21/06/12
100歳まで生きたら、年金はいくら受け取れる? 繰り下げ受給との差は2200万円に
人生100年時代という言葉をテレビや新聞などで耳にする機会が多くなっています。日本では、長生きする確率が年々高くなっているためです。100歳まで生きるなんて考えられない!と思う方も多いかと思いますが、医療の進歩で、思っていた以上に長生きするかもしれません。今回は、100歳まで生きた場合に備えて、お金の寿命を伸ばす方法をご紹介します。
「100歳まで生きる」が当たり前の時代に
今後の日本では男性は4人に1人、女性は2人に1人が90歳まで生きるといわれています。また、厚生労働省の資料によれば、1990年生まれ(2055年に65歳)の女性では、5人に1人の確率の20%が100歳まで生きるというデータもあります。
●将来100歳まで生きる女性は5人に1人!
厚生労働省「第5回社会保障審議会資料」より筆者作成
なお、日本の将来推計人口(2017年)によると、2065年の平均寿命は、男性84.95歳、女性91.35歳とのことです。現在(男性81.41歳、女性87.45歳)より約4年伸長するとの推計データもあります。「100歳まで生きる」が当たり前の時代が到来しつつあることは確かです。自分の残りの人生を現在の平均寿命までと考えている人は多いかもしれませんが、今後は想定よりも長生きすると考えておきましょう。
長くなったセカンドライフの資金=1億円?
さらに人生 100年時代ともなると、65歳で退職したとすれば、35年間もの長い間セカンドライフを送ることになります。長生きすることは喜ばしいことですが、セカンドライフの資金を今まで以上に貯めておく必要があります。貯金が底をついてから後悔しては遅すぎますので、人生は長いという心づもりで準備をしておくほうがよいでしょう。
では、100歳まで生きる場合、いくらあれば足りるのでしょう。2019年総務省の家計調査では、高齢夫婦無職世帯の1ヶ月の生活費は、約24万円(年間288万円)となっています。つまり、100歳までセカンドライフが35年あるとすれば、非常にざっくりとした計算ではありますが「288万円×35年」で約1億円も必要となってくるのです。
お金の寿命を伸ばす方法
約1億円ものお金が必要と聞いてびっくりされた方もいるかと思いますが、公的年金でまかなえる部分が大きくなればなるほど自己資金は少なくすみます。反対に、公的年金だけでは毎月の生活費を補えないとなると、今まで貯めたお金を少しずつ取り崩すことになるでしょう。このような場合、人生100年時代では、いつか生死の寿命よりもお金の寿命が先に尽きてしまう可能性があります。これを「長生きリスク」と呼んでいます。では、この長生きリスクにどう備えるべきでしょうか。
その答えの一つが、65歳以降も働きつつ、年金の繰り下げ受給という仕組みでお金の寿命を伸ばす方法です。
現在、65歳から受給できる老齢基礎年金や老齢厚生年金は、現在60歳まで早められる繰り上げと、70歳まで遅らせる繰り下げが可能です。繰り上げを選択すると年金額は1ヶ月毎に0.5%ずつ減り、繰り下げれば0.7%ずつ増やすことができます。
2022年4月以降は法改正があり、繰り上げの減額率は0.4%に縮まる一方、繰り下げは増額率はそのままに開始年齢を最長75歳まで選べるようになります。
早く資金が必要な人にとっては、繰り上げも選択肢となるものの、長生きリスクに備えるといった意味では、やはり繰り下げ受給が有効な手段となります。
繰下げ受給で公的年金を手厚くするとその差は2200万円にも
では、繰下げ受給を選択した場合としなかった場合とでは、どのくらい金額が変わってくるのでしょうか。以下の資料は、「100歳まで生きる」と仮定して、年金の総額をシミュレーションしたものになります。38年間会社員だった人の公的年金のモデル収入は、約200万円前後(老齢厚生年金と基礎年金の合計)であることから、表に記載の年金収入は、65歳時点での年金受給額(額面)は200万円で試算しました。
●60歳・65歳・70歳・75歳の100歳までの年金受給額
例えば、元の年金額が200万円だった人が75歳まで繰り下げると、年金額は額面で84%増額され、368万円となります。75歳以降、この金額が終身で一生もらえるのですから、100歳まで生きるとすれば、総額9200万円にもなります。これは、非常に安心感があります。さきほど先述した高齢夫婦無職世帯の1ヶ月の生活費は、約24万円(年間288万円)でしたから、75歳以降は公的年金だけで十分まかなえる水準で、突然の出費や多少の贅沢もできるゆとりのあるセカンドライフが送れることでしょう。
このように年金が多いのであれば、長生きリスクを次のイメージで抑えることができます。
●長生きリスクに対応するお金のイメージ
65歳から受け取る場合、年金だけでは不足する部分を、自己資金を取り崩しながら生活していると、いつか自己資金が底をつくかもしれません。これが長生きリスクです。しかし、75歳まで年金を繰り下げ受給する場合、なるべく長く働いたり、自己資金を取り崩したりして繰り下げ受給できれば、あとは増えた年金を受け取って生活できるので、長生きリスクを抑えられるというわけです。
75歳までといわないまでも、65歳で退職した後も、別の形で働きつづけたいと考える方は多いでしょう。1年でも2年でも長く自分で働いて一定の収入を得られれば、公的年金は必ずしも65歳から受給する必要はありません。万が一、早く死亡した場合、年金が受け取れないというリスクはありますが、長生きする時代を見据えて、少しでも長く働き、公的年金をしっかり増やしておくことは、セカンドライフの非常に心強い支えとなるでしょう。
まとめ
現在、年金の繰り下げ受給を選択する人は全体の受給者数の1%前後に過ぎません。国としてはさらなる活用を後押しするため、より使いやすく柔軟な制度へ法改正(2022年4月以降)が行われます。
しかしながら、年間所得が多くなる分、社会保険料の負担も大きくなるなど課題も残ります。その際は、社会保険に加入できる範囲で就労を続けることで、社会保険料を比較的安く抑えたりすることも可能ですので、社会保険労務士やファイナンシャルプランナーなどのお金の専門家に相談するのもよいでしょう。
人の寿命は誰にも分かりませんが、100年まで安心した老後生活を送りたいと思う方は、健康が続く限りなるべく長く働き続け、公的年金を繰下げするのも賢い選択肢となるはずです。
【関連記事もチェック】
・知っていると必ず得する「年金10の豆知識」
・年金の加入記録は間違っている場合がある? 年金受け取り前にすべき3つの確認
・高年収でも安心できない、注意すべき年金3つのポイント
・iDeCo・企業型確定拠出年金で決して選んではいけない4商品
・60歳以降働くなら、最低限覚えておくべき年金・給付金5つの知識
KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう