24/03/15
65歳以降夫婦世帯が本当に必要な貯蓄額はいくらなのか
65歳以降、老後の生活費がいくらかかるのかは、誰でも気になるものです。老後を迎える前から用意したほうがいいということはわかっていても、いくら用意しても足りないのではないかと心配になってしまうかもしれません。そこで今回は、65歳以上の収入と支出、年金額の平均月額をご紹介するとともに、必要な貯蓄額の目安を試算する方法と今からやっておきたいことをお伝えします。65歳以上の平均的な生活費や年金額を確認して、老後に向けた貯蓄のイメージをしてみましょう。
65歳以上の収入と支出はどれくらい?
会社を定年退職した後、夫婦2人の生活に必要な生活費がどれくらいになるのか、その目安を知っておくと、心構えと事前の準備ができます。そこで65歳以上の夫婦は実際にどれくらいの生活費をかけているのか調べてみました。
<65歳以上で無職の夫婦世帯における収入と支出の平均(2023年)>
総務省統計局「家計調査(家計収支編)」二人以上の世帯のうち無職世帯の「世帯主の年齢階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出(2023年)」より筆者作成
このデータの詳細によると、実収入25万5973円のうち年金収入は19万5732円でした。パートやアルバイトなどで働いたり、家賃収入など収入を得る手段を持っていたりする人もいますが、多くの人にとって65歳以降の収入源は国からもらえる年金です。
ここで注目したいのは支出と可処分所得です。可処分所得とは、収入から税金や社会保険料を引いた所得のことで、いわゆる手取りになります。税金や社会保険料などの非消費支出の3万3248円は年金から天引きされて(年金が年額18万円未満の人は納付書による徴収となります)、手取り額は可処分所得の22万2725円となります。
気づいた方もいると思いますが、年金の手取りは22万2725円なのに、食費や光熱費などの消費支出は25万2928円です。この差額3万203円は貯蓄などの取り崩しをしなければいけないことになります。つまり、老後資金は生活費の不足分を補う重要な財源になるのです。
もらえる年金の平均月額は?
上で紹介したとおり、総務省が公表する家計調査では、2023年の実収入は平均が25万5973円で、このうち年金収入は19万5732円との結果が出ています。しかし、すべての人が同じくらいの年金をもらえるわけではありません。働き方や国民年金保険料を納めた月数などによって年金額は変わります。
ここで年金の平均月額のデータを見てみましょう。こちらは厚生労働省が公表している2022年度のデータです。
●年金月額の平均
○老齢厚生年金
・65歳以上男性の平均月額:16万7388円
・65歳以上女性の平均月額:10万9165円
※上記金額には基礎年金の月額も含む。
○老齢基礎年金:5万6316円
厚生労働省「2022年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より
たとえば、共働き世帯なら、妻が働いた期間にもよりますが、男女別の平均月額で試算すると、夫婦2人の年金額は以下のようになります。
16万7388円+10万9165円=27万6553円
また、専業主婦世帯の場合は以下の通りです。(妻の老齢厚生年金は無いと仮定)
16万7388円+5万6316円=22万3704円
自営業者の場合、夫婦の年金は以下のようになります。
5万6316円+5万6316円=11万2632円
上記はあくまでも2022年度の老齢厚生年金、老齢基礎年金の平均月額から算出したものなので、ご家庭によっては増減があるかもしれません。でも、夫婦の働き方によってもらえる年金額は大きく変わることがわかりますね。
ちなみに、2022年の家計調査(家計収支編)によると、65歳以上無職の夫婦世帯の消費支出は23万8919円でした。この数値と比較すると、共働き夫婦は年金額に余裕があるので、年金収入で生活費は賄えそうですが、専業主婦世帯や自営業者の場合は老後資金の準備を進める必要がありますね。
老後も安定した生活をするために必要な貯蓄額はどれくらい?
老後資金の役割で最も重要なのは、不足する生活費の補てんです。他にも介護費用など見ておきたい費用はありますが、今回は生活費の補てんとしてどれくらいのお金が必要になるのか見ていきます。
生命保険文化センターが実施した「2022年度生活保障に関する調査」では、次のような調査結果が出ています。
・老後の最低日常生活費の平均月額:23.2万円
・老後のゆとりのための上乗せ額の平均月額:14.8万円⇒日常生活費に換算すると、38万円
ここで年金の手取りを22万円として、生活費の不足分を試算してみましょう。
●最低日常生活費の月額が23.2万円の場合
手取り22万円-生活費23.2万円=▲1.2万円
65歳から95歳まで30年間の不足分を試算
不足分1.2万円×12ヶ月×30年=432万円
95歳まで生きると仮定すると、生活費の不足分を補うためには432万円の貯蓄が必要になります。
次に、ゆとりのある老後を送る場合も見てみましょう。
●ゆとりある老後のために必要な生活費の月額が38万円の場合
手取り22万円-生活費38万円=▲16万円
65歳から95歳まで30年間の不足分を試算
不足分16万円×12ヶ月×30年=5,760万円
ゆとりある老後を送りながら95歳まで生きると仮定すると、生活費の不足分を補うのに5,760万円もの貯蓄が必要になるのです。
老後も安定した生活を送るために必要な貯蓄額は、年金収入とライフプランによって大きく変わってきます。老後の生活費として目安となる金額を決めて、「ねんきん定期便」で年金見込額を確認します。生活費の目安と年金見込額の差額を求めて65歳から生きる年数(平均寿命を参考にするとよいです)を掛けると、生活費の補てんに必要な貯蓄額を割り出すことができます。
生活費の不足分を補うためにやるべきこと
これまで年金収入だけでは生活費が不足することをお伝えしてきました。では、不足する生活費を補うために何をすればいいのでしょうか?ここでは今からやっておきたいことをご紹介します。
●長く働いて収入を得る
最低日常生活費を23.2万円とすると、共働き世帯は夫婦の年金を合わせれば生活費は確保できそうです。とはいえ、少しでも生活費に余裕を持たせたいときは、元気なうちは働くのもよいかもしれません。
専業主婦世帯の場合、夫婦2人の年金を合わせても生活費が不足するかもしれません。必要な生活費を確保するためにも、長く働いて収入を確保することを考えてみましょう。
ただ、定年退職後は現役時代のようにあくせく働く必要はありません。たとえば、年金収入だけでは生活費が約5万円不足しそうであれば、1ヵ月で5万円確保できる働き方をすればいいのです。働く時間や日数が現役時代より少なくても、不足する生活費を補うことができれば問題ありません。
●繰り下げ受給をする
年金収入を増やすために繰り下げ受給をするのもよいでしょう。繰り下げ受給は、通常65歳からもらえる年金を66歳から75歳までの間に繰り下げて受給する方法です。繰り下げ受給では1ヵ月につき0.7%年金を増やすことができます。たとえば70歳から受給すれば増額率は42%、75歳から受給すれば84%までアップします。
また、繰り下げ受給では老齢基礎年金のみ、あるいは老齢厚生年金のみを繰り下げることも可能です。
ただし、夫が加給年金を受給できる場合、老齢厚生年金を繰り下げ受給すると繰り下げ期間中は加給年金がもらえなくなります。この場合、夫は老齢厚生年金を65歳から受給しましょう。そして老齢基礎年金のみを繰り下げ受給にするか、もしくは妻が繰り下げ受給を選択するとよいでしょう。
繰り下げ受給にする場合、事前に繰り下げ期間の生活費を確保する必要があります。また、年金が増えれば、その分天引きされる税金や社会保険料が増える点は留意しておきましょう。まずは家計状況を確認し、夫婦で年金の受け取り方をよく話し合ったうえで繰り下げ受給を選択することをおすすめします。
●生活費を見直す
子どもが独立するなどして家計状況が変わる定年退職後は、生活費を見直しておきたいです。夫婦2人の生活になれば、生活費を減らすことができます。特に減らせるものといえば固定費です。たとえば生命保険を加入当時のままにしている場合、保障額を減らせるかもしれません。家族構成や貯蓄状況などに変化があるときは、保障を減らせないか、あるいは解約できないか検討してみましょう。また、不要になる特約があるかもしれないので、チェックしてみましょう。
また、契約しているサブスクがある場合も検討の余地があります。不要なものは解約しましょう。スマートフォンなどの通信費も見直しをおすすめします。年齢を重ねるにつれ、動画の閲覧などスマートフォンの使い方が変わってくるかもしれません。現状の使い方に応じたプランへの変更を検討してみましょう。
●生活習慣を見直す
高齢になると、医療費や介護費用の負担が増える傾向があります。それがわかるのが健康寿命です。健康寿命とは、健康上に問題がなく、日常生活を制限されずに生活できる期間のことです。少し古いデータになりますが、厚生労働省の調査によると、2019年における健康寿命は、男性が72.68歳、女性が75.38歳でした。2019年の平均寿命は男性が81.41歳、女性は87.45歳なので、健康寿命との差が男性8.73年、女性12.06年あることになります。この差は、日常生活において何らかの制限ができる不健康な期間といえるでしょう。不健康になれば医療費がかかり、場合によっては介護が必要になるかもしれません。こうなると家計の出費が増えて生活費を圧迫します。そんなことから、できるだけ健康寿命を延ばすことが重要になるのです。
健康寿命を延ばし、元気に日常生活を送れるようにするためには、生活習慣の見直しが鍵になります。バランスの取れた食事、適度な運動、質の良い睡眠を心がけ、定期的に健康診断を受けて、健康維持を目指しましょう。
●NISAやiDeCoを活用する
ここまでは定年退職後にできることを紹介してきましたが、できれば現役時代にやっておきたいことがあります。それは、老後資金を増やすめにNISAやiDeCoを活用することです。
NISAは、NISA口座内で購入した株式や投資信託などの金融商品から得られる利益が非課税になる制度です。2024年1月からは制度が改正されて、非課税期間が無期限となり、年間の非課税投資枠が拡大されました。なかでも、つみたて投資枠を使って長期にわたり積立投資をする方法は、投資初心者でも始めやすく、リスクの軽減も期待できます。
iDeCoは、掛金の全額が所得控除になり、得られる利益は非課税になって、受け取り時にも税制優遇が受けられる私的年金制度です。原則的に60歳までは引き出すことができないため、老後資金の準備に適しています。利益が非課税になるのはNISAも同じですが、iDeCoは加入中に所得控除を受けられるので、税金の負担が軽減できます。また、購入する金融商品は元本変動型の投資信託が中心ですが、なかには元本確保型の定期預金や保険商品もあるので、自分のリスク許容度に応じて商品を選べます。
コツコツ貯蓄を積み重ねていくのもよいですが、貯蓄用の資金の一部をNISAやiDeCoに回して長く運用すれば、老後資金を増やせる可能性が高まります。現役時代のうちからNISAやiDeCoを活用した運用を始めませんか?
安心して暮らせるように今からできることを進めよう
今回は、65歳以降の収入と支出、年金の平均月額をご紹介しました。また、生活費の目安を決めて、ねんきん定期便で年金見込額を確認し、その差額を割り出すことで老後に必要な貯蓄額の目安が試算できるとお伝えしました。老後も安定した生活を送るためには、NISAやiDeCoを活用した資産運用で老後資金を準備することと、生活費や生活習慣の見直しが大事になります。いつまでも安心して暮らしていけるように、今からできることをできる範囲で進めていきましょうね。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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