24/11/27
国民健康保険料3万円上限引き上げ!手取りが減るのはどんな世帯?【4年連続の引き上げ】
厚生労働省は、2025年度(令和7年度)から国民健康保険料の年間上限額を現行より3万円引き上げる方針を発表しました。国民健康保険料上限の引き上げは4年連続。これにより手取り収入が減少する可能性のある世帯が出てきます。
あらゆるものの値上げラッシュが続く中、今回の国民健康保険料の年間上限額が引き上げられるというニュースは、またしても生活を圧迫することになるのではないかと不安を感じる方も多いのではないでしょうか。ただ、すべての人の国民健康保険料が引き上げられるわけではありません。
今回は、この引き上げの背景や対象について解説し、高すぎる保険料負担の節約テクニックについても紹介します。
国民健康保険料の決まり方
国民健康保険は、職場の健康保険に被扶養者として加入していない方などが加入する健康保険です。例えば、最近増加傾向にあるフリーランスの方やお店などを経営する自営業の方、また従業員であってもパートやアルバイトなどで一定以上の収入がある方が加入しています。
国民健康保険料は、下の図のように「医療分」「後期高齢者支援金分」「介護分」の3つの区分から構成されて、加入者の所得や、世帯人数を基に計算されています。
<国民健康保険料の計算式>
筆者作成
「医療分」→国民健康保険加入者の医療費用の保険料
「後期高齢者支援金分」→後期高齢者医療制度(75歳以上の医療制度)のための費用
「介護分」→介護保険制度のための費用
「医療分」「後期高齢者支援金分」はすべての加入世帯でもれなくかかり、「介護分」は40歳~64歳の加入者にだけかかります。
国民健康保険料は「支払い能力」に応じて決まる
国民健康保険料は保険制度の円滑な運営のため、加入者の「支払い能力」に応じて、公平に決める必要があるとされています。上の計算式のとおり、保険料の各区分には「所得割」と「均等割」があります。そのうち「所得割」が被保険者の「支払い能力」により金額が決まってくる部分です。
各自治体によって適用する保険料率は異なるため、市区町村が、加入者の国民健康保険料の年間金額(その年の4月~3月に支払う保険料の合計)を決定し通知します。
例えば、東京都大田区の2025年度(令和6年度)の保険料率や所得割額・均等割額は以下のとおりとなっています。
<東京都大田区の所得割額・均等割額>
東京都大田区ホームページ「国民健康保険料計算方法」より
国民健康保険料の年間上限額の見直しとは
国民健康保険料は支払い能力(所得)に応じて公平に負担する仕組みとはいえ、そこまで医療機関を利用していないのに「前年度の収入がたまたま多かった」ために高すぎる保険料を負担させられてしまうのはおかしな話です。そのため、所得が一定金額を超えてくると保険料の上限額に達し、それ以上保険料は増加しない仕組みがあります。
具体的には、国民健康保険料は区分ごとに世帯限度額が設けられ、各区分の合計額が世帯限度額以上になる場合は世帯限度額を優先することになっています。
<国民健康保険料の世帯限度額(東京都大田区の場合)>
東京都大田区ホームページ「国民健康保険料計算方法」より
この国民健康保険料の年間上限額について「見直しをして引き上げましょう」というのが、今回の政府の方針で決定されたことです。具体的には、令和7年度の国民健康保険料の年間上限額は以下のように、最大3万円引き上げられ、年間109万円となる方針です。
<賦課(課税)限度額の引上げ(令和7年度)>
厚生労働省「国民健康保険の保険料(税)の賦課(課税)限度額について」より
高所得層の「負担増」で中所得層の負担軽減が狙い
今回の国民健康保険料の年間上限額の引き上げの背景には、急速に進む高齢化による医療費の増大で、国民健康保険の財政が厳しいことにあります。この政策が実施されることで、高齢化社会における医療費の増加に対処し、国民健康保険制度を持続可能なものとすることを目指しています。
国民健康保険制度を支えていくためには、国民健康保険料そのものを引き上げなければなりませんが、全被保険者の国民健康保険料を値上げすることは大きな反発が予想されます。そこで、高所得層の上限負担を引き上げることで、中所得層の負担を少しでも軽減しようというのが、上限額引き上げの狙いです。
つまり、今回の限度額引き上げによる保険料への影響は、特に高所得者の方ほど注意が必要ということがいえます。
保険料が増加するのは単身世帯で年収およそ1170万円以上
今回の見直しにより、来年度から負担が増える高所得世帯はどのような世帯なのでしょうか。上限額を支払うことになるのは、単身世帯で見ると、年収およそ1170万円以上となる見通しです。ただ、厚労省の試算によると、限度額該当世帯の割合は、加入世帯全体の1.5%に過ぎないそうですから、影響は比較的軽微なのかもしれません。
国民健康保険料額は収入や年齢、家族構成によって異なりますので一概には言えませんが、上記の厚生労働省試算の前提条件では、2022年度(令和4年度)の保険料率を適用していますので、来年度の保険料率によっては、年収1170万円前後のが引き上げ後の上限金額が適用される可能性もあります。年収1170万円ボーダー付近の方は今後の動きに注目しておきましょう。
高すぎる保険料負担の節約テクニック4選
今回対象にはならなかった世帯でも、社会保険料の負担増加は大きな問題と感じている方が多いのではないでしょうか。今回、国民健康保険料負担の節約について、対策を立てる必要があると感じている方に向けて、実行しやすい節約テクニックを4つご紹介します。
●①世帯を1つにまとめる
まず最初の節約テクニックは、「世帯を1つにまとめる」ことです。一部の市区町村では、国民健康保険料に「平等割額」と呼ばれる固定的な金額が加算されています。この平等割額は、1世帯ごとにかかるため、同じ家に住んでいる家族でも世帯が分かれている場合、それぞれに平等割額が加算されることになります。
例えば、親世代と子世代が同居している場合でも、それぞれが別世帯として国民健康保険に加入していると、それぞれに平等割額がかかり、保険料の負担が増える可能性があります。そこで、同居家族がいる場合は、世帯を1つにまとめて国民健康保険に加入することで、平等割額が1世帯分で済み、保険料の負担が軽減されるのです。
もちろん、世帯をまとめることで税金や他の社会保障に影響が出る場合もあるため、住民票の変更手続きと合わせて確認が必要です。しかし、平等割額を抑えられる自治体では、特に効果的な節約方法です。
●②保険料の安い市区町村へ引っ越す
次に「保険料の安い市区町村へ引っ越す」という方法も有効です。国民健康保険料は市区町村ごとに設定されるため、住む場所によって大きな違いが生じます。実際、全国の自治体で最も保険料が高い地域と安い地域では、同じ所得であっても2倍以上の保険料差があることもありますので、場合によっては年間で数十万円もの保険料節約が可能になるかもしれません。
引っ越しといってもそう簡単にできるものではありませんが、引っ越しを検討中の方や柔軟に住む場所を変えられる環境の方には、大きな節約効果が期待できる手段です。引っ越しにかかる費用と、長期的な保険料負担の軽減を比較し、特に家族世帯で保険料負担が重い場合は検討してみる価値があります。
例えば、保険料が高い都市部から少し郊外に住居を移すことで、生活コストも含めた全体的な支出の見直しが可能になることもあります。自分の住む自治体の保険料と、引っ越し候補地の保険料を比較し、年間でどれほどの節約ができるのかを具体的に計算すると、判断がしやすくなるでしょう。
●③電子マネーのnanacoを利用する
「電子マネーのnanacoを利用する」ことも、保険料負担の軽減につながる節約術の一つです。セブンイレブンが提供する電子マネーであるnanacoは、国民健康保険料の支払いにも利用可能です。さらに、nanacoにクレジットカードでチャージしておくと、カードのポイントが貯まります。
ただし、どのクレジットカードでも利用できるわけではなく、セブンカード系列のクレジットカードに限定されています。この方法は、大きな割引にはつながらないものの、年間の保険料をすべてnanaco経由で支払えば、ポイントの分だけお得になる可能性があります。ポイントが貯まることで、他の買い物や支払いにも利用できるため、少しでも保険料の節約につなげたい方にとっては試してみる価値があるでしょう。
●④確定申告で控除を受ける
最後のテクニックは、「確定申告で控除を受ける」ことです。国民健康保険料をきちんと納付していて所得がある方は、確定申告を行うことで社会保険料控除を受けることができます。これは、所得税や住民税の軽減につながり、結果的に国民健康保険料の負担を軽くする効果があります。
特にフリーランスや自営業の方は、忘れずに確定申告を行い、納付した保険料をしっかりと申告しましょう。控除額が大きければ、年間で数万円以上の節税になる可能性もあります。控除を最大限に活用するためにも、保険料を納めた際の領収書や証明書をしっかりと保管しておくことが大切です。
その他の支援制度も利用しよう
この他にも、国民健康保険には特別な支援制度が設けられています。例えば、失業や倒産によって収入が大幅に減少した場合や、病気やけがで働けなくなった場合には、保険料の減免(免除)を受けることができる制度があります。該当する条件に当てはまるかどうかは自治体ごとに異なるため、該当する場合は市区町村の窓口に相談してみましょう。
保険料の減免制度は、収入の大幅な減少があるときに特に有効です。家計が急変した場合には、遠慮せずに相談することが大切です。国民健康保険料の負担を軽くするためには、日常の工夫とともに、こうした制度の活用も積極的に検討していきましょう。
【関連記事もチェック】
・年金受給者が確定申告で得するためにすべき4つの準備
・59歳までに必ずすべき「定年後」の準備6選
・厚生年金で絶対やってはいけない5つのこと
・国民年金保険料「40年間全額免除」だと、年金はいくらもらえるのか
・年金に6万円上乗せされる「年金生活者支援給付金」はどうすればもらえる?
KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう