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23/06/13

資産運用・経済

投資信託の目論見書の見方 最低限見ておくべきポイントをプロが解説

投資信託の目論見書の見方 最低限見ておくべきポイントをプロが解説

投資信託を購入するときに渡される目論見書、きちんと見ていますか?
なかには「何が書いてあるのかわからない」「目論見書の見方がわからない」という方もいるかもしれません。しかし、目論見書には投資信託の大切な情報がたくさん詰まっていますので、必ず目を通しておきましょう。

今回は、投資信託の目論見書の見方を解説します。

投資信託の目論見書ってそもそもどんなもの?

投資信託の目論見書は、投資家がその投資信託への投資の判断をするために必要な情報がまとめられた「説明書」のようなものです。目論見書は、投資信託を購入するときに必ず交付されます。そして、内容を確認することではじめて投資信託が購入できるようになります。

目論見書には、
・ファンドの目的・特色(どの資産、どこの国に投資をしているのか)
・投資のリスク(基準価額の変動要因にはどんなリスクがあるか)
・運用実績(基準価額、純資産総額、リターンの推移)
・手数料(購入時手数料、信託報酬、信託財産留保額)
といったことが書かれています。

目論見書は、ネット証券や銀行など、投資信託を売っている販売会社のウェブサイトからダウンロードできます。また、投資信託を購入しようとするときにも表示され、内容を確認しないと投資信託を購入できなくなっています。店舗の証券会社や銀行の場合は、書面で交付されます(条件を満たせば電子データでの交付も認められています)。

目論見書には何が書いてあるのか

今回は、個人投資家から「オルカン」と呼ばれている「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書をもとにして、何が書いてあるかを具体的に見ていきます。

●eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の目論見書の表紙

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より(株)Money&You作成

目論見書の表紙には投資信託の名称に加えて「交付目論見書」であることが記載されています。実は、投資信託の目論見書には2種類あります。そのうち、購入前に必ず確認する目論見書が「交付目論見書」です。
目論見書にはもう1つ、交付目論見書よりも詳しい情報が記載された「請求目論見書」もあります。ただ、請求目論見書を見てしまうと「やっぱり投資が難しい」と思う人が多くなるかもしれません。それに、投資信託を選ぶ際には、交付目論見書を見れば十分です(以下「目論見書」はすべて交付目論見書のことを指します)。

「投資信託の商品分類・属性区分」の欄には、この投資信託がどんな投資信託なのかが簡潔に示されています。
eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合は、国内外の株式に投資するインデックス型の投資信託だということがわかります。これらは、目論見書の中で詳しく説明されているのですが、ここを見るだけでも概要がつかめます。

また、右下部には「委託会社:三菱UFJ国際投信株式会社」「受託会社:三菱UFJ信託銀行株式会社」とあります。
投資信託には、大きく3つの会社が関わっています。

・販売会社:投資家に投資信託の販売を行う会社
・運用会社(委託会社):投資信託の運用の指図を行う会社
・信託銀行(受託会社):投資信託の運用の指図にしたがって投資を実行したり、資産を管理したりする会社

ここから、eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、
・販売会社:お使いの証券会社や銀行
・運用会社:三菱UFJ国際投信
・信託銀行:三菱UFJ信託銀行
となることがわかります。

目論見書はデザインこそ各社異なりますが、記載されている項目はどれもほぼ同じです。目論見書には、大きく分けて次の4つのことが書かれています。

SBI証券[旧イー・トレード証券]

目論見書に書かれていること①:ファンドの目的・特色

●eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の「ファンドの目的・特色」

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より(株)Money&You作成

ファンドの目的には、投資信託がどんな資産に投資するのか、どのような成果を目指しているのかが記載されています。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、「日本を含む先進国および新興国の株式市場の値動きに連動する投資成果をめざします」と記載されています。つまり、国内外の株式に投資するインデックス型の投資信託だとわかります。

ファンドの特色には、ファンドの目的を達成するために具体的にどんな投資をするのかが記載されています。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)では「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)に連動する投資成果をめざして運用を行います」とあり、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスという指標に連動するような運用を行うことがわかります。

MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスがどの国・地域に投資しているかと、国・地域別の割合も示されています。MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスは、全部で47の国・地域に投資しています。そのうち88.9%が先進国で、米国が62%を占めています。日本は5.4%です。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)は、このMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスに連動する成果を目指すのですから、米国経済の影響を色濃く受けそうだ、と判断できるわけです。

●為替ヘッジの有無・分配方針

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より(株)Money&You作成

海外の資産に投資する投資信託の場合、為替ヘッジを行うか行わないかが記載されています。為替ヘッジとは、先物取引や信用取引といった特殊な手法を使い、為替レートの変動による値動きの影響を軽減することです。

為替ヘッジをつけると、為替レートによる値動きを抑えることで、資産全体の値動きを少なくすることにつながります。
なお、為替ヘッジの詳しい仕組みや、為替ヘッジを付けるかどうかの考え方は過去記事で詳しく解説していますので、そちらも合わせてご確認ください。

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、為替ヘッジは行わないため、為替レートの変動によって運用成果が変動します。

さらに、投資信託の分配方針も見ておきましょう。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、年1回、4月25日の決算時に分配金額を決定するとあります。ただ、eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)では「信託財産の成長を優先し、原則として分配を抑制する方針」とあります。つまり、分配金を支払わずに再投資して、資産を増やすことを優先している、というわけです。

利息や運用益が次の利息や運用益を生み出す「複利効果」を活かすならば、分配金はない方が効率よくお金を増やせます。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)は、複利効果を生かしやすい商品だといえます。

目論見書に書かれていること②:投資のリスク

投資信託に限らず、投資には「リスク」があります。リスクというと「危険」と思ってしまいがちですが、そうではありません。投資のリスクには「値動き(リターン)のブレ幅」という意味があります。投資信託のリスクとリターンは、その投資信託がどの国・地域のどんな資産に投資するかによって変わります。

●eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の「投資のリスク」

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より

目論見書の投資のリスクの欄には、この投資信託に投資することで発生するリスクが示されています。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、ごく簡単にいうと次のようなリスクがあると示されています。

・価格変動リスク…株価が変動することで損失が出るかもしれない
・為替変動リスク…為替が変動することで損失が出るかもしれない
・信用リスク…企業の経営・財務状況が悪化することで損失が出るかもしれない
・流動性リスク…市場での株などの売買が少なくなると、不利な価格で取引せざるを得なくなって損失が出るかもしれない
・カントリーリスク:新興国などで政治や経済の情勢が急変したとき、上記各リスクが高まるかもしれない

どんなリスクがあるかは、投資信託ごとに異なります。投資の前に必ず確認して、値動きの要因にどんなものがあるのか、把握しておきましょう。

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目論見書に書かれていること③:運用実績

投資信託の運用実績を見る際に覚えておきたいのが、基準価額と純資産総額です。基準価額は純資産総額を投資信託の口数(受益権総口数)で割ったもので、投資信託の値段ともいえるもの。純資産総額は、投資信託が組み入れている株式や債券などの資産の合計金額(時価総額)です。

●eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の「運用実績」

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より(株)Money&You作成

運用実績にはまず、基準価額・純資産の推移が記載されています。
基準価額が購入時より上がっていれば利益になります。また、純資産総額の大きさからはファンドの規模がわかります。
基準価額・純資産の推移には、投資信託の運用開始日からの推移が記載されています。これらが共に右肩上がりの投資信託は、運用成績が伸び、資産の流入が増えていることを表します。そして、投資信託は運用がしやすくなり、利益を出しやすくなる好循環が期待できます。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、基準価額・純資産総額ともに順調に右肩上がりになっています。

純資産総額はとても大切です。純資産総額は、50億円以上あるのが望ましいでしょう。なぜなら、純資産総額が少ないと、
①分散投資が行いにくいので運用実績に影響があるリスク
②投資対象資産の売買手数料を抑えるボリュームディスカウントが効きにくいので信託報酬が増えるリスク
③繰上償還(当初予定していた期日を待たずに償還すること・信託期間が決まっていない投資信託が運用を終了すること)のリスク
といったリスクが生じます。

繰上償還になると、保有口数に応じた金額が償還金として換金されます。運用益が出ている場合はまだいいのですが、損失を抱えているときに繰上償還が行われてしまうと、その時点で抱えていた含み損が「実現損」になってしまうので、繰上償還は痛手です。それを防ぐためにも、純資産総額は50億円以上あったほうが望ましいというわけです。

また、分配金は「抑制する方針」のとおり、設定来0円となっていることがわかります。なお、分配金が出ると、基準価額も純資産総額も下がります。

運用実績からは組み入れている資産の状況や組み入れ上位銘柄もわかります。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の資産の63.6%は米ドルですが、ユーロ、円、ポンドなど他の通貨も組み入れられており、意外と通貨分散されていることがわかります。また、組入上位銘柄には、米国株のアップルを4.5%、マイクロソフトを3.0%、アマゾンを1.7%…などと組み入れていることがわかります。ほかにもテスラやグーグルなど、米国のテック企業に多く投資しています。

さらに、年間収益率の推移では、各年の収益率が示されています。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、設定された2018年こそマイナスになっていますが、その後はプラスに。2019年は26.8%、2021年は32.7%と大きく資産を増やせています。

目論見書に書かれていること④:手数料

投資信託でチェックしておきたいのは手数料です。投資信託では、

・購入時:購入時手数料(投資信託を購入するときに一時的にかかる手数料)
・保有中:信託報酬(投資信託を保有している間ずっと支払う手数料)
・解約時:信託財産留保額(投資信託の解約時の手数料)

がかかる場合があります。

目論見書には、これらの料率が記載されています(その他の費用・手数料がかかる場合もありますが、ここでは割愛します)。

●eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の「手数料」

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より(株)Money&You作成

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、購入時手数料・信託財産留保額は無料です。また信託報酬は年率0.1144%※で、委託会社・販売会社・受託会社それぞれの配分比率が記載されています。なお、eMAXIS Slimシリーズには純資産総額が増えるごとに実質的な信託報酬率が下がる「受益者還元型信託報酬」という仕組みがあることも説明されています。

※eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬は2023年9月8日に年0.05775%に引き下げられています。

手数料のところでもうひとつ、見ておきたいのが「信託期間と繰上償還」です。

●信託期間と繰上償還

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より(株)Money&You作成

信託期間とは運用期間のこと。無期限かどうかをチェックしましょう。無期限でないということは、いつか運用が終わってしまい、長期運用できないということですから、重要です。
また、繰上償還となる条件も記されていますので、合わせてチェックしておきましょう。

まとめ

投資信託の目論見書の見方を詳しく紹介してきました。なんとなく「目論見書は難しそう」と思っていた方も、こうしてひとつずつ確認してみると、難しくないことがわかるでしょう。

インデックス型・バランス型の投資信託の目論見書はシンプルにできています。一方で、オプションや複雑な仕組みが含まれているようなアクティブファンドの場合は、目論見書が分厚かったり、よくわからない専門用語が並んでいたりします。それを読んで理解ができるならいいのですが、読んでもよくわからないものには投資をしてはいけない、ということも覚えておきましょう。いい商品は、往々にしてシンプルなものです。

何より、自分の大切なお金を託す投資信託です。目論見書を読んで、よく知った上で投資をするようにしましょう。

今回の内容は、動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。

頼藤 太希 マネーコンサルタント

(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki

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