22/07/03
年金の繰り上げ・繰り下げの注意点を徹底解説
国民年金・厚生年金の受給開始は原則65歳ですが、希望すれば60〜75歳の間で受け取りを開始することができます。60〜64歳で年金の受け取りを開始することを繰り上げ受給、66〜75歳で年金の受け取りを開始することを繰り下げ受給といいます。年金の繰り上げ・繰り下げによって、受け取れる金額が変わってきますが、それぞれデメリット・注意点があります。
今回は、年金の繰り上げ・繰り下げのデメリット・注意点を解説します。
年金の繰り上げ受給の5つの注意点
●年金の繰り上げ受給の注意点1:年金額減額は生涯続き、取り消せない
年金の繰り上げ受給の減額は、生涯続きます。たとえば、60歳時点で受給開始した場合、24%減額された年金額がずっと続きます。一度申請すると取り消せません。
●年金の繰り上げ受給の注意点2:繰り上げ受給は国民年金・厚生年金同時
厚生年金も受け取れる方の場合、繰り上げ受給の申請は国民年金・厚生年金同時になります。なお、繰り下げ受給は国民年金だけ、厚生年金だけを選ぶことができます。
●年金の繰り上げ受給の注意点3:国民年金の任意加入ができなくなる
繰り上げ受給すると、国民年金の任意加入ができなくなります。国民年金の任意加入ができないと、未納期間が埋められなくなるため、年金額を増やすことができなくなってしまいます。国民年金保険料の追納も同様にできなくなります。国民年金保険料が1年間未納だと、受け取れる年金額が年約2万円減ります。
●年金の繰り上げ受給の注意点4:障害基礎年金が受け取れなくなる
老齢基礎年金を繰り上げ受給したあとに所定の障害状態になっても、原則として障害基礎年金が受け取れません。障害基礎年金は原則「65歳未満」が対象なのですが、繰り上げ受給をすると「65歳に達した」とみなされてしまうためです。
障害基礎年金の金額は2級の場合老齢基礎年金と同額。1級の場合は2級の1.25倍、約100万円が非課税で受け取れます。仮に病気やケガで障害を負っても、繰り上げ受給を選択すると障害基礎年金は受け取れなくなってしまいます。
●年金の繰り上げ受給の注意点5:寡婦年金が受け取れなくなる
寡婦年金とは、10年以上保険料を払った第1号被保険者(自営業者など)の夫が老齢年金をもらう前に亡くなったときに、一定の条件を満たすことで妻がもらえる年金です。
妻が繰り上げ受給をすると、寡婦年金は受け取れなくなります。また、寡婦年金の受給中に繰り上げ受給をすると、寡婦年金を受け取る権利も消滅します。
年金の繰り下げ受給の4つの注意点
●年金の繰り下げ受給の注意点1:長生きできないと損になる
年金の繰り下げ受給をすると、年金額は増加しますが、元が取れるのは約12年後。75歳まで繰り下げれば、確かに年金は84%増えるのですが、損益分岐点は約12年後ですから、86歳以上まで生きないと総額ベースで損をすることになります。
●年金の繰り下げ受給の注意点2:税金や社会保険料も増える
75歳まで繰り下げると年金額は84%増えますが、この金額はあくまで「額面」ベースです。年金額が増えれば、税金や社会保険料などが増えるため、「手取り」は同じ金額だけ増えるわけではありません。
●年金の繰り下げ受給の注意点3:繰り下げの対象外の年金がある
加給年金、振替加算、特別支給の老齢厚生年金といった年金は、繰り下げをしても金額が増えません。
加給年金は、65歳未満の配偶者や18歳の年度末を迎えるまでの子を扶養しているときに支給される年金です。加給年金の対象になっていた配偶者が65歳になり、自分の年金を受け取れるようになると、加給年金は打ち切られます。しかし、その代わりに妻の老齢基礎年金に振替加算がつくようになります(1966年4月2日生まれ以降の方は受給不可)。
加給年金や振替加算は、年金を繰り下げている間は受け取れなくなります。
●年金の繰り下げ受給の注意点4:繰り下げ中に亡くなっても、遺族年金は65歳時点の金額で計算
繰り下げ中に亡くなった場合、条件を満たすと遺族が遺族年金を受け取れます。しかし、遺族年金の金額は、繰り下げで増額される前の金額を基準として計算されます。たとえ75歳ごろまで繰り下げてきたとしても、亡くなった場合には遺族は繰り下げのメリットを受けられません。
年金をもらうための手続きの流れ
65歳になると、老齢年金を受け取る権利が発生します。国民年金の老齢年金を「老齢基礎年金」、厚生年金の老齢年金を「老齢厚生年金」といいます。これらの老齢年金は、65歳になったからといって自動的に支給が始まるわけではありません。年金は、請求手続きをすることではじめて受け取れます。
年金をもらうための手続きは、次のとおりです。
●年金をもらうための手続きの流れ
①(65歳になる3か月前)日本年金機構から「年金請求書」や「老齢年金のお知らせ」などの書類が自宅に届く
②年金請求書に必要事項を記入
・すでに記載のある内容に誤りがないか確認するとともに、その他の項目を記載
・間違いがあったら、二重線で消して修正
③(65歳の誕生日以降)必要書類を用意し、年金請求書とともに提出
・必要書類は人により違うので、年金事務所などに確認
・提出先は、すべての期間が国民年金の場合は市区町村の窓口。厚生年金も受け取る場合や国民年金の第3号被保険者は年金事務所または年金相談センター
④(提出の1〜2か月後)年金証書・年金決定通知書が届く
⑤年金の振り込みがスタート
・偶数月の15日に、2か月分の年金が受け取れる
注意すべきなのは、繰り下げ受給をするときです。
繰り下げ受給は、あらかじめ「いつまで繰り下げる」と申請する必要はありません。年金請求書が65歳の3か月前に届いたからといって、うっかり手続きをしてしまうと、年金も65歳からの支給になってしまいます。
繰り下げ受給の場合は、65歳時点では手続きせず、66歳以降の受け取りを希望する時期に年金請求書を提出するだけですので、くれぐれもご注意ください。
まとめ
年金の繰り上げと繰り下げ、それぞれデメリット・注意点を紹介しました。どちらを選んだとしても、合計で得られる年金額は寿命次第ですので、正解はわかりません。
今回ご紹介した年金の繰り上げと繰り下げのデメリット・注意点を踏まえた上で、納得のいく方法をお決めいただければと思います。
今回の内容は動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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