20/05/28
老後資金は2000万円ではなく1200万円でよい? 本当に必要な老後資金とその対策
「老後資金2000万円問題」は、2019年6月に金融庁が出した報告書に端を発しました。
その時の「2000万円が不足する」という根拠は、厚生労働省の「家計調査」の高齢夫婦無職世帯の家計収支です。2017年のデータでは、収入が20万9198円で、支出が26万3717円になっています。毎月の不足分が5万4519円になります。この毎月の不足分を30年間埋めるために必要なお金というのが、約2000万円なのです(5万4519円×12ヵ月×30年=約2000万円)。
そこで、老後資金は2000万円くらい必要ですよ、ということになるわけです。
ところが、最新(2019年)の厚生労働省の家計調査の高齢夫婦無職世帯の家計収支のデータを見ると、収入が23万7659円で、支出が27万929円になっていて、毎月の不足分は3万3269円になります。これだと、30年間で不足する金額は、約1200万円になります(3万3269円×12ヵ月×30年=約1200万円)。ということは、800万円必要額が少なくてすみます
さて、本当に必要な老後資金というのは、いったいどのくらいなのでしょうか?
老後資金は収支のバランスで決まる
この家計調査のデータというのは、あくまでも平均の数字です。誰にでも当てはまるというわけではありません。それに元になっている調査では、持ち家率が90%以上になっています。ですから、賃貸の人にとっては必ずしも当てはまるものでもありません。
では、老後資金は、どのくらい必要なのかというのは、どうすればわかるのでしょうか?
答えは、簡単です。老後資金の必要額は、収支のバランスで決まります。
つまり、毎月の赤字分を老後資金で補塡する資金が「老後資金」なのですから、赤字額がわかれば、それに寿命を掛け算すればいいのです。
残念ながら、寿命というのは誰にもわかりません。平均余命などを考えて決めるしかありませんが、途中で「老後資金」がなくなってしまっては、意味がありません。ですので、長めに考えて95歳とすると65歳から95歳までの30年になります。
「老後資金の必要額」=毎月の赤字×12か月×30年
これは「老後資金2000万円問題」の計算と同じですね。
赤字額に家計調査の平均データではなくて、ご自身のデータを入れるだけです。
「自分の収支なんて、そんなのわからないよ」と思ってしまいそうですが、意外と簡単にわかります。
それでは、その方法を具体的に説明していきましょう。
老後生活の収入は、こうすればわかる
まず、定年後の収入です。これは簡単です。50歳以上の人は、「ねんきん定期便」、50歳未満の人は「ねんきんネット」を見れば、ほぼ目安がわかります。50歳以上の人は、「ねんきん定期便」には60歳まで働いたときに受給できる年金の見込み金額が書かれています。50歳未満の人は、「ねんきん定期便」に記載されている金額は加入実績に応じた金額(その時点で受け取った場合の金額)なので、「ねんきんネット」を利用すると将来の受け取る金額のシミュレーションができます。
老後生活の支出を計算する3つの方法
現役時代に比べて定年後は、一般的に支出は少なくなります。子どもが独立をしたり、住宅ローンの支払いが終わったりするのが大きいですね。
そこで老後の支出を計算する方法をいくつか紹介をします。
●老後生活の支出を計算する3つの方法①:家計簿で計算する
家計簿を付けている人ならば、毎月の支出は把握されていると思います。その金額から、定年後の必要なくなる支出を引けば、いいわけです。
●老後生活の支出を計算する3つの方法②:ライフプラン表を作成する
以下のようなライフプラン表に収入の年金額・退職金や、支出の生活費・イベント費などの項目を記入していきます。
ちょっと手間はかかりますが、これを一度実行してみると、老後生活のイメージがしやすくなります
定年後のやりたいこと・できることの具体的なイメージがわかってくるので、ぜひ、チャレンジしてください。ライフプラン表の書き方を詳しく知りたい場合には、拙著『定年前後の手続きガイド』(宝島社)を参照してみてください。
●老後生活の支出を計算する3つの方法③:大まかに計算する
できるだけ面倒なことはしたくない! と言う人は、かなり大雑把でありますが、現在の収入(給料の手取り)から毎月の貯蓄額を引いた金額の70%を計算してください。給料から貯蓄額を引いた金額は、毎月使っている金額です。
また、老後の生活費は、現役時代の約70%になると言われています。
総務省「家計調査報告(2019年)」によると、50〜59歳の消費支出は35万4252円なのに対し、70歳以上の消費支出は24万1262円と、68.1%に収まっています。
これで、老後の支出がだいたいわかりましたね。
老後の生活費+予備費用800万円を準備しよう
もうひとつ、大切なことがあります。老後資金は、生活費の補塡だけではありません。とっさのときの予備費用も必要なのです。予備費用としては、プラス800万円を準備しておいてください。
800万円を予備費用として準備するのは、介護になった時の備えです。介護に必要なお金の総額はだいたい800万円必要だという調査結果があります(損保ジャパン日本興亜「介護費用に関するアンケート調査」2019年)。
では、計算をしてみましょう。
(年金の見込み月額金額−定年後の支出予測月額金額)×12か月×30年+800万円
これが、あなたの本当に必要な老後資金になります。
さて、この老後資金を貯めるには、どうすればいいのか?
これは、税制優遇がある「iDeCo」や「つみたてNISA」などを利用して計画的に貯めるのが最も効率がいいでしょう。
老後資金の目標金額も決まりました。さあ目標金額に向かって、「let’s TRY!」です!
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長尾 義弘 NEO企画代表
ファイナンシャル・プランナー、AFP、日本年金学会会員。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『お金に困らなくなる黄金の法則』『最新版 保険はこの5つから選びなさい』『老後資金は貯めるな!』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)。監修には年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。
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