22/05/14
月収25万円・35万円・45万円の人が43年会社に勤めたら、年金はいくらもらえるのか
会社員など厚生年金に加入している人は、自営業やフリーランスなど国民年金だけに加入している人に比べて多くの年金をもらえるという話を聞いたことがある人は多いと思います。では、実際にこの先会社勤めを続けたとして、将来どのくらいの年金がもらえるものなのでしょうか。
今回は、日本の年金制度が会社員に手厚い理由と、どのくらいの年金がもらえるのかを年収と勤続年数だけで厚生年金受給額をざっくり把握する方法をご紹介します。
日本の年金制度が会社員に手厚い理由
まずは、公的年金の仕組みについておさらいをしておきましょう。
日本の年金制度は、よく家にたとえられて「2階建て」「3階建て」といわれます。
●日本の年金制度は3階建て
筆者作成
現在の年金制度は、職業別にもらえる年金が決まる仕組みです。1階建ての人もいるし、3階建ての人もいるシステムです。当然、通常は「1階建て」の人(自営業・フリーランスなど)より「2階建て」「3階建て」のある会社員のほうが、受け取る年金額は多くなります。
このうち、日本の公的年金は1階部分の国民年金と2階部分の厚生年金の2つです。老後国民年金からは「老齢基礎年金」、厚生年金からは「老齢厚生年金」をもらうことができます。3階部分の企業年金やiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は私的年金といって、公的年金に上乗せする年金制度です。
厚生年金の平均月額は国民年金の約2.6倍にもなる
今回は公的年金、1階部分と2階部分の年金支給額について詳しく確認していきます。実際に老齢基礎年金・老齢厚生年金を受給している人の平均年金月額は、次のとおりです。
●老齢年金受給者の平均年金月額推移
※厚生年金の金額には国民年金を含む
厚生労働省年金局「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より筆者作成
平均年金月額は、毎年多少の前後があります。2020年度の平均年金月額は、国民年金受給者が5万6358円、厚生年金受給者が14万6145円となっています。厚生年金受給者の年金は、約5.6万円の老齢基礎年金に9万円弱の老齢厚生年金が上乗せされ、厚生年金が国民年金の約2.6倍となっています。
もっとも、これはあくまでも受給者の平均額であり、実際に皆さんがもらえる金額は、過去の加入状況により異なります。そのため、実際に将来自分がもらえる年金額についても把握しておきたいですね。
将来自分がもらえる年金額はいくらなのか?
日本の年金制度は複雑で、法改正もたびたび行われているため、数十年後の自分の年金額を正確に知ることは難しいですが、老後の生活をお金の面から考えるためには、「大体いくらもらえそうなのか」という目安はつかんでおくとよいでしょう。そこで、年金額が決まる仕組みを理解することで、将来自分がもらえる年金額を計算してみましょう。
●老齢基礎年金の満額年金額
老齢基礎年金は、20歳~60歳までの40年間保険料を納付した場合の満額年金額が毎年法令で決められます。2022年度の満額年金額は77万7800円(月額6万4816円)となっています。
実際に個人が受け取れる年金の額は、保険料を納付した期間および免除になった期間に応じて決まります。20~60歳までの期間で国民年金を納めなかった期間があれば、その分、老齢基礎年金額は減額されます。国民年金保険料を40年間納付して約78万円の年金額になるということは、1年納付しなかった期間があった場合、約1万9500円ずつ老齢基礎年金額が減額されることになります。
逆に、60歳を過ぎても会社員として働き続ける場合、給料から天引きされている厚生年金保険料に、国民年金保険料が含まれますが、その分の保険料は老齢基礎年金には反映されません。
例えば、22歳から65歳まで会社で働き続けた場合、43年間保険料を納付することになりますが、老齢基礎年金にあたる部分は40年間で満額に達しますのでそれ以上増えることはありません。
●老齢基礎年金の計算方法
老齢基礎年金の受給資格要件は「加入期間が10年以上あること」となっています。受給資格要件を満たしていることが前提条件にはなりますが、老齢基礎年金をどのくらい受け取れるかは、比較的簡単に計算することができます。ざっくりした計算ですが、次の計算式を覚えておくといいでしょう。
【かんたん計算式】
老齢基礎年金額=1万9500円×加入年数 ※加入年数は40年が限度
●老齢厚生年金の計算方法
2階部分の老齢厚生年金は、老齢基礎年金に上乗せされる形で支給されます。その分、受け取る年金額が多くなるのです。
老齢厚生年金の額は、老齢基礎年金のように一律ではありません。会社に勤めていた年数や、その間の給料がどのくらいかによって、もらえる額が変わります。また、厚生年金には70歳まで加入できるので、60歳以降も働くことで年金額を増やすことができます。
老齢厚生年金の額を計算する際には、これまでの収入額および加入期間を用います。老齢基礎年金の計算に比べ少し複雑になりますが、老齢厚生年金の金額も自分で計算することは可能です。
老齢厚生年金の金額は、2003年3月までの厚生年金加入期間と、2003年4月以降の厚生年金加入期間に分けて計算します。これは、これまで何度かあった年金制度の改定で、年金額の計算に用いる給付乗率が改定されたためです。
本稿執筆時点(2022年5月)で30代後半以上の人のなかには、2003年3月以前も厚生年金に加入していた人も多いはず。いつからいつまで加入していたか、年数がよくわからないという人は毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」を確認してみましょう。加入記録が詳しく記載されています。
加入期間の月数がわかったら、次のそれぞれの計算式で算出された金額を合計します。
●老齢厚生年金の計算式
老齢厚生年金額=A+B
A:2003年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額×(7.125/1000)×2003年3月までの加入期間の月数
B:2003年4月以降の加入期間
平均標準報酬額×(5.481/1000)×2003年4月以降の加入期間の月数
じっくり見ないと気づきにくいですが、上の式のAとBでは計算のベースとなる金額が異なります。Aは「平均標準報酬月額」となっていますが、Bは「平均標準報酬額」です。
Aの計算に用いる平均標準報酬月額は、先に厚生年金保険料の計算に用いる「標準報酬月額」のことで、Bの計算に用いる平均標準報酬額は、「標準報酬月額」と、賞与から引かれる保険料を計算する際の「標準賞与額」の総額を、2003年4月以降の加入期間で平均したものです。
とはいえ、複雑ですね。これを自分で計算するのはやはり面倒…という方向けに、老齢基礎年金同様にざっくりと計算する方法を紹介します。
まず、これから何十年も働くという方は、大部分をBの期間が占めますので、計算式はすべてBを使います。そして、生涯の平均標準報酬額は、平均に近いといわれている38歳時の年収で置き換えてみましょう。また、給付乗率(5.481)も小数点以下の数字が多くなるほど敬遠したくなりますから、シンプルにして計算します。これで、大まかな年金額は把握できます。
【かんたん計算式】
老齢厚生年金額=38歳時の平均年収(万円単位の数字)×55×勤続予定年数
そして、厚生年金の加入者が受け取る年金は①老齢基礎年金+②老齢厚生年金の合計となります。上記のかんたん計算式のみを使って、月収25万円・35万円・45万円の人が22歳から65歳まで43年会社に勤めた場合の年金額を一覧表にしてみました。
●年収別の将来受け取れる年金額の計算例(43年勤続の場合)
筆者作成
平均月収25万円で賞与がなし(平均年収300万円)の人の国民年金受給額は1万9500円×40年=約78万円です。上でも紹介したとおり、勤続年数は43年でも、国民年金は40年で満額に達します。また、厚生年金受給額は300×55×43年=70万9500円、約71万円とわかります。よって、将来受け取れる年金額は約78万円+約71万円=約149万円と算出できました。
同様に、月収35万円で賞与が80万円(平均年収500万円)なら約196万円、平均月収45万円で賞与が160万円(平均年収700万円)なら約244万円となります。
将来受け取る年金額を増やすためにできること
上記でご紹介した「かんたん計算式」からも分かるとおり、老齢厚生年金は、会社員として保険料を払った期間と年収に応じて増えていきます。将来の年金額を増やそうと思えば、リタイアするまで1年1年を大切に、できるだけ長く会社員として働くことが将来の年金を増やすもっとも効果的な方法だと言えるでしょう。もちろん、現役中の収入を増やすことも将来の年金額アップには有効です。
それ以外に年金を加算する方法として、繰下げ受給をする方法があります。繰下げ受給では、本来65歳からもらえる年金を1カ月繰り下げるごとに年金額が0.7%加算されます。繰下げ受給する場合には最低12カ月(66歳になるまで)繰り下げることが必要ですが、その後は75歳までの間で、1カ月単位で自由に繰り下げ月数を決めることができます。12カ月繰り下げれば8.4%、70歳までの60カ月繰り下げれば42%、75歳までの120カ月繰り下げれば、なんと84%が本来の年金額に加算されることになります。
まとめ
厚生年金に加入していた人は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせてもらうことになるため、老齢基礎年金だけの人に比べると受け取る年金額は多くなります。
公的年金は一定の給付を行うことで生活の安定を図るための制度です。とはいえ、それだけで満足な生活ができるものではありません。加えて、平均寿命が延び続けている昨今では、蓄えていた老後生活資金が途中で不足するリスクも考えられます。
老後に必要な生活費の金額は人それぞれの暮らしぶりによっても異なりますが、一般的には定年まで勤め上げる場合でも年金だけで生活費のすべてをカバーすることはできないと考えられています。できるだけ満足できる生活になるよう、さらなる上乗せとして預貯金や投資などで今からしっかり老後資金を準備していきましょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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