23/01/09
教師の給料はサラリーマンより高いのは本当?お金の面での注意点は
少子化を背景に、経営が厳しい学校が増えています。しかし世の中に多種多様にある職業の中でも、「先生」と呼ばれる仕事には、一般的に給料がいいイメージがあります。学校の先生の給料にも、変化はあるのでしょうか。文部科学省の「学校教員統計調査(2019年度)」と前回(2016年度)のデータとの比較をして、教師の給料について見ていきたいと思います。
小学校の平均給料は33万6200円で変化なし
文部科学省の学校教員統計調査は、3年ごとに学校教員についての様々なデータを公表しています。直近の2019年度調査によれば、小学校の平均給与月額は、33万6200円でした。内訳は、国立が33万4400円、公立が33万6100円と平均を下回っていて、私立が34万8900円と高くなっています。この金額、実は前回とまったく同じです。
●小学校の平均給料
文部科学省「学校教員統計調査」より筆者作成
前回調査の2016年から2019年と3年経ちましたが、国公立だけではなく私立も変わりないので、小学校の先生の給料は安定していると言えるようです。
役職別に見ても、前回調査と同じでした。校長は45万1300円、指導教諭は41万3400円、教諭は32万2300円。そして、教員が産休・育休や病気・介護休暇に入った際に代わりに入る代替教員は25万6700円です。
●小学校の平均給料(役職別)
文部科学省「学校教員統計調査」より筆者作成
学校の先生の仕事は通常の授業だけではなく、運動会や遠足などの行事、生活指導など多岐にわたっています。やりがいのある仕事ですが、土日や時間外の業務も少なくないため、大変なお仕事だと思います。
●小学校の平均給料(男女別)
文部科学省「学校教員統計調査」より筆者作成
ちなみに、男女別にみても3年前と変わりません。男女の差もそのままです。
学校の先生は、長く続けられる仕事だと思いますが、それでも女性の平均勤務年数は16.4年と、男性の17.7年にくらべ短くなっています。
勤務年数が短いと昇進・昇給する前に離職することにもつながり、その結果が平均給料の差になっているのではないでしょうか。
中学校の平均給料は34万200円、公立が減っている
続けて中学校を見てみましょう。中学校の平均給料は34万200円でした。そのうち、国立は34万6300円、公立は33万7700円です。私立は37万4000円ですから、中学校でも私立のほうが国公立よりも給料が高い傾向にあることがわかります。
注目なのは、国立・私立は給料が増えているのに、公立は減っていることです。
●中学校の平均給料
文部科学省「学校教員統計調査」より筆者作成
そして小学校と同様、役職によって給料に差が出ます。校長は44万7200円、指導教諭は40万1800円、教諭は33万500円、代替教員は24万8100円です。
●中学校の平均給料(役職別)
文部科学省「学校教員統計調査」より筆者作成
指導教諭とは、子ども達の教育のほか、一般の教諭や職員に対していろいろと指導・助言する先生のことで、いわば先生の先生。一般の教諭よりも給料が高いのもうなずけますが、学校によって指導教諭という役職を置いているところと、置いていないところがあります。
一方、校長と教諭は必ず置くとされています。
教諭だけではなく、管理職である校長や指導教諭の給料が減っています。一方で代替教員の給料は増えていることがわかります。これは、代替教員のニーズが増えていると考えてもいいかもしれません。
●中学校の平均給料(男女別)
文部科学省「学校教員統計調査」より筆者作成
また、男女別の平均給与に差があるのも小学校と同様です。
平均勤務年数は女性が16.6年、男性が18.2年と、小学生の先生よりも年数の男女差が大きくなっています。男性も女性も、平均は下がっていますね。
女性の勤務年数が短くなるのは、育児や介護など、家族の事情によってライフプランを影響を受けやすいこととも無関係ではないでしょう。男性も育児休業や介護休業をとれることになっていますが、なかなか現実には難しい状況であることが、数字の上からもわかると思います。
高等学校の平均給料は35万7200円、全体に減少
高等学校の平均給料は、小中学校と異なる傾向があります。平均給料は35万7200円ですが、国立は35万円、公立は35万8200円、私立は35万4700円と、公立の給料が国立・私立の給料よりも高くなっています。しかし、全体的に減少傾向です。
●高等学校の平均給料
文部科学省「学校教員統計調査」より筆者作成
ただし、私立の給料は地域によって大きく差があります。東京、神奈川、埼玉、愛知、京都、大阪、兵庫では公立よりも私立のほうが給料が高いのですが、その他の地域では公立のほうが高いのです。
少子化、過疎化などの問題は地方のほうが深刻と言われていますが、先生の給料にも影響しているのかもしれません。
役職による給料の違いは以下のとおり、校長は48万6900円、指導教諭は41万400円、教諭は35万6000円、代替教員は24万2400円です。
高等学校でも、代替教員の給料が上がる一方で、管理職の給料が下がっています。
●高等学校の平均給料(役職別)
文部科学省「学校教員統計調査」より筆者作成
男女別では、小中学校同様に、減少傾向でなおかつ女性のほうが少なくなっています。
女性の勤続年数は、小中学校と比べても短く、16.1年。男性は19.3年です。
●高等学校の平均給料(男女別)
文部科学省「学校教員統計調査」より筆者作成
学校の先生の給料はやっぱり高い?!
では、一般的な企業に勤めている人との給料と比べたら、学校の先生の給料は高いのでしょうか。厚生労働省の賃金構造基本統計調査の結果によれば、2016年の一般労働者の平均賃金は30万4300円、2019年は30万7700円となっており、増加しています。
●一般企業の賃金と、学校の先生の給料
文部科学省「学校教員統計調査」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より筆者作成
一般労働者の賃金はアップしていて、教師のほうは、小学校では横ばい、中学校・高等学校ではダウンしています。とはいえ、それでも学校の先生の給料は高いようです。また、長く働ける仕事ですし、国公立なら公務員ですから安定もしています。そのため、広く人気の職業になっているのでしょう。
一般企業での勤務経験のあと、教員採用試験を受けて学校の先生になる人もいます。近年は、多様な経験を持っている先生が望まれている背景もあり、社会人でも教員への転職はしやすくなっているようです。
サラリーマンより教師のほうがいい?
ということは、やはりサラリーマンより教師の方がいい、と考える人が多いのかもしれません。
職業として考えた場合の、教師のお金の面でのメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
●教師のメリット1:解雇のハードルが高い
教師は基本的に、解雇=クビになることはないと考えてもいいでしょう。少子化とはいえ公務員であれば簡単に解雇とはなりません。子どもがいれば教育は必要ですから、将来的にもなくなる職業ではないと考えられます。
典型的な、長くできる仕事、安定している仕事と言えるでしょう。
●教師のメリット2:ローンやクレジットカードの審査が通りやすい
教師は、社会的に安定していて、しっかりした職業と評価されています。そういったイメージだけでもメリットかもしれませんが、より具体的にとらえるなら、ローンやクレジットカードの審査が通りやすいことがメリットと言えます。
とはいえ、高額すぎる住宅ローンを抱えたり、多数のクレジットカードを作ってリボ払いをするようだと、かえってデメリットになりかねませんので注意が必要です。
●教師のメリット3:ポイ活がしやすい
ポイント活動、略してポイ活では、クレジットカードの申し込み、新築マンションの内見、保険見直し、口座開設、新車購入の見積もりなどでポイントが貯められます。このとき、一定の年収や勤務先であることが条件になっていることもあります。
その点、安定していて高給取りの教師であれば、まず問題ないでしょう。
●教師のメリット4:成功報酬ではない
教師の給料は、勤務年数によってアップしていくことが通例です。一般企業のように、成果をあげたらインセンティブがもらえたり、ボーナスの査定に大きく影響したり、といったことは基本的にありません。
私立学校などでは進学率の目標が設定されているところもありますが、基本的に教育は長い目で見るものです。給料アップのために目先の成果に追われる必要がないのは大きなメリットでしょう。
●教師のメリット5:産休・育休がとりやすい
学校の担任の先生が産休・育休のために休んで、しばらく臨時の先生が来た、という経験をした人も多いのではないでしょうか。最近では男性の育休取得も増えていて、出産、育児のしやすい環境が整ってきています。
公務員は、民間企業の育休が2年までであることに対して、3年間取得することができます。
●教師のメリット6:給食で栄養バランス◎
小学校、中学校で給食のある学校であれば、教師も給食を食べられます。格安で栄養バランスのとれた給食を毎日食べられるのは、お財布にも健康にも大きなメリット。健康維持によって長く働くことができれば、さらにお得です。
ランチに外のレストランなどに行くのも楽しいものですが、それは夏休みなどの長期休暇にすればよいことです。
一方、教師だからこそ気を付けたいこともあります。
●教師の注意点1:残業代がない
一般的な会社員なら、仕事は月曜日~金曜日の9時~18時、残業したら残業手当がもらえます。一方、教師の勤務時間はかなり多いと考えざるをえません。
児童、生徒が登校する前、7時半くらいには学校に到着、仕事は21時くらいまでかかることも。担当する部活によっては土日の出勤も必要です。
残業代にあたる分は、教職調整金として給与月額の4%が支給されていますが、時間当たりで考えると決して「高給」とは言えないかもしれません。
もっとも、文部科学省は法律の見直しに向けた検討を始めるという報道もあります。
●教師の注意点2:ストレスが多い
教師は人を相手にする仕事です。それだけに人間関係のストレスも多いと言われています。児童、生徒は成長途中ですから、身体も心も不安定。また、子ども達の親に対しても何かと気苦労が多いのも事実。モンスターペアレンツという言葉もあるように、教師の手に余ることも少なくありません。
メンタルを病んで休職、離職、となってしまったら大きな痛手になってしまいます。
給料だけではなく、老後の年金にも注意
学校の先生は、さまざまな苦労がありつつも、定年まで勤めれば、その後の老齢年金も充実していました。かつて、先生は公務員を対象とした共済年金に加入することができ、悠々自適な老後を送れるようになっていたのです。
しかし、現在は会社員などと同じ厚生年金に統一されています。老後の年金は減る傾向ですので、そういった面でのメリットは少なくなりました。
そのため、学校の先生もまた、自身の老後資金のためにはそれぞれ準備することが大切になってきています。具体的には、おトクに老後資金を形成できるiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)や、つみたてNISA(積立ニーサ)などを活用するといいでしょう。
iDeCoは、毎月5000円から老後資金を用意できる制度。投資信託などで運用します。掛金は全額所得控除ですから節税にもなります。さらに、運用益も非課税ですし、受取時にも税制の優遇があります。
投資信託はリスクの小さなタイプもありますが、元本保証ではないので損失を出す可能性があります。リスクを取りたくない場合には、保険や定期預金といった元本確保型もあるので、積極的に考えたい資産形成方法です。
iDeCoは基本的に60歳までは引き出せませんが、学校の先生なら安定した職業なので、急にお金が必要になることも少ないのではないでしょうか。いざという時の緊急予備資金は預金で準備しておき、老後資金としてiDeCoを利用するのがオススメです。
つみたてNISAは年間40万円までの投資の運用益を最長20年にわたって非課税でにできる制度。iDeCoのような所得控除はありませんが、iDeCoと違っていつでも引き出せますし、積立をやめたり休んだりすることも柔軟にできます。
つみたてNISAでは、金融庁の定めた基準をクリアしている投資信託で運用します。手数料が安くて長期の資産形成に向いた商品ばかり。比較的安心して投資できるでしょう。忙しくて、値動きなど頻繁にチェックしていられないような忙しい人にもオススメです。
なお、つみたてNISAは2024年から制度が変わります。投資可能期間が恒久化され、非課税期間が無制限になり、年間の投資額が120万円(つみたて投資枠)+240万円(成長投資枠)までとなるなど、大幅に拡充されます。
まとめ
学校の先生の給料は、一般企業と比べて高いことがわかりました。しかし、仕事を選ぶ際には、自分に合った働き方ができるかどうかも大切です。目先の給料だけに左右されず、バランスをとった仕事選びをするためには、マネーリテラシーを身につけることも大切でしょう。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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