢年金の手取りに格差が生まれるということが分かりました。地域はもちろん年度によっても保険料の計算方法や料率が異なりますので、気になる方は自治体のホームページなどで予想される年金額を元に一度試算してみることをおすすめします。地方移住にあたっては、都道府県だけでなく自治体レベルで保険料を確認しておくことで、社会保険料に関する出費を抑えることができるかもしれませんね。
【関連記事もチェック】
・国民年金を月6万円以上もらえていない人はけっこういる
・年金の手取り額が増える! 9月に届く「扶養親族等申告書」は忘れずに提出を
・60歳以降も働いたら年金はどのくらい増えるか、早見表で簡単チェック
・年金がプラスされる「加給年金」繰上げ・繰下げ受給のときは要注意
・厚生年金の支給開始年齢は原則65歳! 今後引き上げられる可能性はある?
KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう