23/06/25
「児童手当拡充も扶養控除がなくなれば税負担増」住民税非課税世帯にも影響する扶養控除廃止の罠
政府は2023年6月13日、児童手当や育児休業給付の拡充などを盛り込んだ「こども未来戦略方針」を閣議決定しました。しかし、児童手当の拡充と同時に、扶養控除がなくなる可能性も報じられています。もし扶養控除がなくなると、税負担が増えてむしろ「子育て罰」が拡大することに…。どういうことか、紹介します。
児童手当の拡充でもらえる金額はどう変わる?
児童手当は、中学生以下(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の子どもがいる世帯に対して給付される給付です。今回の児童手当の拡充によって、
・支給対象が18歳(高校生)まで拡大
・第3子以降は3万円に増額
・所得制限の撤廃
が行われる予定です。
●児童手当はどう変わる?
(株)Money&You作成
児童手当の拡充によって、高校生も月額1万円もらえるようになる予定です。また、第3子以降の対象・金額も増え、高校生まで月額3万円に増額となります。さらに、所得制限による減額・支給停止もなくなるので、年収が高くても児童手当がもらえます。なお、児童手当の拡充は、2024年10月から(2025年2月支給分から)行われる予定です。
とはいうものの、子育てにはお金がかかるもの。月1万円程度ではそもそも「焼け石に水」ですし、今の0歳から中学生までは金額に原則変更がありません。第3子からは月3万円に増えるからといって「異次元の少子化対策」と認める人はごくごく少数ではないでしょうか。
さらに、児童手当の第3子の定義は「高校卒業(18歳に達する日以後最初の3月31日)までの養育している児童のうち、3番目以降」。この定義が変わらないとすると、3人きょうだいの一番上の子が高校を卒業すると、真ん中の子が「第1子」、下の子が「第2子」になるため、第3子による増額を受けられなくなってしまいます。
もし三つ子ならば、3人目の子は0歳から18歳まで3万円もらえそうですが、そうでもなければ、3万円もらえない時期が発生するでしょう。高校生になっても「3万円」となる第3子はほとんどいないのではないでしょうか。
このように見てみると、児童手当の「拡充」とはいうものの、大した拡充ではないことがわかります。
高校生の子に対する扶養控除がなくなる?
児童手当の「拡充」とともに、16歳から18歳の扶養控除の廃止が検討されています。
扶養控除は、扶養親族がいる場合に適用できる控除です。高校生の子どもを扶養している親は、扶養控除によって所得税の計算の元となる所得を38万円、住民税の計算の元となる所得を33万円差し引くことができます。所得税や住民税は、他の所得も差し引いた残りに所定の税率をかけて金額が決まるので、扶養控除によって税金が安くなる、というわけです。
しかし、扶養控除がなくなってしまえば、税金は上がってしまいます。たとえば、所得税10%(住民税は所得税率にかかわらず一律10%)の場合、
・所得税:38万円×10%=3万8000円
・住民税:33万円×10%=3万3000円
合計7万1000円税金が増えることになります。
児童手当が年12万円増えても、税金が7万1000円増えたら、児童手当の実質支援額は4万9000円ということになります。
所得税の税率は所得に応じて5%から45%まで7段階に変わります。年収が高くなり、所得税額が増えた場合、児童手当の金額より税金のほうが増えてしまう可能性もあります。
年収1080万円を超えてくると、所得税率は23%になります(所得控除は基礎控除・社会保険料控除のみで計算した場合)。
所得税23%の場合、所得税は8万7400円。住民税と合わせて合計12万400円となりますので、児童手当をもらっても損することになります。
年収が高い方にとっては、児童手当の拡充によって「子育て罰」が拡大してしまうことになるのです。
扶養控除がなくなると住民税非課税世帯でなくなる?
高校生に対する扶養控除がなくなる影響は、高収入の世帯だけではありません。扶養控除の廃止によって、住民税の課税される世帯が増えるため、これまで住民税非課税世帯とされてきた世帯でも、住民税非課税でなくなる可能性があります。
住民税非課税世帯には、
・2歳未満の保育が無償化される
・高等教育無償化の対象になる
・高額療養費の負担が減る
・介護保険料の負担が減る
・国民年金保険料や国民健康保険料の負担が減る
といったメリットがありますが、それが受けられなくなるというわけです。
住民税非課税世帯は、何らかの理由で収入が少ないために住民税が非課税になっている世帯です。その世帯の負担が大きくなり、生活が厳しくなることが考えられます。
まとめ
「少子化は、我が国が直面する、最大の危機である」
「こども未来戦略方針」の冒頭には、このように書かれています。文面からは危機意識が伝わってきますが、その危機を回避するために児童手当を「拡充」し、扶養控除をなくして子育て罰を拡大するのは、はっきりいって愚策としか言いようがありません。
少子化対策は、本当にラストチャンスです。政府には、そのことを肝に銘じていただき、本当の意味での「異次元の少子化対策」に取り組んでいただきたいものです。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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