20/10/04
未納期間がある人必読! 年金の「経過的加算」でもらえる金額を増やすテクニック
国民年金・厚生年金加入中の人には、毎年誕生月(1日生まれの人はその前月)に「ねんきん定期便」が届きます。ねんきん定期便には、50歳以上になると、老齢年金の種類ごとに将来の受給見込額が表示されます。その中で、65歳以降の老齢厚生年金の内訳として「経過的加算額」というものが表示されていることがあります。金額は人によってもちろん違いますが、それほど大きな金額ではないことが多いです。
そんな理由から、ついつい見過ごされがちな項目ではありますが、人によってはこの経過的加算の仕組みを知っておくとよりおトクな選択ができる方がいます。
今回はこの経過的加算について、わかりやすくご説明したいと思います
経過的加算は「もうひとつの老齢厚生年金」
経過的加算を理解するために、簡単に年金制度をおさらいしたいと思います。
【資料1】厚生年金に加入した方の65歳以降の老齢年金のイメージ
65歳以降の老齢年金は【資料1】のとおりで、まず、国民年金から老齢基礎年金が支給されます。国民年金に20歳から60歳まで加入し、40年(480月)の保険料の納付期間があれば、満額の781,700円(令和2年度の場合)が受けられることになります。納付期間には、国民年金第1号被保険者として月額(令和2年度:16,540円)の国民年金保険料を納付した期間だけでなく、厚生年金被保険者(国民年金では第2号被保険者期間)として厚生年金保険料を負担した期間や扶養に入っていた期間(国民年金第3号被保険者期間)も含まれます。
一方、厚生年金からは老齢厚生年金が支給されます。
このうち、報酬比例部分は厚生年金加入中の給与や賞与の額に応じて計算されることとなっています。厚生年金加入が長く、給与や賞与が高ければ厚生年金保険料も多く負担する一方、その分受け取る年金も多くなる仕組みとなっています。こちらが老齢厚生年金の本体とも言える部分です。
そして、報酬比例部分以外の、もうひとつの老齢厚生年金が経過的加算額です。
経過的加算の正体は老齢基礎年金に「反映されない」部分
経過的加算額を理解するには、国民年金と厚生年金の制度の違いがポイントです。
国民年金と厚生年金の加入期間を比較してみましょう。
【資料2】年金制度と加入期間の比較
前述したように国民年金は原則20歳から60歳までの40年間加入します。これは逆に言うと、20歳前60歳以降は納付義務ではない期間ということができます。
一方、厚生年金は就職すれば義務教育終了後から加入ができて、最高70歳まで加入ができるのです。つまり、20歳前でも60歳以降でも加入ができる年金制度が厚生年金ということになります。
厚生年金には、国民年金が含まれています。会社員は厚生年金の保険料と一緒に国民年金の保険料も払っています。ところが、20歳前と60歳以降は「国民年金の納付義務ではない期間」です。つまり、この期間に厚生年金に加入していたとしても国民年金の加入期間には算入されず、老齢基礎年金にも反映されないのです。
会社員の方からしたら、せっかく厚生年金を払っているのに、老齢基礎年金に反映されないのは損ですよね。この損になってしまう部分を解消するために設定されたのが経過的加算という考え方なのです。
20歳前、60歳以降に厚生年金加入期間を増やすと経過的加算も増える!
経過的加算は、一言で言えば、「増えない老齢基礎年金の穴埋めを行う年金」ということができます。
例えば、20歳から60歳まで会社員で働いた場合、将来もらう老齢厚生年金の報酬比例部分と老齢基礎年金は「増える」ということになりますが、60歳以降も会社員として働いた場合は、老齢厚生年金の報酬比例部分は「増える」けど、老齢基礎年金の部分は「増えない」という仕組みになっているのです。 どうしてそうなるかというと、60歳以降は国民年金の納付義務ではないという制度の大前提があるからです。
ですが、そうなるとやはり不公平が出るので、この増えない老齢基礎年金の代わりとして厚生年金から経過的加算という名前で年金額が加算されるという仕組みになっているのです。ちなみに、20歳前に会社員として働いた場合も同じということになります。
【資料3】厚生年金保険料が反映される年金
ここで注意していただきたいのが、20歳から60歳まで国民年金を40年間しっかりと納めてきた方は対象外ということです。老齢基礎年金は満額で最高40年分が限度です。ですから、それを満たしている人は、60歳以降に働いても経過的加算がもらえるということではありませんのでご注意ください。
経過的加算として計算される年金額は、国民年金として計算される老齢基礎年金の金額とほぼ同じです。両方とも1年間の加入で、年間約2万円が増えるイメージです。例として、もしも22歳で就職して60歳まで働いていた場合は厚生年金加入期間が38年となりますが、60歳から頑張ってあと2年間会社で働き、厚生年金に加入すれば経過的加算として年間約4万円を増やすことができるのです。
これは、老齢基礎年金との差額を補填するものなので老齢厚生年金に加算され、支給開始は65歳からです。そして、その後は、経過的加算として年間約4万円が終身で上乗せされるということですます。これは、かなりありがたいですよね。
なお、60歳以降もどんどん会社で働いて厚生年金に加入し続ければ、その期間に応じて経過的加算もどんどん増えていくのでは?と考えた方もいると思います。ですが、残念ながら厚生年金の加入期間が通算40年になると、経過的加算はそれ以上増えなくなります。もちろん老齢厚生年金の報酬比例部分は増えますが、経過的加算は40年の加入期間が限度ということは覚えておきたいところです。
学生納付特例制度を使って国民年金の納付を免除してもらった期間の扱いは?
学生納付特例制度を使って国民年金の納付を免除してもらった期間の扱いはどうなるのでしょうか。もしかしたら「20歳から22歳までの間で学生納付特例制度を使って国民年金の納付を免除してもらった期間があり、厚生年金と通算すると40年を満たす場合は、経過的加算を増やすことができないのでは?」という不安を覚える方もいることでしょう。
しかし、この場合でも経過的加算を増やすことが可能です。例えば、20歳から22歳までの学生である2年間は国民年金に加入し、22歳から60歳までの38年間を厚生年金に加入していた場合、国民年金の加入期間は確かに40年間になっているのですが、経過的加算は厚生年金の額に加算される「厚生年金側の制度」のため、60歳以降も厚生年金に加入することで2年間だけは経過的加算を増やすことが可能なのです。
したがって、大卒者でも60歳以降も働き、厚生年金に40年以上加入すれば、老齢基礎年金と経過的加算を合計して、結局は満額の老齢基礎年金の額になるということです。見方を変えれば、60歳以降、厚生年金加入期間が40年に達するまでは、年金は老齢厚生年金の本体(報酬比例部分)と経過的加算がダブルで増えるということです。
まとめ
いかがだったでしょうか。年金制度は複雑で理解しづらい部分がありますが、簡単にまとめると「厚生年金の加入期間が40年に満たない人が60歳以降(または20歳前)に厚生年金に加入することで、増やすことができる(1年間の加入で約2万円増やせる)仕組み」が経過的加算といえるでしょう。
経過的加算は、報酬比例部分と性質が異なり、給与や賞与の額に応じてその受給額が決まる年金ではありませんが、厚生年金加入月数によっては受給額が変わってきます。これは大学出の多くの方が年金を増やすテクニックになるので、該当する方は知っておいて損はない制度です。今後も制度として残ることが予想されますので、どういう仕組みなのか含めてご理解いただけたら幸いです。
【関連記事もチェック】
・9月から厚生年金保険料増額 手取りが減るのはどんな人?
・学生時代の年金保険料未払いはヤバい! 年金額が10万円近く減る
・年金が減額になる「繰上げ受給」、あえて繰上げ受給すべきなのはどんな人?
・年金貧乏になる3つの理由と対策
・国民年金・厚生年金は実際いくらもらっている? 平均や分布はどうなっているのか
KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう