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23/12/18

相続・税金・年金

年金の手取りが「ねんきん定期便」の見込額から変わる5つの理由

年金の手取りが「ねんきん定期便」の見込額から変わる5つの理由

国民年金および厚生年金保険に加入していると、毎年の誕生月(1日生まれの人は前月)に届く「ねんきん定期便」。加入記録のもれや誤りを確認することはもちろん、将来の年金給付がどれくらいあるかを定期的に把握することができる絶好の機会です。
とりわけ、現在の加入状況が60歳まで続いた場合の見込額も反映されている50歳以上のねんきん定期便は、老齢期の資金計画を考える上で大いに役立ちます。しかし、実際に年金をもらうと「ねんきん定期便の見込額と違う」ということもあるようです。
今回は、年金の手取りがねんきん定期便の見込み額から変わる5つの理由を紹介します。

50歳以上のねんきん定期便には見込額が記載される

ねんきん定期便は、保険料負担と年金給付の関係を実感し、年金に対する理解を深めてもらうために発行される書類です。

50歳未満の加入者の場合、ねんきん定期便にはこれまでの年金加入実績に基づく現時点での年金額が記載されています。

●35歳、45歳を除く50歳未満の方に届くねんきん定期便(裏面)

日本年金機構「「ねんきん定期便」の様式(サンプル)と見方ガイド」より

それに対して、50歳以上のねんきん定期便では、現在の加入状況が60歳まで続いたと仮定した場合の65歳からの老齢年金の見込額が詳細に示されています。老齢期の生活設計や資金計画を立てる上でも、非常に貴重な情報です。

●59歳を除く50歳以上の方に届くねんきん定期便(裏面)

日本年金機構「「ねんきん定期便」の様式(サンプル)と見方ガイド」より

なお、35歳・45歳・59歳のねんきん定期便は上のようなハガキではなく封書で届きます。封書のねんきん定期便も、記載されている年金額の考え方は同じです。封書のねんきん定期便は、ハガキとは違い、これまでの年金の加入履歴がすべて記載されています。

しかし、ねんきん定期便で分かる老齢年金の見込額は、ねんきん定期便には反映されていない情報によって変動する可能性があります。それによって「年金の手取りがねんきん定期便の見込額と違う」ということが起こるかもしれません。具体的には、次の5つの理由で年金の手取り額が変わってしまいます。

年金の手取り額が変わる理由①:税金や社会保険料が反映されていないから

ねんきん定期便に記載されている老齢年金の見込額は、次の税金や社会保険料が差し引かれる前の「額面」の金額です。

・所得税
・住民税
・介護保険料
・国民健康保険料(75歳未満)
・後期高齢者医療保険料(75歳以上)

税金や社会保険料の額は、収入(所得)や年齢、家族構成、居住地によって異なります。目安として、「家計調査年報(家計収支編)2022年」によると、世帯主が65歳以上の無職世帯(2人以上)における直接税と社会保険料などの非消費支出の平均は月32,606円で、実収入の約13%。より正確な資金計画を立てる際には、考慮すべき重要なポイントです。

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年金の手取り額が変わる理由②:今後の加入状況の変化が反映されていないから

50歳以上のねんきん定期便には、現在の加入状況が60歳まで続くと仮定した「老齢年金の種類と見込額」が記載されています。しかし、ライフスタイルやキャリアの変化により、今後の加入状況が変動することもあるはずです。

例えば、会社員として厚生年金に加入している人が自営業者になり、60歳まで国民年金の第1号被保険者として加入する場合、自営業に転じた時点から厚生年金の部分は増えないことになります。一方で、これから厚生年金保険に新たに加入する人や、60歳を迎えた後も厚生年金保険や国民年金に任意加入を続ける人は、現時点の見込額を超えて年金収入を最大化する可能性が十分にあります。

言い換えると、ねんきん定期便で示される見込額は、将来の完全な予測を示すものではありません。ライフスタイルやキャリアの変化を考慮し、将来の年金収入がどう変化するかは独自に試算を行う必要があります。

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年金の手取り額が変わる理由③:今後の収入の変化が反映されていないから

老齢年金のうち厚生年金部分の見込額は、昇進や役職定年、転職など、収入に影響を及ぼす出来事によって今後変化するかもしれません。

例えば、60歳に到達する前に役職定年によって標準報酬月額が大きく下がる場合や、標準賞与額が下がったもしくは賞与の支給がなかった場合などには、ねんきん定期便で示された見込額よりも実際の受給額が低くなるので注意が必要です。逆に、50代でキャリアの再構築を行い収入が増加した結果、現時点の見込額を上回ることも十分考えられます。

ねんきん定期便に記載されている老齢年金の見込額は、将来の変動を考慮に入れたものではないため、加入者は自身の将来のキャリア変化や収入の増減を見積もり、独自に試算を行う必要がある点は、②と同じです。

年金の手取り額が変わる理由④:今後の給付水準が反映されていないから

ねんきん定期便に記載されている老齢年金の見込額は、ねんきん定期便が作成された年度の給付水準に基づいています。

公的年金の年金額は、毎年度、賃金や物価の変動率に応じた見直し(改定)が行われます。さらに、年度によっては、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに対応するための調整(マクロ経済スライド)が行われるため、将来実際に支給される額が見込額と異なる点には注意が必要です。

また、直近1年間に、②や③のように加入状況や収入に変化がなかったとしても、年金額の改定によって、前年度のねんきん定期便に記載されている見込額と異なる場合もあります。

今後の給付水準は、最後に紹介する各種シミュレーションサイトでも反映できない情報です。見込額はあくまで目安に過ぎませんが、定期便が届く年に1回のタイミングを、ライフプランや資金計画について考える機会にしましょう。

年金の手取り額が変わる理由⑤:支給額の調整が反映されていないから

高齢による収入減を補てんすることを目的としている老齢年金では、就労から一定水準以上の賃金等が得られる場合には、支給の調整が行われます。老齢年金を受給しながら働く人にとって、次に紹介する2つのルールは、老齢期の資金計画を立てる上で非常に重要です。

●支給額の調整(1):雇用保険との調整

60歳に到達した時点に比べて、賃金が75%未満に低下した60歳以上65歳未満の人には、雇用保険から「高年齢雇用継続基本給付金」が支給される場合があります。

高年齢雇用継続基本給付金の支給率は、下がった後の賃金の最大15%(2025年4月から10%)ですが、この最大のケースでは、下がった後の標準報酬月額の6%(15%×0.4)に相当する老齢厚生年金の支給が停止されます。

【高年齢雇用継続基本給付金と老齢厚生年金の併給調整の例】
<前提>
・60歳に到達したときの賃金:300,000円/月
・60歳に到達した後の賃金:150,000円/月(賃金低下率:50%)
・特別支給の老齢厚生年金(※):100,000円/月
<計算>
・高年齢雇用継続基本給付金:22,500円(150,000円×15%)
・年金支給停止額:9,000円(150,000円×15%×0.4)
・毎月の手取り収入額:263,500円(150,000円+100,000円+22,500円-9,000円)

※厚生年金保険への加入歴が1年以上ある、1961年4月1日以前生まれの男性と1966年4月1日以前生まれの女性が、65歳よりも前に受け取れる年金。

●支給額の調整(2):在職老齢年金による調整

月額給与(1ヶ月あたりの賞与額を含む)と老齢厚生年金の額が、支給停止調整額(2023年4月より48万円)を超えている人は、「在職老齢年金」というルールによる調整が行われます。在職老齢年金の対象になると、老齢厚生年金のうち支給停止調整額を超えた部分の2分の1の額が支給停止されるほか、停止された部分は、繰り下げ受給による増額の対象にもなりません。

なお、在職老齢年金は、厚生年金保険の仕組みです。老齢基礎年金は支給停止の対象にはならず、加入実績に基づいた年金額が支給されますので安心してください。

「ねんきんネット」や「公的年金シミュレーター」もフル活用しよう

50歳以上の「ねんきん定期便」は、老齢年金の見込額を定期的に把握するための貴重な手がかりですが、現在の加入状況が60歳まで続くという仮定に基づくため、全体像の理解には限界があります。そして、今回紹介した定期便には反映されない5つの情報は、将来の年金収入に大きな影響を及ぼす可能性があるため、これらを考慮に入れた計画を立てることが必要です。
そこで活用したいのが、「ねんきんネット」と「公的年金シミュレーター」です。定期便でも、ねんきんネットへのアクセスキーと、公的年金シミュレーターで使える二次元コードについての案内がされています。定期便の提供する概略的な情報を補完し、より具体的かつ現実的な計画をサポートしてくれるこれらのサイトもフル活用して、老後の安心に向けた一歩を踏み出しましょう。

神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)

1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker

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