20/09/12
「64歳で退職するとお得」は本当なのか。失業給付にいくら差が出る?
多くの会社では、60歳や65歳で定年を迎えます。年金だけでは、心許ないと感じることから、元気なうちはできるだけ働きたいと思う人も増えています。しかし、働く期間が長いからといって、もらえる失業給付金額が多いとは限りません。
今回は年齢と失業給付に着目して考えてみましょう。
失業給付にも種類がある
定年退職であっても、辞めた日から収入が途絶えてしまうと、明日からの生活が不安になります。そこで、一定の期間雇用保険に加入していた場合には、会社を退職して働く意思と能力があり、仕事を探している状態ならば、雇用保険からの給付が得られます。
この給付は年齢によって、65歳未満の人がもらえる「基本手当」と65歳以降にもらえる「高年齢求職者給付金」の二つに分かれています。基本手当は、一般的には「失業手当」と呼ばれています。
基本手当や高年齢求職者給付金は、失業中の人が安心して仕事探しができるように支給されるものです。基本手当は、離職時の年齢や賃金によって給付額が異なります。離職後ハローワークに行って手続きすることで、64歳までは「基本手当」を、65歳以上は一時金で受け取る「高年齢求職者給付金」を受給することになります。
雇用保険からの給付は、会社を退職すれば誰でももらえるわけではなく、会社を辞める以前の一定期間に雇用保険に入っている必要があります。離職理由にも一定の要件があります。
2つの制度は、65歳を境にして内容が大きく異なります。受給要件・支給金額・受給日数の違いは次のとおりです。
●受給要件
基本手当
・離職の日以前2年間に被保険者期間が12か月以上あること
・離職を余儀なくされた者については、離職の日以前の1年間に被保険者期間が6か月以上あること
高年齢求職者給付金
・離職前の1年間に被保険者期間が6か月以上あること
●支給金額
基本手当・高年齢求職者給付金の支給金額は、離職前の賃金日額に応じて算出されます。
基本手当の上限は7,150円(60〜64歳)、高年齢求職者給付金の上限は6,815円となっています。
●受給日数
基本手当は自己都合退職の場合には、被保険者期間が10年未満で90日、10年以上20年未満で120日、20年以上になると150日になっています。
それに対して、高年齢求職者給付金の場合、被保険者であった期間が6か月以上で30日分、1年以上で50日分と基本手当にくらべると短い期間になっています。
また、高年齢求職者給付金は一時金で受け取れますが、基本手当は4週に1度の認定日に
出向き、失業認定を受ける必要があります。
なお、64歳までにもらえる基本手当は、特別支給の老齢厚生年金と一緒に受け取ることができないため、年金が全額支給停止になります。しかし、高年齢求職者給付金は、年金と一緒に受け取っても、年金が減らされることはありません。
以上をまとめると、以下の表のようになります。
失業給付の支給額はどれくらい変わる?
会社は64歳で退職すべきという話が聞かれます。これは、高年齢求職者給付金として受給できる金額が、64歳までの基本手当(失業手当)にくらべてかなり少なくなるからです。
実際に、長年働いてきた(20年以上)会社を64歳と65歳で退職した場合の違いをくらべてみましょう。
支給額の計算には、賃金日額と基本手当日額を求めます。
賃金日額は、退職直前の6か月の賃金の合計を180日で割ります。この賃金には、残業代、通勤手当、役職手当などを含みますが、ボーナスや退職金は除きます。
賃金日額=退職直前の6か月の賃金合計÷180日
この賃金日額に、賃金日額に応じた給付率をかけた金額が基本手当日額となります。給付率は、賃金の低い人ほど高い率になります。
そして、基本手当日額に受給日数をかけた金額が失業給付の総額となります。
たどえば、賃金日額が1万3500円の人の場合を基本手当と高年齢求職者給付金に分けてシミュレーションしてみます。
・基本手当の場合
1万3500円×45%=6075円
6075円×150日=91万1250円
・高年齢求職者給付金
1万3500円×50%=6750円
6750円×50日=33万7500円
その差は57万3750円です。
また、どちらも基本手当日額を上限額でもらった場合を比較すると、その差額は73万1750円になります。
・基本手当の場合
7150円×150日=107万2500円
・高年齢求職者給付金の場合
6815円×50日=34万750円
退職日のたった1日の違いで、給付に大きな違いが出てきます。失業給付をくらべた場合には、64歳までにもらう基本手当の方が65歳以降の高年齢求職者給付金より有利ということになります。
なお、雇用保険法では、「年齢計算に関する法律」によって、誕生日の前日の午前零時に満年齢に達すると決められています。ですから、たとえば9月30日が誕生日の人なら、9月29日に年齢が一つ上がることになります。そのため64歳で退職するには、誕生日の2日前までに退職しなければなりません。
退職の時期はどっちがおトク?
失業給付に限ってみれば、基本手当(失業手当)の方が給付金額が多く、おトクになります。しかし、これはあくまで失業給付に限った話です。会社の規定で定年退職日が65歳の誕生日となっている場合、退職日を早めることで、離職理由が自己都合退職となり、3か月の給付制限を受けることになります。また、退職金の算定に影響が出てくることがあるかもしれません。
「64歳で退職するとおトク」という部分だけを聞きかじってしまうと、結局は損することもあり得ます。このように退職時期をいつにするかについては、失業給付だけではなく、他の条件も合わせて考えることが必要です。
【関連記事もチェック】
・失業手当をもらっていると年金がもらえない? 在職老齢年金の変更点と合わせて解説
・失業手当だけではない、知られざる「雇用保険」の手厚い補償
・2020年の退職金はいくら? 大企業と中小企業で退職金は1500万円近く違う
・60歳貯蓄ゼロ・退職金の残金ゼロの人が取るべき生存戦略はコレだ
・退職金・一時金はこう活用せよ! 老後のお金のプロが教えるダメな使い方・良い使い方
池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
この記事が気に入ったら
いいね!しよう