20/12/05
育休明け時短勤務者、手取りが少ないのは社会保険と年金の手続き漏れの可能性大

育休が明けて、仕事復帰する方も多いと思います。育休復帰後は、時短勤務を選ぶ方が多いですよね。そして、育児と仕事を両立しながら迎える初めての給料日が訪れます。実はこの時、「思ったよりも手取りが少ない」と感じる方が多いようです。その原因の一つには、「復帰直後の社会保険料はけっこう高い」という事実があります。これはなぜなのか、紹介します。
育休後の手取り、思ったよりも少なく感じるのはなぜか?
育休が明けて、時短勤務で復帰する場合、当然、給料はフルタイムの時より減りますね。しかし、社会保険料は産休育休前の給料をもとに計算されます。そのため、もし産休育休前にフルタイムで働いていたとしたら、その給料をもとに社会保険料が計算されることになります。つまり、給料は時短で減ったのに、社会保険料はフルタイムの時の金額と同じで高いままという状況になります。
給料が下がっているのに、高い社会保険料を支払うなんて、アンバランスな状態ですよね。その結果が、「思ったよりも手取りが少ない」につながります。
でも、ご安心を! この状態を早く解消してくれる優遇制度があります。その制度の手続きが、「育児休業等終了時報酬月額変更届」の提出です。この制度の申請手続きは、基本的に自分から申し出ることになっていますので、育休明けの時短勤務者やこれから時短勤務予定の方は、しっかりと理解して手続きを忘れないようにしましょう。
社会保険料の基本的なルールをおさらいしておこう
通常、もらう給料からはあらかじめ厚生年金保険料や健康保険料といった名目で社会保険料が引かれていますよね。この厚生年金保険料や健康保険料は毎月の給与額を元にした標準報酬月額によって決定され、年1回、毎年9月に見直すルールとなっています。給与が支払われない育休期間は、標準報酬月額の変更も行われませんが、社会保険料の支払いも免除されているため、負担はゼロとなります。
しかし、育休があけると社会保険料の負担が復活します。さらに育休明けの社会保険料は、育休前にフルタイム(残業代含む)で働いていたときの給料をベースにしたものが適用されたままです。そのため、時短勤務にすると給料は育休前より減っているのにもかかわらず、引かれる社会保険料は変わりません。その結果、社会保険料の占める割合が相対的に高くなり、手取りが思ったよりも少なく感じるというワケです。
●基本給がカットされても社会保険料はそのまま

育休明けの社会保険料の負担を早く軽くしてくれる制度とは?
でも、子供が3歳未満なら育児休業等終了時報酬月額変更届を会社に提出することで、社会保険料を減額する制度を利用することができます。復帰後は残業が減ったり時短勤務をしたりして産休前よりも給与が下がることがよくありますので、通常の時も改定の適用を受けられやすくし、育児期間中の保険料負担を少しでも軽減しようとしたのが当制度のねらいです。
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出する際の利用条件は以下の通りです。
●育児休業等終了時報酬月額変更届提出時の利用条件
・3歳未満の子どもを養育していること
・新しい賃金の標準報酬が1等級以上低下していること
・育休明けの3カ月のうち少なくとも1カ月は17日以上※出社していること
※短時間就労者(パート)については、3カ月の出社日数がいずれも17日未満の場合は、
そのうち15日以上17日未満の月の報酬月額の平均によって算定します。
この届出をすれば、育休明け4カ月目からは産休明けの時短勤務の給料に基づいた社会保険料が引かれるようになります。
なぜ4カ月目からかというと、復帰後1カ月目から3カ月目の給与をもとに社会保険料を計算する必要があるためです。そのため、復帰後1カ月目〜3カ月目までは産休前の給与で計算された高い社会保険料を支払うことになりますが、次の9月改定のタイミングまでは待たなくてもよいため、メリットは十分にあります(毎年9月には必ず社会保険料の改定がありますので、復帰後すぐに9月を経過した方は、書類を提出することなく減額が行われます)。
上で紹介したA子さんが育児休業等終了時報酬月額変更届を提出すると、以下のようになります。
●社会保険料の負担が軽減する

4カ月目以降は、育休復帰後の標準報酬月額で社会保険料が計算されるため、負担が減ることになります。
これは、厚生年金保険料だけでなく健康保険料についても同じで、「育児休業等終了時報酬月額変更届」1枚出せば、年金と健康保険料同時に減額することができます。
届出書は、日本年金機構のホームページからダウンロード可能です。勤務者の申し出により、事業主が行う届け出なので、利用する場合はまず会社に問い合わせましょう。
時短でも将来の年金は減らさない!2つ目の優遇制度も忘れずに!
「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出すると、社会保険料を減らすことができることをご説明しました。ただし、厚生年金保険料の支払額が減ると、将来もらう年金額も減るのでは?という心配もありますよね。届出をすることで将来の受取年金の計算上不利になるのではないかと思われた方、ご安心ください。それを防ぐための「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」という優遇制度もあります。
これは、「養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出すると、子供が3歳になるまで産休前のフルタイム時代の社会保険料を支払ったものとみなして受け取る年金額を計算してくれる特例措置になります。つまり、「支払う社会保険料は安いのに、受け取る年金は減らない」というとってもありがたいオトクな制度になります。
この制度の申請は「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」にて行います。日本年金機構のホームページからダウンロード可能です。さらに、謄(抄)本または戸籍記載事項証明書と住民票の2通を用意すれば手続きできます。
「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」も勤務者の申し出により事業主が行うことになっているので、まず会社に問い合わせすることをおすすめします。もしうっかり申請し忘れていても、申請した日からさかのぼって2年間は対象となることができるので安心です。
まとめ
今回ご紹介した2つの制度を併用することで、時短勤務の給料に応じた厚生年金保険料の支払額にすることができて、さらに将来もらえる年金は子どもが生まれる前の給料に応じた額にできるというダブルの恩恵を受けられますので、これを利用しない手はありませんね。
もし「育児休業等終了時報酬月額変更届」の手続きがされているかどうか気になった方は、自分の給与明細でも確認できます。厚生年金保険料の金額が、復帰後4か月目(復帰時期によっては5か月目)から減額されていれば、この手続きがされているということです。時短勤務で復帰の際に提出した覚えがないという方は、手続きされていないかもしれません。会社か年金事務所に確認してみることをおすすめします。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。

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