23/08/26
「控除がなくなる」と税金どうなる?人生が「罰ゲーム」になるのは本当か
最近「控除がなくなる・見直される」というニュースをよく耳にしますが、実は「控除」がどういうものか、よく分かっていないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、税金を計算する際に使われる「控除」について紹介した上で、控除がなくなると納める税額はどう変わるのか解説していきます。
そもそも「控除」とは?
控除」とは「差し引く」という意味の言葉です。
収入を得ると、そのうちのいくらかを税金として納めなければなりません。ただ、収入の全てが税金の計算対象になってしまうと、生きるためにギリギリの収入しか持っていない方は生活できなくなってしまうでしょう。そこで、収入のうちいくらかを税金の計算対象から外す、もしくは払う税金自体を減らす「控除」の仕組みが作られました。
例えば、働いて得た収入は全額がそのまま税金の計算対象になるのではなく、生きるために最低限必要な金額を差し引いてから計算されます。このとき差し引かれる金額を「基礎控除」といいます。家族を養っている場合はさらにお金がかかりますから、基礎控除に加えて「配偶者控除」や「扶養控除」を受けることができます。
このように「控除」にはさまざまな種類があり、人によって適用されるものは異なります
控除の種類
税金を計算する際に使われる控除にはさまざまな種類があります。
まず、受け取った収入が会社で働いた給与であれば給与所得控除、退職金であれば退職所得控除など、収入の種類によって異なる控除が受けられます。これらの控除によって差し引かれた後の収入を「所得」と呼びます。
次に、その所得から「所得控除」を差し引き、実際に課税の計算対象となる所得「課税所得」を求めます。課税所得を使って所得税額を計算し、そこからさらに「税額控除」を差し引いて納める税金を求めます。
●所得控除
所得控除は、税金の計算対象となるお金「課税所得」を減らすことができる仕組みのこと。
例えば、所得の10%が税金として計算されるとしましょう。所得が300万円だと、30万円の税金を納めねばなりません。ここでもし50万円の所得控除が適用されると、課税される所得は250万円になり、納める税金も25万円に減額されます。
このように、課税される所得を減らすことによって間接的に納めねばならない税金も減らせるのが、所得控除の役割です。
所得控除には下記の15種類があります。
・基礎控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除
・扶養控除
・障害者控除
・寡婦控除
・ひとり親控除
・勤労学生控除
・社会保険料控除
・生命保険料控除
・地震保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除
・医療費控除
・雑損控除
・寄附金控除
●税額控除
税額控除とは、納める税金を直接減らす仕組みのことをいいます。
所得から先ほど説明した所得控除を差し引いて、税金の計算対象となる課税所得を求め、その課税所得に税率をかけて所得税額を求めます。さらに、その所得税額から直接差し引くことができるのが、税額控除です。
主な税額控除には、次のものがあります。
・配当控除
・住宅ローン控除
・外国税額控除
控除がなくなると納める税額はどう変わる?
控除とは何か紹介してきましたが、最近「国が控除を廃止もしくは見直しするのではないか」という話題が出ています。どんな控除の見直しが検討されているのか、見直しや廃止によって納める税額がどう変わるのか、解説していきましょう。
●給与所得控除の見直し
給与所得控除は、会社で働くサラリーマンやアルバイトが受けられる控除のこと。収入によって計算式は異なりますが、収入の3割ほどを控除できることが多いです。
しかし近年「フリーランスや個人事業主には手厚い控除制度がないため不公平ではないか」という理由から、政府によって給与所得控除を減らす検討がされています。
2023年現在、年収300万円のサラリーマンは98万円の給与所得控除を受けることができ、支払う所得税額は10万4500円となっています(基礎控除や社会保険料控除といった他の控除は考慮しておらず、実際は住民税もかかります)。
もし給与所得控除が廃止されると、課税所得が98万円増え、支払う所得税額は20万2500円に。なんと、約2倍に増えてしまうのです。全額廃止されないにしても、給与所得控除額が減らされると手取りに影響が及び、生活が苦しくなってしまうでしょう。
●退職所得控除の見直し
退職金を受け取る時に適用される控除を退職所得控除といいます。退職所得控除額は勤続年数に40万円をかけて求めますが、20年を超えた分は年数に70万円をかけて求めます。つまり、長い間継続して働いた人に有利な制度となっているのです。
しかし最近の日本では、同じ会社で長く働いてもらうよりも、その時々で柔軟に仕事を変え、成長分野に貢献することが求められるようになってきました。そこで政府は、20年を超えて働いた場合の控除の優遇をなくす案を検討することに。
勤続年数40年で退職金が2000万円の場合を考えてみましょう。現在の制度だと、退職所得にかかる所得税は0円です。しかし、仮に20年を超えた分の優遇が廃止されると、10万2500円の所得税を納めねばなりません(実際は、さらに住民税もかかります)。退職金の税負担が増えることで、老後の生活に不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
●配偶者控除の見直し
配偶者控除は、専業主婦や年収103万円以下のパートで働く配偶者を養っている人が受けられる控除のこと。本人の年収にもよりますが、基本的には年間38万円の所得控除を受けられます。
配偶者控除も、女性の社会進出を促すことを目的に見直しが検討されています。仮に配偶者控除がなくなった場合、本人の年収が300万円、課税所得が200万円程度であれば、所得税負担が年間3万8000円増えてしまうことになります。
まとめ
本記事では「控除」の意味を解説し、控除がなくなることで納める税額はどう変わるのか試算しました。
今回紹介した控除の見直しはどれもまだ検討段階で、実際そうなると決まったわけではありません。しかし、制度の改正は進むと予想されていますので、廃止や変更になっても慌てないよう、日頃から政府の動向をチェックしておきましょう。
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木下七夏 Webライター
大学卒業後金融機関に勤め、個人のお客さま向けの営業を担当。退職後にFP2級を取得し、フリーライターに。FPで学んだ知識や金融機関勤めの経験を生かして、生活にまつわるお金の疑問を分かりやすく噛み砕いて解説する記事を作成している。
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