22/06/20
年収700万円、1400万円、2100万円の手取り額はいくら違うのか
年収はできるだけ多い方が安心して暮らせます。しかし、年収が2倍、3倍に上がっても、手取り額はそれほど増えるわけではありません。今回は、年収が700万円から2倍、3倍に増えたとき、手取り額がどう変化するかを説明します。一定額を超えたときの影響についても知っておきましょう。
年収が上がると税金や社会保険料の割合も大きくなる
年収が上がっても、思っているほど手取り額は増えません。給料からは税金(所得税、住民税)及び社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料)が天引きされます。税金も社会保険料も、年収が増えると支払う金額は多くなるためです。特に、所得税は年収が上がり、所得が増えるほど税率が高くなり、負担が増大します。
年収700万円の手取り額は?
国税庁の民間給与実態統計調査(令和2年)によると、1年以上勤務した給与所得者の平均給与は433万円。年収700万円は決して少ない金額ではありません。年収700万円の手取り額はいくらになるのでしょうか?
40歳以上65歳未満で配偶者や扶養親族のいない人を想定した場合、年収700万円での手取り額は、概ね次のとおりです。
●年収700万円の手取り額
筆者作成
年収700万円の場合、手取り額は500万円ちょっとです。この年収でも、税金と社会保険料で手取り額は100万円以上減ってしまいます。
年収700万円のラインを超えて、さらに年収が増えると、どのような影響が出るのでしょうか?年収700万から年収1400万円までの間にあるいくつかの壁について説明します。
【年収762万円】
・厚生年金保険料が上限に達する
厚生年金保険料は、1か月の給与(報酬月額)をもとに等級が決まり、等級ごとに定められた金額を納めます。厚生年金保険料の等級は32等級まであります。32等級に該当するのは報酬月額63万5000円以上の人で、厚生年金保険料は月額5万9475円です。賞与がないものと仮定すると、報酬月額63万5000円は年収762万円。年収762万円を超えるくらいになると、とりあえず厚生年金保険料が増える心配はなくなります。
【年収850万円】
・遺族年金がもらえない
遺族年金は、国民年金または厚生年金の被保険者が亡くなったとき、その人に生計を維持されていた家族に支給される年金です。遺族年金の「生計を維持されていた」という要件をみたすには、生計を同じくしていることのほか、年収が850万円未満であることが必要です。たとえば、妻の年収が850万円以上の場合、夫が亡くなっても妻は遺族年金をもらえません。
・加給年金・振替加算がなくなる
加給年金とは、老齢厚生年金受給者に生計維持関係にある家族がいる場合に加算される年金です。加給年金の生計維持要件も、年収850万円が基準になります。たとえば、夫が厚生年金受給者となっても、妻の年収が850万円以上なら、加給年金の対象外です。妻が65歳になって加給年金を打ち切られた後、妻自身の老齢基礎年金に上乗せされる振替加算についても、同じく年収850万円未満の要件があります。
・2020年以降は所得税・住民税が増税になっている
税制改正により、2020年度から所得税の基礎控除と給与所得控除の金額が変わっています。年収850万円以下の人は、基礎控除が10万円上がり給与所得控除が10万円下がったので、影響はありません。一方、年収850万円を超える人は給与所得控除の引き下げが大きく、増税になっています。
【年収910万円】
・高等学校等就学支援金がもらえない
高等学校等就学支援金は、高校生の授業料を国が支援するものです。高等学校等就学支援金をもらうにも所得制限があります。所得制限にかかる年収の額は両親の就労状況や家族構成によって異なりますが、年収910万円を超えると支援が受けられなくなる可能性があります。
【年収960万円】
・児童手当が減額される
児童手当は中学校卒業までの子供がいる世帯の親に支給される手当です。子供の年齢または人数によって、1人につき月額1万円または1万5000円が支給されます。年収960万円を超えると、児童手当の所得制限にかかってしまい、月額5000円に減額されます。なお、所得制限にかかる年収は、両親の就労状況や家族構成によって変わります。
【年収1195万円】
・配偶者控除、配偶者特別控除が受けられなくなる
配偶者控除、配偶者特別控除は、要件をみたす配偶者がいる場合に受けられる所得控除です。配偶者控除、配偶者特別控除を受けるには、本人の所得が1000万円以下でなければなりません。給与所得者の場合、所得1000万円は年収1195万円です。配偶者がいる場合、年収1195万円を超えると、所得税・住民税の負担がさらに大きくなります。
【年収1200万円】
・児童手当がもらえなくなる
児童手当については、所得制限(年収960万円)を超えている家庭にも特例給付として月額5000円が支給されています。しかし、2022年10月から年収1200万円を超える世帯の特例給付が廃止されます。今後は年収1200万円を超えると、児童手当がもらえなくなってしまいます。
年収1400万円の手取り額は?
続いて、年収700万円のときと同じ条件で、年収1400万円になった場合の手取り額を見てみましょう。
●年収1400万円での手取り額
筆者作成
年収1400万円と言っても、手取り額は1000万円に届きません。税金と社会保険料で給料の3分の1近くがなくなります。特に、所得税は年収700万円のときの6倍近くになっています。年収700万円から年収1400万円になると、額面年収は2倍に増えても、手取り額は約1.8倍しか増えないのです。
年収1400万円から年収2100万円までにある壁について説明します。
【年収1626万円】
・健康保険料が上限に達する
健康保険料の等級は50等級まであり、報酬月額135万5000円以上(協会けんぽ・東京都の場合)の人が50等級に該当します。賞与がないものと仮定すると、年収1626万円。健康保険料は6万8179円(40歳以上は介護保険料を含む7万9577円)です。年収1626万円を超えるくらいになると、健康保険料が増えることはありません。
【年収2000万円】
・サラリーマンも確定申告が必要
年収2000万円を超える会社員は、会社で年末調整をしてもらえません。自分で確定申告する手間が発生します。年収が増えると、お金の負担だけでなく、面倒なことも増えてきます。
年収2100万円の手取り額は?
年収2100万円では、次のようになります。
●年収2100万円での手取り額
筆者作成
年収2100万円になると、3分の1以上が税金・社会保険料です。年収700万円と比べると額面年収は3倍ですが、手取り額は約2.6倍にしかなりません。
年収2100万円のラインを超えて影響が出る年収は、次のとおりです。
【年収2595万円】
・基礎控除が減額する
所得税の基礎控除は年収2595万円(所得2400万円)以下なら48万円ですが、それを超えると段階的に減り、年収2695万円(所得2500万円)を超えると0円となります。年収2600万円くらいになると税率も40%程度。さらに、所得から控除できるお金も減ってしまうので、税負担の重さを実感することになります。
まとめ
年収が増えるのは嬉しいものですが、税金や社会保険料の負担が増え、手取り額が減ることも認識しておきましょう。社会保険料を減らすのは困難ですが、税金については節税する方法があります。
たとえば、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)に加入すれば、払った掛金が全額所得控除できます。また、ふるさと納税により寄付を行えば、2000円を超えて払った部分について所得控除の対象となります。年末調整や確定申告では、個人の事情に合わせて所得控除を受けることもできます。所得控除によって、所得税や住民税が安くなれば、結果として手元に残るお金が多くなります。
年収が増えてきたら、手取り額を増やすのに有効な方法を考えるようにしましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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