20/07/01
失業手当だけではない、知られざる「雇用保険」の手厚い補償
給料明細を見ると、ひと月数百円から千円ほどの金額が「雇用保険料」として引かれています。保険料が安いので、あまり気にしていない人が多いのですが、これを支払うことで得られる雇用保険の補償はとても優れているのです。
今回は、地味だけどすごい「雇用保険」について、今後の改正内容を交えながら20~40代の女性会社員目線で解説します。
雇用保険料の自己負担はたったの0.3%
雇用保険は、1ヶ月以上続けて働く予定で、1週間の労働時間が20時間以上あれば、加入しなければならないとされています。
その雇用保険料の料率は以下のようになっています。
厚生労働省HPより(筆者一部加工)
一般的な企業の雇用保険料率は0.9%(2020年度)です。その内訳は、事業主負担が0.6%、個人負担が0.3%です。つまり、通勤手当や時間外手当なども含めた給料の総額に0.3%を掛けたものが、毎月計算されて給料から天引きされているのです。例えば、8月の給料の総支給額が25万円なら、個人負担は750円となります。
こんなに安い保険料で、退職直前6ヶ月の給料の平均50%~80%を、離職理由によって3ヶ月~1年間、再就職までの間の生活保障として受給できる「基本手当」だけでなく、在職中でも「育児休業給付金」や「教育訓練給付金」をもらうことができます。
育児休業給付金がもらえる!
産前産後休業中の収入保障である「出産手当金」は健康保険からの支給ですが、その後、子の1歳の誕生日の前々日までの収入保障である「育児休業給付金」は、雇用保険の被保険者が対象となります。
支給される額は次のとおりです。
筆者作成
ただし、育児休業給付金を受給するためには、育児休業の開始以前過去2年間に12ヶ月以上「雇用保険被保険者期間」がある必要があります。
雇用保険被保険者期間は、同じ会社にいる期間だけではなく、前職をやめてから基本手当をもらわず、再就職まで1年未満であれば、前職の被保険者期間は通算されることになっています。出産手当金は女性しか対象になりませんが、育児休業給付金は男性も対象となります。
この育児休業給付の制度は、今後雇用保険財政から切り離されることが検討されています。
いままで育児休業給付金は、失業給付の基本手当などとまとめて「失業等給付」として管理されていました。それが2020年度からは、育児休業給付と失業給付を分けて料率が算定されるようになりました。
料率は、2021年度まで据え置きになっており、事業主負担0.6%のうち、0.3%が失業等給付・育児休業給付の保険料率とされ、変更はないため、実質的な影響はありませんが、2022年度以降、労働者負担が0.4%、事業者負担が0.4%とそれぞれ0.1%ずつ負担が増える予定です。
先ほど、8月の給与の総支給額が25万円の例を出しましたが、個人負担は1ヶ月750円だったのに対し、1,000円に値上がりすることになります。
育児休業給付の料率を失業給付と分けて算定することになった背景には、出産後も働く女性が増え、育児休業給付の総額が失業給付の基本手当を抜く勢いで増えたことがあります。育児休業給付を失業給付の基本手当と分けることによって財源を確保できるようになります。
これから育児休業給付を受けたいと考えている人は、先輩ママにどんな給付なのか等、話を聞くことがあるかもしれませんが、制度に変更はないか最新の情報に気を付けるようにしましょう。
教育訓練給付金は在職中だけでなく、退職後ももらえる!
「教育訓練給付金」も雇用保険からの給付です。
この制度は、雇用保険に3年以上(初めて利用する場合は1年以上)加入している人が、厚生労働大臣指定の教育訓練制度を受講し修了した場合に、その費用の一部が支給される制度です。
この制度を利用するにあたって気をつけなければならないのは、「大臣指定の訓練」であることと、「修了しなければならない」ことです。ここでいう修了とは、資格試験に合格することではなく、教育訓練実施機関が指定した修了試験に合格することなどを指していて、最後まで受講することが条件です。修了試験に合格したら、1ヶ月以内に申請しなければいけません。
また、この制度を利用するためには、受講申し込み時点でこの制度を利用することを教育訓練実施機関に伝えておかなければならないので、注意してください。
一般の教育訓練給付の支給額は、受講費用の20%相当額(上限10万円)となります。受講費用が20万円なら、4万円の教育訓練給付金が申請後支給されることになります。
この制度は、前回の利用から3年以上経っていれば再度利用できます。
また、在職中だけでなく、退職後1年以内であれば利用可能です。取りたい資格があって、大臣指定の講座を退職後に受講する予定があるなら、3年未満(初回なら1年未満)で退職することは避けましょう。
副業・兼業をする人の雇用保険はどうなっているの?!
女性は出産や育児などのタイミングで、「在宅勤務をしたい」「自分や家族の都合に合わせて職場や仕事を選んで収入を得たい」と考える人もいるでしょう。また、様々な働き方をする人が増える中で、「長く仕事を続けたいけれど、この先自分にどんな可能性があるのか試したい」「働き方によってライフスタイルごと変えてみたい」と思っている方もいるでしょう。そういう人にとって、副業・兼業は魅力的な働き方のひとつです。
しかし、2020年現在、副業・兼業をしている人は次のような場合に注意が必要です。
まず、2つの職場で合わせて20時間以上となるような働き方をしている人は雇用保険が適用されません。雇用保険は1つの職場で1週間あたり20時間以上働いていることが加入の要件だからです。
それから、雇用保険の適用になっていても、複数の職場のうち1つの会社を辞めて収入が下がったとしても、失業給付の基本手当がもらえないので注意が必要です。失業給付の基本手当を受け取るためには「失業」していることが要件だからです。
複数の職場で働く就業者(マルチジョブホルダー)の雇用保険の見直し
複数の職場で働くのに、1つの職場で20時間以上働くのは大変。しかも仕事を失ったとしても、失業給付の基本手当ももらえないとなると「やっぱり副業に興味はあってもできない」と諦める人もいるでしょう。そんな場合は、今後の雇用保険法等の改正の動向に注目してみてください。
最近では、政府が副業・兼業を推進しており、副業・兼業をしやすい環境を整える動きが出てきています。
2022年1月から、複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者については雇用保険が適用されることになりました。2社の労働時間を合算して、週20時間以上(それぞれの会社で週5時間以上あることが必要となる予定)の勤め先であれば雇用保険に加入できるようになります。
また、1つの会社を辞めた場合でも、他の会社を辞めずに、高年齢求職者給付という一時金が受け取れるようになります。
これらの見直しは65歳以上の人が対象ですが、今後、65歳未満も含めたさらなるマルチジョブホルダーへの雇用保険の拡充が行われる可能性があり、副業や兼業がしやすくなるのではないかと期待が高まります。
まとめ
結婚して通勤時間が長くなった、家事の負担が増えたなど、勤務時間を減らしたいからと正社員からパート社員に変更することもあるでしょう。そのとき健康保険・厚生年金保険から外れたとしても、雇用保険には継続して加入できるよう、勤務時間は週20時間以上(週休2日として、1日4時間以上)にしておきましょう。
副業や兼業をする場合も、少なくとも1社は週20時間以上、1日4時間以上働くようにして、雇用保険に入った状態で副業をするようにしましょう。ただし、業務委託契約などは原則として雇用保険の適用になりません。雇用保険は、雇用保険の適用事業に雇用される労働者を被保険者としているためです。
今回は20~40代女性会社員の目線で雇用保険を解説しましたが、全ての年代でできる限り雇用保険に加入しておくべきです。育児休業給付金は「介護休業給付金」と置き換えることもできます(多少給付面で違いがあります)。
月1000円前後の保険料を負担するだけで、失業したときの給付である基本手当に加えて、これらの補償を受けることができるからです。
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小野 みゆき 中高年女性のお金のホームドクター
社会保険労務士・CFP®・1級DCプランナー
企業で労務、健康・厚生年金保険手続き業務を経験した後、司法書士事務所で不動産・法人・相続登記業務を経験。生命保険・損害保険の代理店と保険会社を経て2014年にレディゴ社会保険労務士・FP事務所を開業。セミナー講師、執筆などを中心に活躍中。
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