24/11/11
パワーカップルは要注意!ペアローン団信でまさかの高額納税の罠
東京23区の2023年の新築マンションの平均価格は1億1483万円(不動産経済研究所)と高騰していることから、ペアローンを利用するケースが増加しているそうです。リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」によると、総年収1000万円以上の世帯で「世帯主と配偶者のペアローン」を選んだ割合は実に77%となっています。
ペアローンを組む際には、契約者にもしものことがあった場合に残債がゼロになる団体信用生命保険(団信)を利用する方がほとんどでしょう。最近では片方に万が一の事態があったときに相手方の残債までゼロにできる「ペアローン団信」も登場しています。
一見便利そうな「ペアローン団信」ですが、大きな注意点が存在します。高収入だからと油断していると、高額納税の罠にかかってしまうかもしれません。
ペアローン団信はどちらかが死亡した際に、両方の住宅ローンの残債がゼロに
ペアローンは、物件を購入する際に夫婦や親子2人がそれぞれ住宅ローンを組む方法。ひとつの物件を購入するのに2つの住宅ローンを利用するというと、わかりやすいでしょう。お互いに相手の連帯保証人になるケースが一般的です(なお、以下では夫婦が利用するものとして紹介します)。
ペアローンでは、夫婦それぞれの収入に応じて審査を行い、お金を借りることができます。そのため、住宅ローンを夫または妻が単独で借りるよりも借入金額を増やせるのが特徴です。また、住宅ローン控除も夫婦ともに利用できるので、節税効果も高まります。
ペアローンを利用するときには、夫婦それぞれが団体信用生命保険(団信)に加入します。団信は、住宅ローンの契約者が亡くなったり、高度障害などの事態に陥ったりしたときに、住宅ローンの残債がゼロになる保険です。
ペアローンを借りている夫婦のどちらかにもしものことがあった場合に、残債がゼロになるのは「自分の分だけ」です。たとえば夫が亡くなったら、夫の住宅ローンの残債がゼロになりますが、妻は引き続き自分の住宅ローンを返済する必要があります。
ペアローンの最大のリスクは、夫(妻)が亡くなっても妻(夫)の住宅ローンの返済が残ること。1人になっても、残りの住宅ローンを返済しながら家事や育児をこなし、仕事もしなければならないとなれば大変です。
その点、2024年6月から登場した「ペアローン団信」(ペアローン連生(れんせい)団信)では、夫婦のどちらかが死亡・高度障害になった際に、夫婦両方の住宅ローンの残債がゼロになります。毎月の家計から住宅ローンの返済がなくなりますので、残された家族の大きな安心につながります。
<ペアローンの団信の違い>
(株)Money&You作成
ペアローン団信は、住宅ローンの金利に上乗せして金利を支払うことで利用できます。
主な金融機関の商品を見ると、
・みずほ銀行「ペアローン団信」:+年0.2%
・PayPay銀行「ペア連生団信」(一般団信):+年0.2%
・三井住友銀行「連生団体信用生命保険付住宅ローン「クロスサポート」」:+年0.18%
・りそな銀行「ペア一般団信」:加入時年齢が35歳未満+年0.15%、35歳以上+年0.25%
などとなっています。
また、各社がん保障特約をプラスした団信も用意しています(なお、各社とも利用にあたっては所定の審査を通過する必要があります)。
ペアローン団信が所得税・住民税の課税対象になる?
ここまでの話を見ると、多少の金利上昇はあるものの、ペアローン団信はメリットの大きな団信だと思われるでしょう。しかし、ペアローン団信には大きな注意点があります。それは、所得税・住民税の課税対象になることです。
たとえば、ペアローン団信を組んだ夫婦のうち、夫が亡くなったとします。このとき、住宅ローンの残債はゼロになります。しかし、妻が以後の支払いを免除された分に関しては「一時所得」として扱われ、所得税・住民税の対象になるのです。
<ペアローン団信の返済免除分は一時所得>
(株)Money&You作成
具体的に、いくらくらい所得税・住民税を支払わなければならないのでしょうか。大まかに計算してみましょう。
一時所得の計算式は、次のとおりです。
●一時所得の計算式
一時所得=(総収入金額-収入を得るための支出-特別控除(最大50万円))×1/2
年収1000万円のパワーカップル夫婦がそれぞれ5000万円ずつのペアローンを組んで返済をしていたところ、残債が4000万円のときに夫または妻が亡くなったとします。
このとき、夫または妻の住宅ローンの残債4000万円とともに、相手方の住宅ローンの残債4000万円もなくなります。つまり、夫または妻が亡くなったことによる相手方の「総収入金額」は4000万円とみなされます。
「収入を得るための支出」は、これまでに支払ってきた保険料の総額です。35年ローン、変動金利0.6%(変動金利0.4%・上乗せ金利0.2%)で金利が変動しなかったと仮定すると、住宅ローンの毎月の支払額は約13万円、7.5年ほどで1000万円を支払う計算。この間の上乗せ金利が月々4000円だとすると、4000円×7.5年=36万円となります(わかりやすくするために、大まかに計算しています)。
今回の例では、
一時所得=(4000万円-36万円-50万円)×1/2=1957万円
となります。
実際の納税額は、給与所得も含めた合計所得金額を求め、そこから所得控除を差し引いて課税所得を求めて税金を算出します。
よって、給与1000万円の場合の合計所得金額は
給与所得=1000万円-195万円=805万円
一時所得=1957万円
合計所得金額=2762万円
今回は、所得控除は基礎控除と社会保険料控除(社会保険料は給与年収の15%と仮定)のみで計算することにしますが、合計所得金額が2500万円以上となる場合、基礎控除0円となります。
課税所得は2762万円-150万円=2612万円となります。
所得税の税率は、課税所得に応じて5%〜45%の7段階あります。
所得税は2612万円×40%−279万6000円=765万2000円です。
住民税の税率は所得税率に関わらず一律10%。加えて均等割(5000円)が課されるため、住民税は2612万円×10%+5000円=261万7000円です。
所得税と住民税、合わせて1026万9000円を支払うことになります。
この試算はあくまで大まかな金額をもとにした一例ですので、実際にはもっと金額が少なくなることもあるでしょう。
しかし、結構な金額を支払う必要があることは、理解しておく必要があります。
ペアローン団信を使わず保険に加入する選択肢も
もちろん、ペアローン団信によって、以後の住宅ローンの支払いがゼロになるメリットは大きなものがあります。しかし、パワーカップルの場合、生活が毎月の高い収入に支えられていて、あまり貯蓄をしていないケースもあります。その場合、税金が支払えないという事態に陥ることも考えられます。
したがって、ペアローン団信を利用する場合でも、あらかじめ所得税・住民税を支払えるだけのお金を確保しておくことが望ましいでしょう。
ペアローン団信を使わず、保険を利用するのもひとつの方法です。
たとえば、ペアローンを借りて通常の団信に加入するとともに、夫婦それぞれが収入保障保険(死亡・高度障害で毎月一定額ずつ受け取れる保険)に加入します。このとき、仮に夫が亡くなったら夫の住宅ローン残債のみなくなります。妻の住宅ローン残債は残りますが、収入保障保険からのお金をその返済に充てるようにすれば、その分妻の負担を減らすことができます(夫と妻が逆でも同様です)。
SOMPOひまわり生命保険の収入保障保険で、配偶者が死亡・高度障害に陥った際に35年間、月10万円を受け取る契約をした場合の保険料は、30歳男性ならば月2380円、女性なら月2030円(いずれも健康体・非喫煙者の場合)。これならば、ペアローン団信と同様の負担でもしものときの保障が得られます。
ただ、ペアローン団信の金利上乗せは一律なのに対し、保険料は年齢が高くなるほど上がります。年齢が高い場合は、ペアローン団信のほうが有利になるかもしれません。収入保障保険とペアローン団信の保険料を見比べて、よりお得な方を利用すればよいでしょう。
ペアローン団信には以後の住宅ローンの残債を夫婦ともにゼロにできる大きなメリットがあります。しかし、いざ残債がゼロになったとしても、所得税がかかってしまう可能性があることに注意。特にパワーカップルの場合は、その金額も多額になりがちなので、現金を用意しておく、保険を利用するなど、万が一の対策を考えておきましょう。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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