22/07/26
パターン別亡くなったときの年金の手続き 遺族が受け取れるお金はどれ?
一家の家計の担い手が亡くなった場合に、残った家族がお金を受け取れるというのが遺族年金の制度。しかし、「万が一のことがあったら遺族年金がもらえる」ということは知っていても、遺族年金がどんな仕組みなのかはあまり知らないという人も多いようです。
今回は、パターン別にもらえる遺族年金の種類や対象、もらえる条件、手続き方法について解説します。どのご家庭でもあり得る「万が一」に備えて遺族年金制度について今のうちに確認しておきましょう。
万が一のときに受け取れる遺族年金をパターン別に紹介
遺族年金は、国民年金または厚生年金の被保険者(被保険者であった人)が亡くなった時に、被保険者の配偶者や子など、被保険者によって生計を維持されていた遺族に支給される年金です。
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、被保険者の年金の納付状況などによって、どちらか一方または両方の年金が支給されます。
また、遺族年金がもらえない場合の救済策として支給される「寡婦年金」と「死亡一時金」もあり、要件によってどの遺族年金をもらえるのかが異なります。
しかしながら、遺族年金の仕組みをすべて理解するのはとても大変です。そこで、まずはご自分がどの遺族年金に該当する可能性があるのかをフローチャートでおおまかに確認してみましょう。
●遺族年金フローチャート
筆者作成
このように、どの遺族年金がもらえるのかは、亡くなった人が加入していた年金制度や保険料の納付状況、収入金額、家族の年齢などさまざまな要件で変わってきます。
例えば、遺族基礎年金は一定年齢の「子」がいなければ受け取れませんし、自営業やフリーランスで厚生年金保険に加入していない方は、亡くなっても遺族に遺族厚生年金は支給されません。また会社員であった妻が亡くなっても、「夫」は年齢要件を満たさなければ遺族厚生年金は受け取れないなど、受け取れる遺族年金の種類は家庭ごとに違うことを念頭にいれておきましょう。
遺族年金がもらえる条件「生計維持関係」とは?
上記のチャートにも出てきましたが、遺族年金がもらえる条件を説明する際、「生計維持」や「生計維持関係」という用語がよく登場します。
生計維持とは、亡くなった被保険者と「①生活(家計)を同一」にしていて、かつ「②本人の収入が一定以下の状態」のことを指します。また生計維持関係とは、生計維持の状態にある被保険者と配偶者または子との関係を指します。
「①生活(家計)を同一」とは、一番わかりやすい例でいえば一緒に住んでいる人のことです。そのほか、事情があって、「一緒に住んでいるものの世帯を分けているケース」「住民票の住所は異なるが、一緒に住んでいるケース」でも、生活費や療養費などの援助があれば生計維持は認められます。また、別の家に暮らしていても、「生活費や療養費などの援助がある」「健康保険の扶養に入っている」「定期的に連絡や訪問がある」など、一定の条件を満たせば問題ありません。
「②本人の収入が一定以下の状態」とは、前年の収入が850万円未満、もしくは所得が655.5万円未満であることです。今はこの金額を超えていても、定年などによって近いうちに収入か所得が下回る見込みであれば、生計維持と認められます。
それでは、各遺族年金の特徴、対象者、金額の目安、受給の条件などを細かく確認していきましょう。
子がいる人向けの「遺族基礎年金」
遺族基礎年金は、国民年金の被保険者であった人が受給条件を満たしている場合、子のいる配偶者または子が受け取ることができる年金です。
●遺族基礎年金の対象者
遺族基礎年金を受け取れるのは、子がいる配偶者と子です。
子とは次の者に限ります。
・18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
・20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子
また、前述したように被保険者によって生計を維持されていた子になるので、未婚であることが条件となります。
●遺族基礎年金の受給額(2022年度)
年金額=777,800円+子の加算
子の加算:第1子・第2子/各223,800円、第3子以降/各74,600円
ただし、遺族基礎年金を受給するためには、下記の「遺族基礎年金の支給要件」を満たすことが必要です。
遺族基礎年金が支給される要件
遺族基礎年金を受給するためには、亡くなった人が「被保険者等要件」と「保険料納付要件」を満たしており、遺族も要件を満たす必要があります。
●亡くなった人の被保険者等要件
死亡日において、亡くなった人が次のいずれかに該当する時に、支給対象となるご遺族がいれば遺族基礎年金が支給されます。
①国民年金の被保険者であること。
②国民年金の被保険者であった人で、死亡当時日本国内に住民登録があり60歳以上65歳未満であること。
③老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上あること。
④老齢基礎年金を25年以上の受給資格期間で受給していた人であること。
●亡くなった人の保険料納付要件
亡くなった人が前述した被保険者等要件の①または②に該当する場合、死亡日の前日において以下の保険料納付要件のいずれかを満たす必要があります。
・死亡日が含まれる月の前々月までの被保険者期間に、国民年金の保険料納付済期間および免除期間、厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間の合計が3分の2以上あること。
・死亡日が2026年3月末日までの時は、亡くなった方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未払いがないこと。
なお、国民年金だけに加入している自営業者等が老齢基礎年金を受け取らずになくなった場合には、条件を満たしていれば、遺族は、寡婦年金もしくは死亡一時金を受け取ることができます。
寡婦年金と死亡一時金の受給条件と金額は、次のとおりです。
●寡婦年金
・国民年金の保険料を25年以上支払った夫が年金を受給せずに死亡した場合に妻が受給できる
・受給期間は妻が60歳から65歳に達するまで
・年金額は、夫の老齢基礎年金額の4分の3
●死亡一時金
・国民年金の保険料を納付した期間が合計3年以上ある人が年金を受け取らずに死亡した場合に保険料納付済み期間に応じて支払われる一時金
・死亡一時金の額は、保険料を納めた月数に応じて120,000円~320,000円
なお、寡婦年金と死亡一時金の両方の受給要件を満たしている場合には、どちらかを選ぶことになります(両方は受け取れません)。
子がいなくても受給できる「遺族厚生年金」
遺族厚生年金は、会社員や公務員などが加入している厚生年金の保険料を支払っていた人が対象となります。亡くなった人が受給要件を満たしていれば、子がいなくても支給されます。
●遺族厚生年金の対象者
遺族厚生年金の対象者は、被保険者によって生計を維持されていた配偶者、子、父母、祖父母、孫です。その中でも優先順位が定められています。
【遺族厚生年金の優先順位】
①配偶者または子(遺族基礎年金の子と同じ意味合い)
②父母
③孫(子と同じ制限がある)
④祖父母
このうち①配偶者または子は、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受給することができます。ただし、受給する配偶者が30歳未満の妻であれば5年間しか受給できず、55歳未満の夫にはそもそも受給権がありません。
遺族厚生年金の受給額
遺族厚生年金の受給額は、受け取る予定だった(受け取っていた)老齢厚生年金(報酬比例部分)の額の4分の3に当たる金額で、加入期間中の報酬額や加入月数に基づいて計算されます。ただし、加入月数が300ヶ月に満たない場合には300ヶ月(=25年)で計算されるので、若くして亡くなり加入期間が短かった場合にも、まとまった金額の年金が受け取れます。
遺族厚生年金が支給される要件
遺族厚生年金を受給するには、亡くなった人が以下の5項目のうちいずれかを満たしている必要があります。
●亡くなった人の被保険者等要件
①厚生年金に加入していること
②厚生年金の加入中に初診日のある傷病が原因で被保険者の資格を喪失した後、その初診日から5年以内に死亡したこと
③1級または2級の障害厚生年金を受給している
④老齢厚生年金を受給している
⑤老齢厚生年金の受給資格期間を満たしている
なお、①から③は短期要件、④と⑤は長期要件と呼ばれています
また、亡くなった人が以下のとおり保険料を納めている必要があります。
●亡くなった人の保険料納付要件
・亡くなった人の保険料納付期間が国民年金加入期間の3分の2以上であること
・死亡日に故人が65歳未満の場合は、死亡日の2カ月前までの1年間に保険料の滞納がないこと
遺族年金の種類別手続き方法
遺族年金は自動的にもらえるわけではありません。年金をもらうためには各年金の申請窓口で遺族年金の受給申請が必要です。もらえる遺族年金の種類別に手続き方法をご紹介します。
●遺族基礎年金の手続き方法
国民年金に加入中の家族が亡くなった場合にもらえる遺族基礎年金の申請窓口は、「市区町村の役所にある年金担当窓口」です。
遺族基礎年金を申請するときには、市区町村の役所、近くの年金事務所もしくは街角の年金相談センターの窓口にも備え付けてある年金請求書に必要事項を記入し、必要書類を添付して提出します。
家族が亡くなった時には役所に死亡届を提出しなければならないので、その際に遺族年金の手続きについて確認しておくとよいでしょう。
●遺族厚生年金の手続き方法
厚生年金に加入中の家族が亡くなった場合にもらえる遺族厚生年金の申請の窓口は「年金事務所」です。
遺族厚生年金を申請するときには、近くの年金事務所または街角の年金相談センターの窓口にも備え付けてある年金請求書に必要事項を記入し、必要書類を添付して提出します。
遺族基礎年金でも遺族厚生年金でも、申請する際には以下のものが必要になるので、用意しておきましょう。
【必要書類】
・年金手帳
・戸籍謄本(記載事項証明書)
・世帯全員の住民票の写し
・死亡者の住民票の除票
・請求者の収入が確認できる書類(所得証明書、課税証明書、源泉徴収票など)
・子の収入が確認できる書類
・市区町村長に提出した死亡証明書
・受取先金融機関の通帳等(本人名義)
・印鑑
その他状況によって必要な書類は異なるので、詳しく知りたい場合は、日本年金機構のホームページを確認しましょう。また、日本年金機構が運営する「ねんきんダイヤル」での電話相談、年金事務所の窓口で直接相談することも可能です。
万が一に備えて「我が家の場合」を確認しておこう
遺族年金の種類、受け取れる人の条件や金額を紹介してきました。どんな種類の遺族年金がいくら受け取れるのか、ひとつひとつ条件を確かめながら、万が一のときに我が家で受け取れる遺族年金について確認しておきましょう。
国民年金保険料の未納期間があると、老後の年金が受給できなかったり受取額が少なかったりするだけでなく、万が一の際、遺族が遺族基礎年金の受給ができないといったことも起こりえます。公的年金制度への加入状況については「ねんきん定期便」が誕生月に届くので、定期的に公的年金制度への加入歴や報酬額などを確かめておくとよいでしょう。
またもし、国民年金保険料の支払いが難しい場合は、保険料の免除や猶予の制度もあるので検討されることをおすすめします。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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