23/01/29
投資信託「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」どっちがいい?
外国の株式、債券、不動産などに投資する投資信託の商品名に「為替ヘッジあり」「為替ヘッジなし」という言葉が記載されていることがあります。投資している資産自体はどちらも同じですが、為替ヘッジありと為替ヘッジなしでは、値動きが異なります。
今回は、投資信託の「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」の違いと、どっちを選ぶのが良いかを一緒に考えていきたいと思います。
為替ヘッジあり=為替の値動きを抑える商品
為替ヘッジとは、ひと言でいうと「為替変動による値動きの影響を避けること」です。「為替ヘッジあり」と名前がついている商品は、先物取引や信用取引といった特殊な手法を使い為替変動による値動きの影響を抑えることができる商品だということを表します。
外国資産に投資する投資信託の値動きは、「資産自体」と「為替」の両方を踏まえて決まります。
「資産自体」とは、投資信託が投資の対象にする資産のことです。投資信託は、投資家から集めたお金を1つにまとめ、ファンドマネージャーと呼ばれる投資のプロが、投資家の代わりに株、債券、不動産などといった資産に投資して運用する金融商品。投資信託の投資対象は、投資信託ごとにそれぞれ違います。そして、投資対象が違えば当然、値動きもそれぞれ変わってきます。
一方「為替」とは、お金の価値のことです。私たちが普段使っている円の価値は、日々変動しています。ニュースでよく「今日の外国為替市場、1ドル=130円」などと報じていますね。これは、円と米ドルを交換した時の比率(為替レート)を表しています。
例えば、投資信託が米国の株式を買う時には、投資家から預かった円を米ドルに両替する必要があります。反対に、米国の株式を売ると、米ドルで戻ってきます。投資家にお金を返す場合には日本円に両替します。
買う時の両替と売る時の両替で、為替レートがまったく同じであれば、為替変動の影響はありません。しかし実際には、まったく同じという可能性は低いでしょう。すると、資産そのものの値動きによる利益・損失の他に、為替変動による利益・損失が生まれることになるのです。
例えば、ある投資信託が米国株1万円分を買うとします。この時、1ドル=100円であれば、100ドル分買ったとも解釈できます。この投資信託が10%値上がりしたら、110ドルになります。つまり、この値上がりした時に売却すると10ドル分の利益を得られます。
では、この投資信託で一体何円の利益を得られることになるでしょうか。それは、為替レート次第です。利益が出た金額(米ドル)にその時点の為替レートをかければ、算出することができます。
●投資信託で得られる利益は?
・1ドル=100円のままの場合
10ドル×100円=1,000円 利益は1,000円
・1ドル=110円(円安)の場合
10ドル×110円=1,100円 利益は1,100円
・1ドル=90円(円高)の場合
10ドル×90円=900円 利益は900円
為替レートが変わらず1ドル=100円ならば、利益はそのまま1,000円ですが、1ドル=110円の円安になれば利益が100円増えます。反対に1ドル=90円の円高になれば、利益は100円減ってしまいます。
為替レートの変動で得られた利益を為替差益、損失を為替差損といいます。一般的に、買う時よりも売る時のほうが円安になると為替差益、円高になると為替差損が生まれます。
為替ヘッジには「為替ヘッジコスト」がかかる
為替ヘッジがある投資信託は、為替変動の影響をなくすようにしています。
2022年は、為替レートが大きく円安に動いた年でした。1ドル=110円台から、一時は1ドル=150円台をつける展開まであり、ニュースなどでも大きく報じられました。しかしその後はいくらか円高方向に戻り、2023年1月時点では1ドル=130円程度となっています。このように大きく為替レートが動く時代に、「為替ヘッジあり」「為替ヘッジなし」のどちらを選ぶのが良いのでしょうか。
結論からいうと、筆者は「為替ヘッジなし」が良いと考えます。
なぜなら、為替ヘッジは先物取引や信用取引といった特殊な手法を使うため、相応のコスト(為替ヘッジコスト)がかかるからです。
●為替ヘッジにかかる「為替ヘッジコスト」のイメージ
(株)Money&You作成
為替ヘッジコストは、外国の短期金利と円の短期金利の差がベースです。円金利は現状、超低金利なのに対し、諸外国ではインフレからの脱却などを目指して利上げをしているため、その差が開いています。
つまり、投資先が金利の高い国であればあるほど、為替ヘッジコストは高くなり、運用成績を下げる要因となります。また、為替ヘッジありの投資信託は為替ヘッジなしと比べ、信託報酬が高い場合があります。
為替ヘッジの有無で運用成績はどう変わる?
為替ヘッジコストの「あり」と「なし」で、どれくらい運用成績が異なるのでしょうか。先進国株式・外国株式・先進国債券に投資する投資信託で比較結果を紹介します。
●為替ヘッジの「あり」「なし」による違い
2023年1月23日時点(株)Money&You作成
確かに、為替ヘッジがあるほうがリスクは若干低いのですが、肝心のリターンはリスクの減り具合と比べると、為替ヘッジのない商品のリターンよりもグッと低くなっています。
シャープレシオ(リスクに対するリターンの度合い)も、為替ヘッジなしのほうが大きい(効率よくリターンを出せている)ことがわかります。
今後の為替レート動向を踏まえて、投資信託の「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」どう考えるべきか結論を出して行きたいと思います。
今後の為替レート動向と為替変動をどう考える?
米国は2023年に入っても利上げ方針を継続。市場は、2023年後半に利下げすると予想しています。「金利平価」(為替相場決定理論の1つ。為替相場は、資産を自国通貨建てで運用する場合と外国通貨建てで運用する場合の収益率が等しくなるように決定されるという考え方)の立場に立つと、ドル高円安は続く見通しです。
一方で、購買力平価(為替相場決定理論の1つ。為替相場は、外国の一般物価水準に対する自国の一般物価水準の比率に等しくなるという考え方)の立場に立つと、実勢為替相場はドル高円安に行き過ぎている状態です。実際の為替レートが購買力平価と一致することは稀なのですが、長期的には購買力平価に沿って推移することが一般的です。
購買力平価ベースの為替レートから実勢為替相場が大きく乖離しているとき、実勢為替相場はいずれ購買力平価の水準に向かって動くと考えられるため、将来の相場の方向性を考える手がかりになります。
●ドル円の購買力平価と実勢為替相場の推移(2022年12月末基準)
公益財団法人 国際通貨研究所のウェブサイトより
消費者物価ベースの為替レート(赤いグラフ)は109.27円、企業物価ベースの為替レート(緑のグラフ)は91.47円となっています。現在は、1ドル150円という超円安水準局面からは脱し、1ドル130円という水準で落ち着いています。とはいえ、購買力平価の水準を考えれば、今後も円高になることが予想されます。
その円高に備えて「為替ヘッジあり」の投資信託を購入したいという方もいるかもしれません。確かに、為替ヘッジありの投資信託を購入すれば、為替変動による損失を抑えられるかもしれません。しかし、為替ヘッジコストが大きいことも忘れてはいけません。
値動きと上手く付き合いながらお金を増やすためには、分散投資が重要です。分散投資には、「資産の分散」「地域の分散」「銘柄の分散」「業種の分散」「時間の分散」がありますが、忘れてはいけないのが「通貨の分散」です。
為替ヘッジがなければ、為替変動の影響を受けやすくなりますが、余計なコストがかからず、円安水準に向かった時には為替差益を受け取ることもできます。そのため為替ヘッジのない投資信託を選んでおくのが筆者は無難だと考えます。ぜひ、投資行動に生かしていただければ幸いです。
今回の内容は動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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