24/02/16
失業手当をもらうなら65歳誕生日の「前々日」が一番得
セカンドキャリアをスタートするタイミングは人それぞれ。いつからスタートしたらよいのか、60歳前後になると具体的に考え始める人も多いでしょう。しかし、60歳を過ぎてから、勤務先を退職して再就職を考える場合、退職するタイミングには注意が必要です。再就職先がスムーズに決まればよいのですが、そうではないこともあります。そんな時のために失業手当がありますが、その給付が、退職日が64歳か65歳でガラリと変わるからです。 いつ退職するのがトクなのか、考えてみましょう。
64歳までに退職すると失業手当がもらえる
64歳までに退職し失業状態にある人は、雇用保険の基本手当、いわゆる失業手当(失業保険)が受け取れます。
失業状態とは、いつでも就職できる能力があって、求職活動をしているものの就職できない状態のこと。ですから、次のような状態のときは対象外です。
・病気やケガで就職できない
・退職後はしばらく休養したい
・家事や介護に専念する
ただし、病気やケガなどで就職できない場合には、受給期間の延長の申請ができます。
あてはまる場合にはハローワークに申請をしましょう。延長できる期間は最長で3年です。
そして、離職の日以前2年間に12か月以上、雇用保険に加入していることも条件です。
給与明細に、雇用保険の保険料が差し引かれているなら、加入していると判断できます。
たとえば、64歳までの人が、1年以上勤務していた会社をやめて、ハローワークで求職しているけれど就職先が決まらない、といった場合に失業手当が受け取れます。
60歳以上の失業手当の金額は、日額2196~7294円
失業手当の金額を計算するときは、まず退職前6カ月の平均賃金を180で割った「賃金日額」を出します。
離職時の年齢が60~64歳の場合、実際に受取れる金額=「基本手当日額」は、賃金日額の45~80%。
賃金が少ないほど高い率となっていますが、下限は2196円、上限が7294円です。
具体的な例で計算してみましょう。
たとえば、60~64歳の人で、退職前6カ月の平均賃金が30万円だったとすると、賃金日額は1万円です。
賃金日額=退職前6カ月の平均賃金(30万円×6カ月)÷180日=1万円
次に、賃金日額から、基本手当日額を計算します。
基本手当日額とは、離職前の賃金をもとに計算した1日当たりの支給額のこと。
60~64歳で、賃金日額が1万円の場合は、基本手当日額は5020円です。
基本手当日額=0.05×賃金日額(1万円)+4520=5020円
※2023年8月1日以降の金額で計算
退職の理由が、定年退職や自己都合退職の「一般の離職者」の場合、それまで何年勤務していたかで所定給付日数が決まります。
勤務していた年数が長いほど、失業手当をもらえる日数が長くなります。
1年以上10年未満…90日
10年以上20年未満…120日
20年以上…150日
勤務先の倒産や解雇など、会社の都合で再就職の準備ができないまま離職せざるを得ない人(特定受給資格者)で、60歳以上65歳未満の人は、失業手当をもらえる日数がさらに長くなります。また、いわゆる雇止めの場合も同様です。
1年未満…90日
1年以上5年未満…150日
5年以上10年未満…180日
10年以上20年未満…210日
20年以上…240日
ここでは、勤続20年以上の会社を64歳までに自己都合で退職したとしましょう。基本手当日額が5020円だとすると、失業手当は総額で75万3000円受け取れる計算です。
5020円×150日=75万3000円
失業手当は4週間ごとに認定日があり、そのタイミングで4週間分=28日分の金額が振り込まれます。
同様に計算して、28日おきに14万560円を受け取れることになります。
5020円×28日=14万560円
失業しても一定金額の支給があると、安心してじっくりと求職活動ができます。
焦ることなく、自分に合う職場を見つけましょう。
65歳からは高年齢求職者給付金がもらえる
一方、65歳以上で失業状態になった場合は、失業手当ではなく、高年齢求職者給付金という一時金がもらえます。65歳以上になると老齢年金が受け取れるので、64歳までとは失業手当の役割が異なると考えられるからです。なお、高年齢求職者給付金は、公的年金を受け取っていても受け取れます。
高年齢求職者給付金でも、失業手当と同じ基本手当日額が受け取れます。しかし、所定給付日数は、勤続年数によって次のようになります。
1年未満…30日分
1年以上…50日分
失業手当は働いていた期間が1年以上ないと受け取れない一方、高年齢求職者給付金は1年未満でももらえるのはありがたいですね。
しかし、勤続年数が1年未満だと一律30日分、1年以上働いていた場合でも一律50日分です。失業手当が、1年以上10年未満なら90日、10年以上20年未満なら120日、20年以上なら150日もらえることと比べると、かなり見劣りしてしまいますね。
さきほどの例と同様に賃金日額が1万円の場合、基本手当日額は6036円となります。
基本手当日額=0.8×賃金日額(1万円)-0.3×{(1万円-5110)/7470}×1万円=6036円
この場合、1年以上勤務していてももらえる高年齢求職者給付金の金額は30万1800円です。
65歳以降の高年齢求職者給付金
6036円×50日=30万1800円
20年以上働いていた場合の失業手当なら150日分で75万3000円ですから、高年齢求職者給付金だと半分以下になってしまいます。
なお、高年齢求職者給付金は一時金でまとめてもらえます。
いつから65歳?
退職した日が64歳なのか、それとも65歳なのかで、こんなに金額が違ってくるとは驚きですね。これでは64歳のうちに退職したほうがよさそうです。
では、いつまで64歳、いつから65歳なのでしょうか。
学年で、もっとも早生まれで若いのは4月1日生まれ、と聞いたことはありませんか。法律の上では、誕生日の前日に歳を取ることになっています。4月1日生まれの子は、法律上3月31日に歳を取るため、4月2日生まれの子よりひとつ上の学年になるのです。ちなみに、1学年は4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの子で構成されています。
このことからわかるように、65歳の誕生日の前日に退職しても法的にはすでに65歳になってしまいます。誕生日の前々日なら64歳です。64歳で退職するなら、誕生日の前々日がタイムリミットとなります。ですから、失業手当をもらうなら65歳の誕生日の前々日までと覚えておきましょう。
年金との調整は?
65歳前後では、老齢年金とのかねあいも気になります。
いくつかのケースで見ていきましょう。
●ケース1:64歳で退職、すでに老齢年金をもらっている
老齢年金がもらえるのは65歳からですが、繰り上げて60歳からもらうことも可能です。また、特別支給の老齢厚生年金なども65歳になる前からもらうことができます。
65歳になるまでの老齢厚生年金は、ハローワークで求職の申し込みをすると、自動的に年金の支給が全額ストップされます。
年金は、実際に失業手当をもらっていなくてもストップします。
●ケース2:64歳11カ月で退職、年金はもらっていない
65歳になる前に退職しているので、失業手当の対象です。離職票が送られてきたら、ハローワークに持参のうえ求職の手続きならびに活動をすると、失業手当の給付になります。その後、老齢年金の給付申請をすると、年金ももらうことが可能です。この場合、特に年金の減額などはされません。
●ケース3:64歳0か月で退職、老齢年金はもらっていない
65歳になる前に退職しているので、失業手当の対象です。
ただし、失業手当をもらえるのは、退職から原則1年間であることに注意が必要。64歳0カ月で退職して失業手当をもらうと、支給は64歳11カ月まで。65歳から老齢年金をもらうことはできますが、ケース2のように、失業手当と老齢年金を同時にもらうことにはなりません。
●ケース4:65歳で退職、老齢年金をもらっている
65歳以上で退職すると、高年齢求職者給付金をもらうことができます。失業手当と比べると少額ですが、老齢年金との調整はありません。どちらも減額やストップされることなくもらえます。
こうして比べると、ケース2は失業手当も老齢年金も、減額やストップされることなくもらえますので、おトクなケースと言えるのではないでしょうか。
退職日はいつにする?
ただし、これはあくまで、失業手当をもらうことになった場合の基本手当の受取総額が、65歳退職より64歳退職のほうが多くなる、そしてタイミングによっては老齢年金ももらえる、ということです。1カ月あたりに受取る金額が多いからといって、必ずしも、64歳で退職するのが有利とは限りません。
特に、65歳未満で特別支給の老齢厚生年金をもらう場合や、年金の繰り上げ受給などをしている場合は要注意。65歳からの高年齢求職者給付金は、年金をもらっていても受け取れますが、64歳までの失業手当は、年金と同時にはもらえません。失業手当をもらうと年金はストップしますので気を付けてください。
また、会社の規則などで、64歳退職にすることで退職金が下がってしまったら、失業手当がたくさんもらえてもトータルではマイナスになりかねません。
そのうえ、給与が下がったらその間の収入減だけではなく、失業手当の計算のもとになる賃金日額が下がり、失業手当の金額も少なくなってしまいます。
さらに、定年退職ではなく自己都合退職、ということになると、失業手当には2カ月間の給付制限があり、受け取りまでに時間がかかります。
公共職業訓練で、失業手当の給付延長も
このように考えていくと、退職のタイミングを決めるのは、一筋縄ではいかないですね。
キーポイントは、やはり失業手当の金額と給付日数となりますが、実は給付日数を延長できる方法があります。
それは、公共職業訓練の活用です。
公共職業訓練とは、再就職やキャリアアップのために、スキルや知識を習得することができる公的な職業訓練です。
介護サービス、医療事務、OA事務など、講座の種類はさまざま。再就職に有利な資格取得を目指すこともできます。早期の再就職につなげることができるでしょう。なかにはオンライン講座もあり、受講しやすいのもメリットです。
授業料は基本的に無料です(テキスト代などの実費1〜2万円程度が必要になることもあります)。
公共職業訓練を受講するには、失業手当を受取っていることと、ハローワークの職員に相談して受講が必要と認められること=受講の指示を受けることが必要です。
さらに、以下の条件があります。
・所定給付日数の3分の2を終了する以前に職業訓練を開始する
・期間が2年以内のコースを受講する
・過去1年以内に公共職業訓練を受講していない
特に、所定給付日数の残りの日数確認は慎重にしましょう。
失業手当の給付延長を最大限生かそうと、残り日数ギリギリで受講しようとしても、ちょうどよい講座がなければ意味がありません。
ハローワークで早めに相談して、次の仕事につながる講座をしっかり選びましょう。
公共職業訓練の受講をしていると、所定給付日数が終了しても、訓練が終了する日までひきつづき失業手当を受け取ることができます。
また、受講中は、失業手当の認定日に必要だったハローワークへの来所が免除されます。
ただし、講座ごとに定められた月1回の「指定来所日」に、ハローワークで職業相談をする必要があるので、まったく行かなくてよいわけではありません。
格安で職業訓練が受けられ、さらに失業手当の期間が延長されるのですから、ぜひ活用したいと思う人も多いのではないでしょうか。
退職時期は総合的に考えて
失業手当と高年齢求職者給付金では失業手当のほうがお得。そして失業手当をもらうことを考えた場合、65歳を迎える前、65歳の誕生日の前々日までに退職するのがよいことを紹介しました。
しかし、退職時期は、失業手当のことだけではなく総合的に考える必要があります。平均寿命が延び、働く人の年齢層も上がってきています。今後は長く働き続けることで、経済的に安定するだけではなく、健康的で社会的な暮らしを送ることがのぞまれる世の中になっていきそうです。
積極的な求職活動が吉となるのでは、と感じます。
次の職場が決まるのは、縁とタイミングではないでしょうか。せっかくのチャンスを、目先の現金のためにふいにしてしまっては本末転倒です。長年つみかさねた経験や人脈などを生かして自分らしく働き続けられるよう、制度のこともふまえて選んでいきましょう。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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