20/04/12
オリンピックの延期が景気にほぼ影響しないこれだけの理由
東京オリンピック(五輪)の延期が決まりました。五輪が中止または延期になったら今年の景気への甚大な悪影響があるだろう、と考えていた人も多いでしょうが、筆者は心配していません。現在行われている自粛等の悪影響と比べたら、五輪延期の影響自体は「誤差の範囲」と言っても過言ではないからです。
五輪の経済効果は準備段階が重要
五輪の経済効果は大きいと言われています。それは、筆者もそう思います。しかし、それはスタジアムの建設等々であり、五輪に向けたインフラ整備等々であり、既に終わっているものが大半です。
五輪のチケットは既に完売しており、延期になっても返金されないならば、その部分は景気に影響しないでしょう。五輪観戦の帰りに食事をして帰る人がいないので飲食店が困る、五輪観戦のために地方や海外から来てホテルに泊まる人がいないのでホテルが困る、といった事はあるでしょうが、数万人が数千円の飲食をする予定が20回消えた、数万人が20泊する予定が消えた、といった程度でしょう。
現在、日本中で行われている「1億人が外食も旅行も自粛中」という事の巨大な悪影響と比べれば、誤差の範囲です。
人々が五輪延期の悪影響を過大評価して「五輪延期の景気への悪影響を打ち消すべく景気対策を大幅に拡充しよう」という動きが出てくるとすれば、悪影響と差し引きしてむしろ景気にはプラスに働くといった可能性さえ考えられると思います。
五輪も開催出来ないなら他のイベントも、となるか
「五輪が開催出来ないほど新型コロナの影響が深刻ならば、他のイベントも当然に中止しなければならない」といった雰囲気が醸成されるならば、景気への影響は大きいかも知れません。
もっとも、日本国内の感染拡大が比較的押さえ込まれたまま推移するとすれば、夏頃には「日本国内の問題は概ね収束しているが、海外の罹患者が入国しないように五輪を延期したのだ」という理解が広まるかも知れません。
そうなれば、外国人の入国は制限した上で、日本人だけで日本の中で楽しむイベントは自粛しなくて良い、という事になるかも知れません。
そうであれば、人々は大いにイベントや旅行を楽しむでしょう。自粛疲れをしていた分、夏休みを謳歌しようという人は多いはずですから。そうであれば、自宅で五輪をテレビ観戦する筈だった人が旅行や行楽やイベントに行く事になり、むしろ景気にプラスだ、という事も可能性としては考えられます。
そうなるほど国内の新型コロナが上手に押さえ込まれる事を祈るしかありませんが。
注目度の高さと実際の影響は異なる
五輪は注目度が高いイベントであり、その中止は大きく報道されます。そこで、五輪中止の景気への悪影響も大きいと思われがちですが、そうではない、という事ですね。
似たような事は、頻繁に起きています。飛行機事故は大きく報道されるので、飛行機は怖いと思っている人は多いですが、統計を見ると飛行機は他の乗り物より安全だと言う事がわかります。
大型のイベントが中止になると経済への影響が心配になりますが、実は無数の小さなイベントや飲み会の中止の方が、全部を合計すると遥かに影響が大きかったりします。
新型コロナの恐怖は毎日語られていますが、少なくともこれまでの所、死者数は限定的です。むしろ人々が毎日手を洗ったり感染に気をつけたりするようになったおかげで通常のインフルエンザで死亡する人が例年より遥かに少なくなっており、合計の死亡者数は大幅に減っているのです。
マスコミは、目立つ事や珍しい事を大きく報道しますが、じつは報道されない小さな無数の出来事の方が重要だ、という場合も多いので、気をつけたいものです。
最後になりましたが、新型コロナで亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、闘病中の方の一刻も早い回復をお祈りいたします。また、自粛等々の影響で困難に直面されている数多くの方々にも、お見舞い申し上げます。
なお、本稿はマクロ経済の景気という観点に絞って論じたものです。五輪の開催延期は、スポーツ界にとっては極めて重大な決定でしょうし、大会関係者にとっても極めて深刻な問題が多数生じてくると思いますし、一部のビジネスには深刻な悪影響がある事は理解しておりますが、あしからず。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。
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塚崎 公義 経済評論家
1981年東京大学法学部卒後、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関係の仕事に従事した後、2005年に銀行を退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先とは関係なく個人として行っているため、肩書きは経済評論家と記す。
「退職金貧乏 定年後の『お金』の話」「老後破産しないためのお金の教科書」「増補改訂よくわかる日本経済入門」「世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書」「日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由」など著書多数。
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