20/09/13
早期退職は得か損か お金のプロが真剣に考えてみた
新型コロナの影響で、企業の業績は大幅悪化。コロナ倒産も全国に広がっています。
民間の信用調査会社、商工リサーチによれば、今年は8月13日までに、早期退職や希望退職を募集することを明らかにした上場企業は52社で、対象者は9323人です。すでに昨年1年間の35社を上回っています。
早期退職や希望退職に応じると「割増退職金」を受け取ることができます。
割増退職金の額というのは、企業にもっても異なりますし、募集事項、年齢、役職などによって様々です。一概にはいうこともできませんが、給与の12〜24ヵ月というのが多いのではないでしょうか? ということは、1000万円以上の退職金を受け取ることができるかも知れません。
1000万円という金額は大きいですね。ちょっと心が揺らぎそうになります。これを「超ラッキー!」と思ってよいのでしょうか?それとも「何かの罠!」なのでしょうか?
早期退職は損なのか得なのかを一緒に考えていきましょう。
バブル世代が早期退職しないと企業が苦しい? 「人事の2020年問題」
新型コロナの感染拡大で、業績悪化の企業が増えています。業績が悪化した企業は、経費削減とくに人件費の削減を急いでいますので、コロナ禍が長引けば早期退職、希望退職を募る企業はさらに増えていきます。もともと業績がよくても、大手企業では早期退職を募る傾向にありました。
とくに40代〜50代のバブル世代を狙い打ちにした早期退職です。
これは「人事の2020年問題」と言われることもあります。それが新型コロナの影響でなおいっそう追い打ちを掛けていると言うのが私の感想です。
では、「人事の2020年問題」とは何かというと2020年には、労働者の4人に1人が45歳から54歳になると予想されます。これはバブル時代(1980年後半)に大量に入社したバブル世代社員や団塊ジュニア世代の社員たちなのです。賃金もピークになり、管理職のポストへの昇進の時期とも重なります。ところが、その年代の人たちが多いため、ポストが足りないのです。
そして、このボリュームゾーンがそのまま退職を迎えると、一時期に支払う報酬が増えて業績を圧迫するという事態が予想されます。そこで、なんとか、そういう事態を避けたいと早期退職を推奨しているのです。
企業としては、退職金の上乗せをしてでも辞めて欲しいというのが本音でしょう。
早期退職で成功する人はどんな人なのか
戦後になってから日本企業は、終身雇用で年功序列という慣習が続いてきました。一生同じ会社で働いていると給与もどんどん上がって行くというのが慣例でしたが、もはやそれは過去のものです。
中高年には、できるだけ辞めてもらった方がいいという論理になるのです。
一方、労働者側の方はどうでしょうか?
たとえば、50歳で早期退職に応じて1年分の割増退職金を受け取ったとします。しかし、早期退職をしなかった場合には60歳までの10年間の給与、さらに定年での退職金を受け取ることができます。
もちろん、すぐに再就職することができて、現在の給与よりアップするのであれば、その方がいいことになります。でも、これはわかりません。
再就職とか、自分で起業して頑張れるという目途がたっている人にとっては、いいチャンスかも知れませんが、1年分の割増退職金だけを「超ラッキー」と思っている人は、一度よく考えてみてはいかがでしょうか?
早期退職金はいくらもらえる? それで90歳まで持つのか
厚生労働省の「就労条件総合調査」(2018年)によると、45歳以上の大卒・大学院卒の早期退職金は平均2326万円です。一方、2017年には三越伊勢丹ホールディングスの最大5000万円の退職金増額が話題になりました。2018年には日本ハムが約3850万円の割増退職金というニュースもありました。
たとえ5000万円の早期退職金を受け取ったとしても、年収500万円で暮らしていたとしたら、10年でなくなってしまいますね。
もし、割増退職金をもらってそのまま仕事を一切辞めてしまった場合には、どのくらいの金額ならば早期退職をしてもいいのでしょうか? 試算をしてみると最低でも9000万円ぐらい必要だというのがわかりました。
例えば、50歳で早期退職金9000万円を受け取ったとします。そのお金がうまく運用ができて年4%で回すことができれば、65歳から夫婦の年金額が年間150万円、50歳から年間400万円の生活費で暮らせ、なんとか90歳までは暮らしていくことができます。ただし旅行もなし、余裕資金もありませんから、介護が必要になった場合にはアウトです。いずれにしてもギリギリです。
割増退職金の額に注目をするのではなく、長い人生のライフプランを考えるようにしましょう。
早期退職する理由に「現在バイアス」が働いている場合がある
本稿のテーマは「早期退職金をもらうのが得か?損か?」ですが、うまく再就職先を見つけることができれば得になります。さらに再就職をすることで自分のキャリアアップの可能性もあります。しかし、再就職がうまくいかず、失業が長く続いたり、給与が下がったりして、キャリアアップに繋がらなかった場合にはマイナスです。それに単純に生涯給与という意味では、損になるということが多いです。
結論としては、人それぞれなので、どちらがいいとは言えません。ただ、目先の金額にとらわれると失敗するかも知れません。
行動経済学に「現在バイアス」という考えがあります。
これは、目先の利益を優先して、将来の利益を小さく評価してしまう傾向のことです。
つまり、今の1000万円と、1年後の1200万円のどちらの方により価値を感じるかということです。
人間はどうしても、いまのまとまったお金の価値を優先してしまいがちですが、目先のことだけにとらわれてしまうと失敗に繋がりやすいのです。将来設計を考えながら行動することが、成功に繋がると思います。
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長尾 義弘 NEO企画代表
ファイナンシャル・プランナー、AFP、日本年金学会会員。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『お金に困らなくなる黄金の法則』『最新版 保険はこの5つから選びなさい』『老後資金は貯めるな!』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)。監修には年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。
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