23/08/17
70歳まで年金繰り下げ待機中に必要なお金はいくら?どうやって用意すべきか
年金の受給開始は原則65歳となっていますが、受給開始を遅らせたいと思っている人もいるでしょう。というのも、1か月繰り下げるごとに年金は0.7%増えるからです。たとえば、70歳まで60か月間遅らせれば「0.7%×60か月=42%」も、毎月受け取る年金を増やせます。まさに年金繰り下げは老後資金を増やす近道といえます。
しかし、実際年金の繰り下げができるのは「老後資金が十分に準備できている人だけ…」という人もいます。本当にそうでしょうか。今回は、65歳から70歳まで「年金繰り下げ待機」に必要なお金と、その準備方法を解説します。
70歳で退職するには65歳から70歳までの間でいくら必要?
年金がもらえるのは原則として65歳から。したがって、65歳から年金の受給を開始しようと予定している人が多いのではないでしょうか。65歳で仕事を辞めて、年金だけで生活することを計画するのもよいでしょう。
しかし、日本人の寿命は年々伸びています。実際、「令和2年版厚生労働白書」によれば、2040年時点で65歳になる1975年生まれの人が、90歳まで生存する確率は「男性42%・女性の68%」、100歳まで生存する確率は「男性6%・女性20%」となっています。
約半分の人が90歳まで生きることが前提であれば、長生きすることで老後資金が不足して生活に困窮する「長生きリスク」について対策を考えておく必要があります。その対策としては、冒頭でお伝えした「年金の繰り下げ受給」が有効です。
とはいえ、繰り下げをしている間、生活にかかるお金をいくら捻出しなくてはならないのでしょうか。まずは、65歳から70歳までの「年金繰り下げ待機期間」で、必要になるお金について試算してみましょう。
●65歳から70歳までの年金繰り下げ待機期間に必要なお金は?
総務省「家計調査(家計収支編)」(2022年)によれば、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の1か月の消費支出は23万6696円です。
【65歳以上夫婦のみ無職世帯の収入と支出】
総務省「家計調査(家計収支編)」(2022年)より
これを単純に5年分とすると「23万6696円×60か月=1420万1760円」になります。
なお、毎月の消費支出に占める住居費は持ち家の人が多いために全体の6.6%、1万5578円となっています。もし、お住まいが賃貸の場合であれば、消費支出はその分多く計上する必要があります。他にも、5年間の間で、家電が壊れた…、家を修繕した…などの支出が発生するかもしれません。そのような予備費を含めると、5年間で約2000万円近く必要になるかもしれません。
65歳~70歳の年金繰り下げ待機期間に働くメリットとは?
先述の試算で、年金繰り下げ待機期間となる5年間の生活費に必要な金額を試算しました。約2000万円ものお金を準備するには、若いうちから老後を見据えてお金を増やしていく必要があります。
しかし、70歳以降も多くの方が90~100歳まで生きることを前提にすると、生涯にわたりもらえる年金の総額が多くなるような手立てを考えた方がよいでしょう。そのためには65歳で仕事を辞めるのではなく、65~70歳まで働いて収入を得るのがよいでしょう。最低でも、社会保険の加入条件を満たして働くことがおすすめです。
65歳~70歳の年金繰り下げ待機期間に働くメリットを5つ紹介します。
●繰り下げ待機期間に働くメリット1:定期収入を得て、老齢年金も増やすことができる
年金の繰り下げ受給をすれば、1か月あたりの繰り下げ受給で0.7%増額されます。仮に70歳まで繰り下げ受給すれば「0.7%×60か月=42%」が増額となります。繰り下げ受給をすると、老齢基礎年金・老齢厚生年金どちらも増額されます。
生活費などの面で両方の年金を繰り下げ受給するのは難しいという場合、どちらか一方だけ繰り下げるという選択も可能です。老齢基礎年金は繰り下げて、老齢厚生年金は65歳から受け取るという場合には「在職定時改定」といって、毎年9月1日の基準日ごとに、前年9月から当年8月までの被保険者期間分が算入され、翌月となる10月分の年金(支給月は12月)から増額された年金が受取れます。
●在職定例改定のしくみ
日本年金機構のウェブサイトより
つまり、毎年もらえる老齢厚生年金が増えるのを見ながら働くことができる、というわけです。
●繰り下げ待機期間に働くメリット2:人と交流できる
仕事を通して、さまざまな年代の人々と交流が生まれます。もし、働かないで家にいるのであれば、人と接するためにはボランティアをしたり、新たな趣味を見つけたりしなければならず、それなりにお金がかかる…ということになります。働いていれば、お金をもらいながら、人との接点、交流が持てます。
●繰り下げ待機期間に働くメリット3:規則正しい生活で健康維持につながる
規則正しい生活は健康を維持するために、大事なポイントといえます。仕事で、日々、規則正しく、気持ちもシャキッと出勤すれば、若々しい気持ちが維持できます。
また、仕事で体や頭を動かすことが、適度な刺激になり、認知症などの予防になるでしょう。
●繰り下げ待機期間に働くメリット4:厚生年金と合わせ健康保険にも加入できる
社会保険の加入条件を満たす働き方をすれば、健康保険や介護保険にも加入できます。社会保険料は収入額に応じて負担額が決まり、さらに会社と折半になるので、実質の負担額は半分になります。また、健康保険組合では、手厚い健康診断や人間ドッグなどが提供されており、割安に受診もできます。
●繰り下げ待機期間に働くメリット5:デジタル機器などの使い方をマスターすることができる
高齢になると、デジタル機器の使い方などをなかなかマスターできず、情報についていけない…ということが起こります。働いていると、若い人々と交流でき、分からないことは教えてもらうことができます。新しいことにトライすれば、自分の可能性を広げることにもつながり、充実した気分になるでしょう。
65歳~70歳の年金繰り下げ待機期間の収入は「月額48万円ルール」に注意!
65歳以降も継続的に働き、厚生年金にも加入することで、年金額は増やせるのですが、「在職老齢年金」には注意が必要です。在職老齢年金では、毎月の給与と老齢厚生年金との合計が「月額48万円」(2023年度)を超えてしまうと、年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。
月額48万円は、働きながら年金をもらうときだけ適用されると思いがちですが、年金を繰り下げ受給などでもらわずに働いて収入を得る場合にも適用されます。毎月の年金と給与を合計して、48万円を超過してしまった場合、超過分の年金は繰り下げ受給の対象から外れてしまいます。つまり、給与と年金を合計して48万円以内に含まれる年金額だけが繰り下げ増額の対象になります。給与が高い方は特に注意が必要です。
まとめ
日本人の寿命はどんどん伸びてきており、長生きリスク対策が必要です。その場合、65~70歳は繰り下げ待機期間として、働きながら厚生年金に加入しましょう。老後資産の目減りを防げて、将来受け取る年金も多くなります。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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