20/08/04
リモートワークで年金が減る!? 通勤手当の意外な盲点
新型コロナ感染症の増加を受けて、国は企業に対して社員のテレワーク率70%を目指すように要請する考えがあることを明らかにしました。在宅勤務は、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方として期待されています。郊外から都心へ通勤する人にとっては、時間的な負担を大幅に減らすことができます。
しかし、その一方で通勤手当をなくして、実費精算に切り替える企業が出てきました。この見直しで会社員にはどのような影響が出るのでしょうか。
給与と通勤手当の関係は?
在宅勤務によって、家族との時間が増えて喜んでいる人もいるでしょう。また、会社への通勤がなくなり、ラクになったという意見がある一方で、給料が減ってしまうのではという不安を懸念する声もあります。通勤手当を実質精算に変えるというのは、定期代の代わりに出社した日数分だけを精算するというものです。ですから、在宅勤務が増えれば増えるほど、通勤手当が減っていくことになります。
実はこの通勤手当は、社会保険料を算出するもととなる給与の月額平均の「標準報酬月額」に含まれています。給与の内訳は、基本給以外にも残業代、役職手当、通勤手当などが含まれます。
会社は、社会保険に加入する義務があります。会社員の毎月の給与から保険料が天引きされ、会社の負担分と合わせて保険料を納付しています。ですから、給与が高ければ社会保険料の負担が大きくなりますが、将来もらう年金や傷病手当金などは手厚くなります。
通勤手当は、法律上支払い義務があるものではないのですが、給与に関する事項はトラブルになることも多いので、支給要件や支給額を決めておく必要があります。この基本ルールのことを「就業規則」といい、給与規定を定めなくてはなりません。
withコロナの働き方でどう変わる?
毎月の通勤手当が減ってしまった場合を40歳の会社員の男性(東京都)の場合で試算してみましょう。この男性の標準報酬月額は44万円でしたが、通勤手当が実費精算になったことで、標準報酬月額が41万円になりました。この状態が65歳まで続いたとします。
このとき、65歳からもらえる年金の年額は、
標準報酬月額が44万円の場合(25等級) 202万4900円
標準報酬月額が41万円の場合(24等級) 194万円
年額で8万4900円の差になります。
90歳まで生きたとすると、212万円以上の差になってしまいます。
労働時間が短縮できたり、柔軟な働き方ができたりするとしても、将来の年金に響いてくるようであれば、通勤手当が減るのは困りますね。
通勤手当を見直すにあたっての問題点
通勤手当や交通費に関する事項は、就業規則で定めている会社が多く、労働条件の一部になっています。労働条件は、労働者の同意がなく、不利益に変更されることは原則禁止されています。通勤手当とはいえ、全社的に導入し大幅な減額となれば、就業規則の変更が適用されることになります。
就業規則の変更には、不利益の程度や労働条件変更の必要性、変更後の内容の相当性などを考慮しなければならないため、会社の一方的な申し出だけで、労働者が不利になる変更が認められるものではありません。
それから在宅勤務となれば、今まで発生しなかった自宅での光熱費や通信費の負担が発生します。そのような負担をどうするのかという点についても、ルールとして決めておく必要があります。
新しい生活様式としての手当ても登場
通勤手当がなくなるといっても、それに代わる手当があれば、給与が減ることを回避できます。他の手当てが増えれば、年金が減る心配からも解放されるでしょう。
たとえば、在宅勤務費用として、日立では6月から「在宅勤務感染対策補助手当」3000円を支給。富士通では定期代に代わる費用として7月から「スマートワーキング手当」5000円を支給しています。
まだまだ国も企業も新しい環境への適合に手探り状態です。働き方改革は、柔軟な働き方がしやすい環境を作ることも課題として取り組むことになっていたはずです。新しい試みによって、多様な働き方ができる社会になることを期待します。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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