23/05/27
ChatGPTに日本の年金制度の将来について聞いてみた
世界中で大きな話題になっている新しいテクノロジー「ChatGPT」。ChatGPTのニュースを聞かない日はもはやないでしょう。そんなChatGPTに、日本の年金制度の将来について聞いてみました。ChatGPTはどのような回答をしてくれるのでしょうか。また、その回答は正しいのでしょうか。
自然なやり取りで精度の高い回答が得られるChatGPT
ChatGPTは米国のベンチャー企業「OpenAI」社が開発したAIチャットサービスです。入力した質問に対してAIが回答してくれます。
ChatGPTが注目されている理由は、自然な会話のやりとりができて、精度の高い回答が得られることにあります。これまでも、ネットを駆使して情報を検索することはできましたが、それはあくまで、あらかじめ用意されている情報を調べて表示するに過ぎませんでした。しかしChatGPTは、質問の内容や意図を汲みとって、自分で文章を生成して返事をしてくれます。その性能の高さが話題になり、2022年12月の公開からわずか3か月で1億ユーザーを達成しています。
ChatGPTはユーザー登録をすれば誰でも無料で利用可能。日本語にも対応しており、日本語で質問すれば日本語で返してくれます。
手始めに、ChatGPTに日本の公的年金制度について聞いてみました。果たして、正しく回答できるでしょうか。以下、ChatGPTにした質問と、ChatGPTの回答をそのまま掲載しています。なお、ChatGPTの回答には、誤りが含まれている場合があります(回答のあとに解説します)。
質問1:日本の公的年金制度のしくみについて、教えてください。
【ChatGPTの回答】
日本の公的年金制度は、基本的には国民全体が加入する義務的な制度です。以下に、公的年金制度の主な要点を説明します。
1.基本的な給付制度:
・基礎年金(国民年金): 国民全員が加入する制度であり、一定の加入期間と保険料の支払いによって、年金を受け取る資格を得ます。基礎年金の受給額は、加入期間や保険料の支払い実績に応じて計算されます。
・厚生年金(厚生年金保険): 企業などの事業主が従業員に対して加入を義務付けられる制度です。加入者の加入期間と支払った保険料に基づいて、年金を受け取ることができます。
2.年金の受給:
・公的年金制度では、一定の年齢に達し、加入期間や保険料の支払い実績がある場合に、年金を受け取ることができます。基礎年金と厚生年金では受給条件や受給額の計算方法が異なります。
・基礎年金は、60歳以上の場合に受け取ることができますが、厚生年金は一部の制度を除き、65歳以上である必要があります。
3.保険料の負担:
・公的年金の受給には、保険料の支払いが必要です。基礎年金の保険料は、個人の所得や事業収入に応じて計算されます。厚生年金の場合、労働者と事業主が保険料を負担します。
4.その他の年金制度:
・遺族年金: 加入者が亡くなった場合に、配偶者や子供に支給される年金です。
・障害年金: 労働能力が障害によって低下した場合に、一定の条件を満たすと受給できる年金です。
なお、公的年金制度には複雑なルールや制度が存在し、具体的な受給資格や受給額は個人の加入状況や条件によって異なります。加入者は、年金制度に関する情報を正確に把握するために、関連する機関や専門家に相談
少し曖昧な感じもあり、最後が「相談」で唐突に終わっているのも気になりますが、なかなか正確に説明してくれていると思います。
ChatGPTのいうように、日本の公的年金は国民年金と厚生年金の2階建て。国民年金は保険料の納付期間が10年以上ある場合にもらえます。厚生年金受給額は基本的に「給与や賞与が多いほど」多くなるという一言が欲しい気もしますが、「支払った保険料に基づいて」とある(厚生年金保険料は給与や賞与が多いと多くなる)ので、おまけで正解といってもいいでしょう。
一方、少し気になるのが「2.年金の受給」にある「基礎年金は、60歳以上の場合に受け取ることができますが、厚生年金は一部の制度を除き、65歳以上である必要があります」という記述。年金の受給は原則として65歳からです。そして、希望すれば60歳まで受け取りを早める繰り上げ受給ができます。60歳までの繰り上げ受給は、基礎年金も厚生年金もできます。なお、繰り上げ受給は基礎年金と厚生年金同時に行う必要があります。
また、遺族年金や障害年金など、老後の年金(老齢年金)以外の年金があることを説明してくれたのはよかったのですが、ChatGPTは基礎年金と厚生年金の違いをわかっていないようです。
遺族年金の説明はおおよそ「遺族基礎年金」のものになっています。遺族基礎年金は「子のある配偶者」または「子(原則18歳未満)」が受け取れます(子のない配偶者は受け取れません)。これに対して遺族厚生年金は配偶者や子のほか、父母、孫、祖父母のなかでもっとも優先順位が高い人が受け取れます。
障害年金は、
①初診日(障害の原因となった病気やけがで初めて医師などの診療を受けた日)に国民年金や厚生年金の被保険者であること
②障害認定日に「障害認定基準」を満たしていること
③初診日がある月の前々月までの年金加入期間において、3分の2以上の期間の保険料を納めている(あるいは免除されている)こと
の3つの要件を満たす場合にもらえます。初診日に国民年金に加入しているなら「障害基礎年金」、厚生年金に加入しているなら「障害厚生年金」が受け取れます。
障害基礎年金は障害等級2級までが対象なのに対し、障害厚生年金は障害等級3級までが対象になるうえ、状態によっては障害手当金がもらえることもあります。なお、障害等級1級・2級で障害厚生年金がもらえる場合、障害基礎年金も一緒にもらえます。
繰り上げ受給の話が出てきたので、繰り上げ受給・繰り下げ受給についても聞いてみました。
質問2:年金の繰り上げ受給・繰り下げ受給について教えてください。
【ChatGPTの回答】
年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給は、公的年金制度において年金の受給開始時期を調整するための制度です。以下にそれぞれの概要を説明します。
1.繰り上げ受給(前倒し受給):
・繰り上げ受給とは、本来の受給開始年齢よりも早い時期から年金を受け取ることを指します。
・基礎年金(国民年金)では、60歳から受給が可能ですが、繰り上げ受給を希望する場合は55歳からの早期加入が必要です。早期加入の場合、受給額は減額されます。
・厚生年金(厚生年金保険)では、基本的には65歳からの受給となりますが、60歳以上であれば、受給開始年齢を1歳単位で最大5歳前倒しすることができます。ただし、受給開始年齢を前倒しすると受給額が減額されます。
2.繰り下げ受給(遅延受給):
・繰り下げ受給とは、本来の受給開始年齢よりも遅い時期まで年金の受給を延長することを指します。
・基礎年金(国民年金)では、受給開始年齢を遅延させることで受給額が増加します。遅延する場合、最大で70歳まで延長することができます。遅延期間に応じて、受給額に対する加算率が設定されています。
・厚生年金(厚生年金保険)では、一定の条件を満たす場合に、受給開始年齢を遅延させることで受給額が増加する「特別加算年金」制度があります。具体的な条件や加算率は厚生年金保険の制度によって異なります。
繰り上げ受給と繰り下げ受給は、個々の受給者の生活や経済的な状況に合わせて受給開始時期を調整するための制度です。ただし、受給開始時期を変更することで受給額には変動が生じるため、よ
「よ」で終わっているのはともかく、こちらは誤りがいろいろありました。
上でも紹介したとおり、繰り上げ受給は60歳から可能です。ただ、「繰り上げ受給を希望する場合は55歳からの早期加入が必要です」は完全に誤り。そもそも国民年金は20歳から加入する制度です。仮に55歳から「早期加入」したとしても、60歳時点ではまだ5年しか加入していないため、国民年金の受給資格を満たせず、繰り上げ受給できません。
繰り上げ受給により年金額が減り、繰り下げ受給により年金額が増える点は正しいです。繰り上げ受給では、1か月受給を早めるごとに0.4%ずつ年金額が減ります。反対に繰り下げ受給では、1か月受給を遅らせるごとに0.7%ずつ年金額が増えます。
繰り下げ受給は「75歳」まで可能です。ただ、現行のChatGPTは2021年9月までの情報しか学習していません。繰り下げ受給の上限が75歳になったのは2022年4月からですので、ここは仕方ない部分かもしれません。
また、もしかしたらイメージしやすいようにつけられた言葉かもしれませんが、「前倒し受給」「遅延受給」という専門用語はありません。また「特別加算年金」もありません(加給年金の「特別加算」でしょうか)。
最後に日本の年金制度の将来について、聞いてみました。
質問3:日本の年金制度の将来はどうなりますか?
【ChatGPTの回答】
私は2021年9月までの情報しか持っていませんので、最新の情報に関してはお答えすることができません。ただし、一般的な傾向や問題点についてお伝えすることはできます。
日本の年金制度は、高齢化や少子化といった人口構造の変化により、将来的にはいくつかの課題に直面する可能性があります。以下に、主な課題をいくつか挙げます。
1.人口減少と高齢化: 日本の人口は減少し続けており、同時に高齢化も進行しています。これにより年金受給者の数が増加し、現役世代とのバランスが崩れる可能性があります。財政的な負担が増えることが予想されます。
2.プライベートセクターの年金問題: 日本の年金制度は、公的年金と企業年金の2つの柱で構成されています。しかし、企業年金制度の変化や廃止、非正規雇用の増加により、一部の人々が十分な年金を受け取れない可能性があります。
3.長寿化と年金支給期間の延長: 長寿化により、年金を受給する期間が延びることが予想されます。長期間の年金支給に対応するためには、財政的な負担が増える可能性があります。
4.マクロ経済の影響: 経済の成長や金利の変動など、マクロ経済の状況は年金制度にも影響を与えます。景気の低迷や金利の低下が続くと、年金基金の運用益が減少する可能性があります。
これらの課題に対処するためには、年金制度の改革や持続可能な財源確保が必要です。政府や関係者は、将来の課題に対する対策を検討し、適切な対応を行っていくことが求められます。最新の情報については、日本の政府や年金制度に関連する公式の発表や報道を参照することをおすすめします。
最後の質問は制度やしくみではなく「年金制度の将来」といった抽象的なものだったにもかかわらず、かなり捉えている印象です。
日本の総人口は2008年をピークに減り続けています。65歳以降の高齢者が人口の約3割を占める一方で、2022年に生まれた赤ちゃんの数(速報)は79万9728人と、統計データ上はじめて80万人を割り込みました。少子高齢化は、確実に進行しています。
年金制度はそのときの現役世代が受給世代を支える「賦課方式」なので、今後少子化が進んでも年金制度が崩壊することはまずありません。しかし、もらえる年金額が減る可能性や、年金の受給開始年齢が原則70歳などに引き上げられたりする可能性はあります。
人口減少・少子高齢化の影響を軽減するために、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という組織が年金保険料の余剰分(年金積立金)を運用して増やしています。将来的には、年金給付の1割程度を積立金からまかないます。
さらに、日本人の男性の2人に1人は85歳、女性の2人に1人は90歳まで生きる時代になっています。長寿は喜ばしいことですが、その分長期間にわたって年金を支払う必要がでてきます。「超」がつくほどの高齢社会では、経済成長も望めません。つまり、年金に影響が出る、というわけです。
まとめ
ChatGPTに年金について質問した結果をご紹介しました。ChatGPTは質問に的確に答えてくれる場合もありますが、中には明らかな間違いもあります。間違いであっても、さも正しいかのように紹介されるところには恐ろしさを感じます。上手に使うには、ChatGPTを使う人の知識・リテラシーも必要です。
ChatGPTは、日本の年金制度の将来について「政府や関係者は、将来の課題に対する対策を検討し、適切な対応を行っていくことが求められます」と回答しました。少し抽象的な表現ではありますが、これも内容として適切だと思います。老後の生活を誰もが安心して過ごすためにも、政府・関係者の方には、ぜひ適切な対応をお願いしたいところです。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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