25/04/15
離婚時「年金分割」請求2年→5年に延長 分割すると年金額はいくら増える?

離婚するときに忘れてはならない手続きの一つが年金分割です。年金分割は「離婚後2年以内」に請求しなければなりませんが、年金分割の請求期限が「離婚後5年以内」に変更されることが決まりました。今回は年金分割制度の概要や請求期限、年金分割でどれくらい年金が増えるかについて解説します。
そもそも「年金分割」制度とは?
年金分割とは、夫婦の一方または双方が婚姻期間中に払った保険料分に相当する厚生年金を、離婚時に夫婦で分け合える制度です。厚生年金そのものではなく厚生年金保険料の納付記録を分割するもので、これにより老後に受け取れる厚生年金の額が変わる仕組みになっています。
婚姻期間中の働き方によって、夫婦の年金額の差は大きくなっていることがあります。たとえば、夫は会社員で厚生年金に加入、妻は専業主婦で国民年金のみに加入していた場合、妻の老後の年金はかなり少なくなります。年金分割をすれば、妻は夫の厚生年金記録を分けてもらって、自分の年金を増やせます。
年金分割には「3号分割」と「合意分割」の2種類があります。
3号分割とは、配偶者が会社員や公務員で、2008年(平成20年)4月以降扶養に入っていた期間(第3号被保険者だった期間)がある人が利用できる制度です。該当期間の配偶者の厚生年金記録の2分の1を自分のものにできます。3号分割は、夫婦のどちらか一人で手続きすることができます。
合意分割とは夫婦の合意により年金分割を行う方法で、婚姻期間中の夫婦の厚生年金記録を合算して任意の割合で分けられます。ただし、厚生年金が少ない側は少なくとも元々持っていた割合分は確保でき、割合の上限は2分の1となります。
年金分割の期限は5年に延長される見込み
年金分割をする場合、離婚成立から2年以内に年金事務所で「標準報酬改定請求」の手続きをする必要があります。ただし、年金分割の手続きをする前に当事者の一方が亡くなった場合には、亡くなってから1ヶ月以内しか手続きができません。
2024年、厚生労働省は年金分割の請求期限を現在の2年から5年に延長する方針を公表しました。民法改正により離婚時の財産分与の請求期限が2年から5年に延長されるため、それに伴う改正となります。具体的な施行時期は未定ですが、2026年4月頃とみられています。
年金分割の仕組みは複雑でわかりにくいため、離婚したのに年金分割の手続きをしていない人が多いと推測されます。厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2023年度(令和5年度)の年金分割の件数は3万2642件。同じ年の離婚件数が18万4223件なので、年金分割したのは離婚した夫婦の約17%にすぎません。
<年金分割の件数と離婚件数>

厚生労働省
「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より
今後は離婚して2年以上経っていても年金分割の手続きが可能になります。離婚したけれど年金分割していない人は、まだ間に合うなら手続きを取っておきましょう。
年金分割すればどれくらい年金が増える?
年金分割で増える年金額は人によって異なります。「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、年金分割を受けた側の年金が平均どれくらい増えているのかをみてみましょう。
年金分割前の平均年金月額は5万7979円、年金分割後の平均年金月額は9万1081円です。つまり、1ヶ月あたり約3.3万円増加しています。
<年金分割前後の平均年金月額>

厚生労働省
「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より
なお、配偶者の同意を得なくてもできる3号分割のみに限ると、年金分割前が4万5420円、年金分割後が5万3199円と1ヶ月あたり7779円しか増えていません。年金分割をするなら、配偶者の同意を得て、合意分割をした方が年金を増やせるケースが多いと思われます。
<3号分割のみの年金分割前後の平均年金月額>

厚生労働省
「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より
夫婦が合意できない場合には、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて年金分割の決定を得ることも可能になっています。離婚後に元配偶者と話し合いが困難な場合にも、あきらめずに手続きするのがおすすめです。
年金分割だけで安心せず老後資金の準備をしよう
離婚の際には、年金分割ができるかどうかを確認し、必要であれば手続きをしましょう。なお、年金が少ない側は、年金分割後の平均年金月額も10万円を下回っています。年金分割で最低限の年金を確保することも大切ですが、離婚後に働いて年金を増やすことも考えておきましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。

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