21/04/07
老齢年金・障害年金・遺族年金は同時に受け取れる? 年金併給の注意点
20歳から60歳まで年金を納付して、65歳から老齢年金を受け取るのが一般的に知られている年金のイメージです。しかし、年金は老齢年金だけでなく、障害年金や遺族年金もあります。では、すでに障害年金や遺族年金を受給している方が、65歳になって老齢年金の受給資格を得た場合、自分の老齢年金はもらえるのでしょうか?
今回は、別の支給事由の年金を受け取る「年金の併給」の考え方から実際の手続きの注意点まで、確認していきましょう。
65歳まで年金は1つしか受給できない
日本の公的年金には、受給する人が65歳までの間は支給事由が異なる年金を1つしか受給できないという「1人1年金」の原則があります。老齢・障害・遺族年金は、その支給事由がそれぞれ違うため、基本的には1つしか受給できません。
支給事由が同じであれば、国民年金と厚生年金は同時に受給できます。つまり、「老齢基礎年金と老齢厚生年金」、「障害基礎年金と障害厚生年金」「遺族基礎年金と遺族厚生年金」は1つの年金として、合わせて受給できます。
●3つの年金の受給パターン(原則)
この組み合わせ以外で年金を受け取るときは、支給事由が異なります。したがって、2つ以上の年金の受給資格がある場合は、その内の1つの年金を選択する必要があります。
例えば、障害基礎年金を受けている方(Aさんとします)の配偶者が亡くなった時のケースを見てみましょう。Aさんは配偶者の遺族年金の受給権を得ます。しかしながらこの時Aさんが65歳未満であった場合、自分が受けている障害基礎年金か、配偶者の遺族厚生年金・基礎年金のどちらかを選んで受給することになります。もちろん受給金額の高い方を選ぶことが可能です。
●障害基礎年金を受けている方(65歳未満)の配偶者が亡くなった時のケース
2つ以上の年金を合わせて受給できる特例あり
しかし、例外もあります。2つ以上の年金について受給資格のある方が65歳になると、支給事由の異なる2つの年金を組み合わせて受給することができるようになるのです。これを「年金の併給」といいます。
●障害年金の受給資格のある方が65歳になると…
併給が可能な組み合わせパターンは?
この併給制度を理解すれば、いざというときに自分にとって有利な組み合わせを選ぶことができます。組み合わせることができるのは、当然のことながら受給権があるものだけに限られますが、以下の3つのパターンであれば、併給が可能です。
●併給が可能な年金の組み合わせパターン
・パターン1.老齢基礎年金と遺族厚生年金の併給
65歳になって、老齢基礎年金に合わせて老齢厚生年金を受給できる方は、まずご自身の老齢厚生年金を受給し、遺族厚生年金は、老齢厚生年金より額が高い場合にその差額を受給するという形になります。つまり、遺族厚生年金の額がご自身の老齢厚生年金の額より多い場合は、実質的に老齢基礎年金分が増えることになります。
・パターン2.障害基礎年金と老齢厚生年金の併給
障害基礎年金を受給している方が、65歳以降に老齢年金を受け取る際、この組み合わせで受給されるケースが多いようです。その理由は、老齢基礎年金は、未納や免除期間により減額されるのに対し、障害基礎年金は受給額が一定、増額もあることに加え、非課税となるので、受給額は有利になるためです。
・パターン3.障害基礎年金と遺族厚生年金の併給
障害基礎年金を受給している方が、65歳以降に老齢厚生年金と遺族厚生年金の受給権を得たケースです。ケースとしては少ないかもしれませんが、金額が一番高くなりうるのはこの併給パターンです。
有利な組み合わせを選ぶ3つのポイント
年金受給の最適な組み合わせは、人により変わります。したがって、受給金額や、課税対象かどうかを考慮して組み合わせ方を選ぶことがポイントです。
下記の図のように、厚生年金部分は「①算出期間の長さ」、基礎年金部分は「②受給額が一定か、減額があるか」「③課税か非課税か」が有利・不利の選択のポイントとなります。
●併給する年金を選択する際のポイント
たとえば、障害基礎年金と老齢厚生年金の併給は、一般的に
・厚生年金部分…老齢厚生年金のほうが、年金額の算出期間が長いため有利
・基礎年金部分…障害基礎年金のほうが、受給額が一定で減額もなく非課税で有利
になることが多いため、この組み合わせで受給される方が多い、というわけです。
もちろん組み合わせず、1つの年金だけ受給することもできます。
老齢年金の受給および年金選択の手続き方法と注意点は?
老齢年金の受給手続きは、65歳の誕生月の約3ヶ月前に、日本年金機構または共済組合等から届く「年金請求書」に必要事項を記入して、65歳の誕生日の前日以降に提出します。ですが、このように年金の併給を選択するときには、「年金受給選択申出書」を提出する必要があります。また、選択する年金により他に添付する書類等の準備が必要になることもあります。これらの手続きの提出先は、お近くの「年金事務所」または「街角の年金相談センター」になります。
特に注意したい点は、手続きの時期です。年金の併給を選択した場合、年金の受け取り始めるのは、手続きの翌月分からとなり、原則としてさかのぼって手続きを行うことはできません。そのため異なる2つ以上の年金を受け取れるようになった場合は、早めに届け出をするようにしてください。
実際に組み合わせを選んで手続きできるのは65歳になってからですが、各年金の受給額については、事前にお近くの年金事務所の窓口で詳細に確認することができます。判断に迷われる方は65歳の誕生日の3か月前には年金事務所で受給についてあらかじめ相談しておくことをおすすめします。
まとめ
今回の記事では、以下のことについて詳しくお伝えしました。
・公的年金は、「1人1年金」が原則であり、老齢・障害・遺族年金のうち2つ以上の年金が受けられるようになった場合には、いずれか1つの年金を本人が選択する
・同じ事由で支給される基礎年金と厚生年金は1つの年金とみなされる
・支給事由が異なる年金でも、65歳になったら併給される場合がある
今回のケースはあくまでも参考例となります。65歳以降に受け取れる年金は、その人のそれまでの納付状況によって大きく変わるため、どの組み合わせが有利かは一概に言えません。とはいえ、今のうちから「老齢」「障害」「遺族」それぞれの年金の特徴を理解しておくと、いざというときにより良い選択ができると思います。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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