21/10/21
岸田首相が目指す平和な社会~「核兵器のない世界へ 勇気ある平和国家の志」
2021年10月4日、日本の第100代総理大臣に岸田文雄氏が就任しましたね。そこで今回は、岸田総理大臣の著書から「核兵器のない世界へ 勇気ある平和国家の志」をご紹介します。同書では、外相時代の経験を通して、核兵器全廃への努力と難しさが語られています。
岸田総理大臣と反核ポリシー
内閣総理大臣に就任した岸田文雄氏は被爆地の広島出身で、かねてより核軍縮や核不拡散に強い思い入れがある方です。被爆者で反核運動家のサーロー節子さんとは遠い親戚関係にあたるそう。就任後初の所信表明演説でも「核兵器のない世界の実現に全力を尽くしたい」と表明しました。
2021年1月に核兵器を禁止する国際条約『核兵器禁止条約』が発効されましたが、その内容に核保有国が強く反発しています。そのためアメリカの影響下にある日本も不参加の立場をとっていますが、岸田氏は「唯一の戦争被爆国として、核保有国を“核のない世界”に引っ張る役割を果たさなければならない」と、国の決定とは多少異なる自分の見解を述べました。
彼の反核ポリシーは一貫していますが、外務大臣時代から核をめぐる厳しい現実に何度もぶち当たってははね返されてきたとのこと。内閣総理大臣就任の約1年前に発刊されたこの本には、外相として闘っていた頃の様子が克明に語られています。
世界を動かした外相時代
専任の外務大臣としては最長の4年7ヵ月にわたる在任期間中に、多くの国際会議の場で核軍縮を訴えてきた岸田氏。2016年4月のG7広島外相会合では、彼がホスト国の議長を務めました。この時に、G7の外相たちが揃って広島平和記念公園を訪問・献花し、さらに原爆ドームも訪れたのです。核保有国のアメリカ・イギリス・フランスの現職の外務大臣が広島を訪れて原爆資料館を視察したのは、歴史上初めてのことでした。
その流れを受けて、5月にはオバマ大統領(当時)が現職のアメリカ大統領として初めて被爆地の広島を訪れました。大統領は岸田氏の説明を受けながら平和記念公園の資料館を見学し、原爆慰霊碑に献花した後に、核兵器のない世界に向けた記念演説を行いました。
岸田氏は、これまで不可能だった核保有国の外務大臣やアメリカ大統領の広島訪問を水面下の交渉により実現させ、国際協調に向けて歴史に残る1ページを加えた影の立役者だったのです。
その後も彼は2020年のNPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議の準備委員会に、日本の外務大臣として初めて出席し、核軍縮・不拡散を促す演説を行って核兵器のない世界を目指す決意を示しました。この本会議は、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を受けて2022年に延期されましたが、開催された後の展開が気になるところです。
いつか核がなくなる日を目指して
目下、世界中がコロナウイルスの脅威に直面しています。これまでも幾度となく人類を生命の危険にさらす恐ろしいパンデミックが蔓延しましたが、そのたびに人々はなんとか治療法を発見して危機を乗り越えてきました。核問題も同様に、大勢の人が英知を合わせて克服しないと永遠に解決に至らないと氏は訴え、世界の理解と協調を求め続けています。
しかし現状を見ると、国際的に優位を保っているのは核を保有している国々です。核兵器を持つ中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本がアメリカの核に守られているのは事実ですし、核所持のパワーバランスで世の中が成り立っている今の状況では、強豪国が一斉に核を手放すというのは夢のまた夢。核兵器のない世界はまだまだ実現しそうにありません。
これまでもレーガン元米大統領、ゴルバチョフ元ソビエト連邦初代大統領、オバマ元米大統領といった大国の指導者たちが核兵器廃絶に挑戦してきましたが、厳しい現実に阻まれて成功しないまま、志半ばで任期を終えました。
たしかに今は現実味の薄い夢物語にすぎなくても、一歩一歩着実に国際社会に対して働きかけ続けることで、いつか全ての核が世の中から消滅する日が来るかもしれません。たとえずっと先の遠い未来になったとしても、その日が来るのを信じて、世界唯一の被爆国から平和に向けて核兵器全廃への努力を絶ゆまず続けるという、新しい首相の意志を感じられる内容となっています。
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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