24/02/14
2024年度の年金額はいくら?67歳以下と68歳以上で違う
50歳以上の場合、毎年の誕生月に届く「ねんきん定期便」には、将来もらう予定の年金額が記載されています。しかし、その年金額はあくまで目安の年金額であり、年金額は毎年見直されるルールとなっています。
今回は、2024年度にもらえる年金額はいくらなのかをご紹介。公的年金の年金額改定の基本の仕組みについて、分かりやすく解説いたします。
2024年度の年金額の満額は2年連続の増額改定に
このところ、物価の上昇(インフレ)の影響を強く感じている方も多いのではないでしょうか。物価が上昇したなら、本来はそれに合わせて年金額も増えないと、年金受給者の生活は苦しくなってしまいますよね。
年金額は、インフレ時などに年金の経済的価値を維持するため、毎年見直されるルールとなっています。厚生労働省は2024年度の公的年金の支給額を、前年度から2.7%引き上げると発表しました。公的年金の支給額が増額改定するのは、2年連続です。
2024年度の国民年金の満額を2023年度の満額と比較すると以下のようになります。
<国民年金満額(前年比)>
筆者作成
なお、2024年度の年金額は4月より適用されますので、実際に増額になった年金額が支給に反映されるのは4月・5月分の年金をまとめてもらう2024年6月からとなります。
年齢によって年金額が異なるのはなぜ?
2024年度の国民年金の満額は、67歳以下の方と68歳以上の方で異なります。年金額が年齢により異なる金額となっている理由は、年金改定の仕組みにあります。
まず、年金受給者を「新規裁定者(新たに年金をもらい始める人)」と「既裁定者(既に年金をもらっている人)」とに分けています。新規裁定者と既裁定者では、年金の改定に用いる数字が異なります。新規裁定者の場合はまだ現役世代に近いため、現役世代の収入の変化に応じた「賃金変動率」、既裁定者の場合は年金受給世代であり、年金額の実質的な価値を維持するため「物価変動率」を利用して改定を行います。
また、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回る場合は、支え手である現役世代の方々の負担能力に応じた給付とする観点から、名目手取り賃金変動率を用いて改定することが法律で定められています。
「67歳以下」「68歳以上」で区切られているのを不思議に思う方もいるでしょう。これは、賃金変動率の計算をするときに2~4年度前の3年平均から算出していることが理由です。
もし、年金額を直近年度のみの賃金変動率で計算してしまうと、年金額はコロナショックのような一時的で大きな経済変動の影響をもろに受けてしまいます。そこで、対象年度中に到達する年齢が67歳以下の受給者を「新規裁定者」、68歳以上の受給者を「既裁定者」として扱い、直近年度の影響を和らげているのです。
「マクロ経済スライド」により、実質的には目減り
総務省の2024年1月19日の発表によると、賃金変動率は前年比3.1%増で、物価変動率は前年比3.2%増でした。今回、「賃金変動率<物価変動率」のため、賃金変動率が参考指標として採用されています。
上で説明した通り、これがそのまま年金額に連動すれば、新規裁定者、既裁定者ともにの年金額増加率は3.1%増で改定となるはずです。しかし、実際の上昇率はそれよりも0.4%少ない2.7%増にとどまっています。世の中の物価と賃金は上がったのに、年金額の上昇率はどうしてそれよりも低くなっているのでしょうか。
それには、「マクロ経済スライド」が関係しています。
マクロ経済スライドとは、社会情勢(現役世代の人口減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整するしくみです。
実は、年金額の見直しは2段階で行われています。現役世代の賃金や世の中の物価の変動を反映する本来の改定に加えて、2005年4月からは高齢化の進行や現役世代の増減により年金額の伸びを抑えるための調整率であるマクロ経済スライドが実施されることになりました(各種の条件によりマクロ経済スライドが発動されない年度もあります)
2024年度の年金額は、マクロスライドで以下のように調整されています。
●2024年度の「マクロスライド調整率」
筆者作成
2024年度は物価や賃金がプラスとなりましたが、マクロ経済スライドによってそこから0.4%が差し引かれるため、実際の年金額は2.7%増にとどまるというわけです。年金額は、物価ほどに増えていないので、実質的には目減りすることになります。
在職老齢年金の支給停止額は2万円の引き上げに
また、65歳以降も厚生年金の被保険者となる形で働く場合、給与と年金との調整の仕組み(在職老齢年金)における「年金支給停止額」も、「賃金変動率」に応じて以下の通り改定が行われます。なお、年金支給停止額は1万円単位で改定されます。
(改定前:2023年度)
年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額+総報酬月額相当額-基準額48万円)÷2
(改定後:2024年度)
年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額+総報酬月額相当額-基準額50万円)÷2
2023年度の48万円から、2024年度は50万円に2万円ほど引き上げされますので、年金を受給しながら働く方にとっては、朗報といえるでしょう。
年金月額と給与月額との合計額が50万円を超えなければ、年金は減額される心配はないため、従業員の方であれば年金が全額もらえるか一部支給停止で済む方が多いでしょう。しかし、特に経営者や会社役員の方の場合で役員報酬を多くもらっている場合、年金月額と給与月額との合計額が50万円を超えると、特別支給の老齢厚生年金や老齢厚生年金(報酬比例部分)は一部または全額が支給停止となってしまいますので注意しましょう。
国民年金の支払期間が65歳までに延長される?
2022年10月25日に開催された「第1回 社会保障審議会年金部会」において、国民年金保険料の支払い期間を65歳までと延長する試算が示されたことが話題となりました。
2024年2月時点で、国民年金保険料は20歳〜60歳までの40年間が支払期間とされています。しかし、少子高齢化の進行が速いことや将来の受給金額水準の低下防止のため、厚生労働省は支払期間の5年延長を検討しています。
期間が延長された場合は、年金の支払期間が40年間から45年間となり、納付が義務づけられる年齢は20歳〜65歳の方となります。
この延長案の結論は2024年度末に出し、2025年の通常国会で制度の改正案提出を目指しているとのことです。もし今回の延長案が現実化すると、第1号被保険者である個人事業主や、60歳になる前に早期退職した人などは、保険料の支払い負担が増えることとなるでしょう。
2025年度の国民年金保険料は、前年度より+3.0%と大幅な増額
国民年金保険料は個人事業主などの「国民年金第1号被保険者」が毎月納付します。2023年度の国民年金保険料は月16,520円でした。
国民年金保険料は毎年改定されており、毎年1月に厚生労働省より公表されます。2年前納制度があるため、2024年度の金額は昨年すでに公表されています。2024年度の保険料は、月16,980円と値上がりします。さらに、新たに発表された2025年度の額が公表されました。2025年度の改定率は2010年度以来15年ぶりにプラスになり、2024年度より+3.0%と大幅に増額されることになりました。この結果、2025年度の保険料は530円増え、月17,510円となりました。
国民年金保険料は、2003年度の年金制度改正により、2003年度の保険料13,300円から毎年280円ずつ引き上げ、2017年度以降は16,900円を上限とし一定額にするように定められました。さらに、その後、産前産後の保険料免除制度の財源確保のため、2019年度より100円引き上げて17,000円になりました。
ただし、実際の保険料は、物価や賃金の変動に合わせて、規定保険料額に改定率を乗じて調整することになります(実際の国民年金保険料=規定保険料×改定率)。
国民年金保険料の改定率は以下のように定められています。
改定率=前年度改定率×物価変動率×実質賃金変動率
わかりやすくいうと、「毎年の保険料=あらかじめ法律で決められた基準金額×景気の変動などによる調整率」です。景気によって国民年金保険料を調整することで、実質的な負担が急に増えたり減ったりしないように工夫されているのです。
この改定率を規定額に乗じて保険料額を求めます。
2025年度保険料=17,000×1.030(改定率)=17,510円 ※10円未満四捨五入
2025年度の改定率は上記の3つの数字を乗じて1.030(+3.0%)に決定され、2025年度の国民年金保険料17,510円が算出されているというわけです。
年金は物価上昇と同じ程度には増えていない…
2024年度の年金額は増額になったとはいえ、物価の上昇と同じ程度には増えていないので実質的には目減りしているということが分かりました。公的年金制度を維持するためとはいえ、物価の上昇に伴い、年金などの収入が増えなくては、実際の生活は苦しいままです。
この先もこのまま物価上昇が続くとしたら、年金だけではますます生活が苦しくなるかもしれません。たとえば資産運用をしたり、65歳以降も働き続けたりするなどして、目減り分を補う工夫が大切になってくるでしょう。なるべく早い段階から年金の目減りへの対策を考えておくことが必要です。
【関連記事もチェック】
・ねんきん定期便「放置」は絶対ダメ!放置した人が辿る悲しい末路
・年金生活者に1月届く「公的年金等の源泉徴収票」3つの見るポイント
・年金をもらいながら働くと確定申告が必要になるのは本当か
・国民年金保険料「40年間全額免除」だと、年金はいくらもらえるのか
・年金を「月22万円」もらえる人の現役時代の年収はいくら?
KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう