23/02/07
米国株の配当金放置は二重課税で大損!回避する方法を画像付きで解説
世界経済の中心といえば、米国です。米国は先進国でありながら高い成長力を誇り、短期的には下落したとしても、長期的には回復し、再び右肩上がりになることが見込まれます。また企業も配当金を積極的に出す傾向があるため、FIRE(経済的自立と早期リタイア)を目指す人にも注目されています。
ただ、米国株の配当金にかかる税金には要注意。そのまま放置すると、米国と日本で二重に税金を支払う「二重課税」になるからです。
米国株の配当金には放置したままだと税金が二重でかかる
株式投資の利益には、売却益と配当金があります。
日本に住んでいる人が、米国株投資で売却益・配当金を得ると、日本の税制上、売却益・配当金それぞれに20.315%の税金がかかります。そのうえ、米国において配当金に10%の税金がかかります(売却益には課税されません)。
つまり、米国株の配当金には、日本と米国の両方で税金がかかるのです。これを二重課税といいます。
米国株の配当金にかかる税金は、まず米国の10%が引かれ、次に残った金額から日本の20.315%が引かれます。仮に、米国株の配当金(税引前)が10万円だったとすると、手取りの金額は次のようになります。
①税引前の配当金10万円から、米国の税金10%を計算する
10万円×10%=1万円(米国の税金)
②残りの9万円から、さらに日本の税金20.315%を計算する
9万円×20.315%=1万8283円(日本の税金)
→手取りの金額は10万円−1万円−1万8283円=7万1717円(税額2万8283円)
このように、10万円の配当金に約2万8000円もの税金がかかり、手取りは7万2000円ほどになってしまうのです。
毎年、確定申告で「外国税額控除」を申請すれば二重課税を防げる
これではかなり税金が取られてしまう、と思われるでしょう。しかし、大丈夫です。確定申告をして「外国税額控除」を申請すると、外国で支払った税額を所得税や住民税から差し引くことができるからです。
外国税額控除を行うと、税引前の配当金から日本の税金を計算し、本来の税額を算出することになります。次に、支払った米国の税金から、税額の差額にあたる金額が還付されます。つまり、確定申告を行い、外国税額控除を適用することで、二重課税状態をなくせるというわけです。
●外国税額控除で税金はいくら戻ってくる?
(株)Money&You作成
外国税額控除を利用する前の税額は、合計で2万8283円でした。
しかし、外国税額控除を利用すると、次のとおり税金が還付されます。
①税引前の配当金10万円から、日本の税金20.315%を計算する
10万円×20.315%=2万315円
②外国税額控除前の税額との差額は2万8283円−2万315円=7968円
③米国の税金から税額の差額7968円が還付される
→手取りの金額は7万1717円+7968円=7万9685円(税額2万315円)
確定申告を行い、外国税額控除を利用したことで、二重課税の場合の税額と日本だけの場合の税額の差額が還付されます。
ただし、還付される税金はあくまで自分が支払った所得税・住民税が上限です。所得税や住民税の納付額が少ない場合は、全額が還付されない場合もあります。「米国で支払った10%の税金がそのまま戻ってくる」という制度ではありませんので、ご注意ください。
ところで、一般NISAを利用するとどうなる?
外国税額控除を利用することで、税金は日本の20.315%だけになりました。この20.315%の税金、高いですよね。税金を減らしたい場合、投資の利益が非課税になる「一般NISA」を利用する手があります。一般NISAでは、米国株も購入できます。ですから、日本の税制上の20.315%の税金はゼロにできます。
しかし、日本の税金がかからないということは、二重課税にならないということでもあります。外国税額控除は、二重課税になったときに利用できる制度ですので、今度は米国で配当金にかかる10%の税金は支払わなくてはなりません。
●一般NISAを利用した場合の税額・手取りはいくら?
(株)Money&You作成
一般NISAを利用して、上と同じく米国株の配当金(税引前)を10万円得た場合、日本の税金20.315%はかかりませんが、米国の税金が10%かかるので、税額は10万円×10%=1万円。手取りは9万円になります。10万円丸ごと手に入れることはできません。
それでも税額は一般NISAの方が少ないので、「米国株は一般NISAで」と思われる方もいるでしょう。しかし一般NISAでは利益と損失を相殺して税額を減らす「損益通算」や、損失を翌年以降3年間繰り越して控除する「繰越控除」を利用できません。
また、2024年から始まる新NISAでも同様に外国税額控除は利用できませんし、損益通算や繰越控除もできないことには注意が必要です。
米国株は通常の課税口座(特定口座または一般口座)で投資して外国税額控除を利用し、NISAは「つみたて投資枠」を利用してじっくりと資産形成をしたほうが、長期間にわたって非課税の恩恵が受けられるでしょう。
外国税額控除の手続きはどうやる?
外国税額控除を利用するには、確定申告が必要です。パソコンで確定申告を行う「e-Tax」を利用するときの手順は次のとおりです。
●外国税額控除の手続き①
(株)Money&You作成
「税額控除・その他の項目の入力」の画面で、「外国税額控除等」の欄にある「入力する」ボタンを押します。
●外国税額控除の手続き②
(株)Money&You作成
図内の赤い矢印と四角で囲ったところを入力します。具体的には、
・外国税額控除の入力…「外国税額控除額の計算がお済みでない方」にチェック
・国名…「米国」「アメリカ合衆国」などと入力
・源泉・申告…「源泉」を選択
・所得の種類…「配当」と入力
・所得の計算期間…2022年分であれば「令和4年1月1日〜令和4年12月31日」を選択
・税種目…「源泉徴収税」と入力
・枠内のその他の項目…証券会社から届く配当金の支払通知書などに記載された金額を入力
・調整国外所得の計算…米国株の配当金合計額(税引前)を入力
これを入力して申請すれば、外国税額控除が適用されます。
なお、e-Taxによる外国税額控除の手続きは、スマホでもできます。
●スマホでの外国税額控除の手続き
(株)Money&You作成
手順はパソコンの場合と同様。「控除の入力」の「その他」の中にある「外国税額控除等」を選択し、続けて「外国税額控除額の計算はお済みですか?」で「いいえ」を選択します。「外国所得税額の内訳」にある+のボタンを選択すると、国名や所得の種類などを入力する画面が開きますので、指示にしたがって入力していけばOKです。
まとめ
米国株の配当金は米国と日本の二重課税になることと、二重課税を回避するための外国税額控除についてご紹介しました。外国税額控除の手続きは多少面倒に思われるかもしれませんが、払い過ぎになっている税金を取り戻し、手取りを増やすための手続きです。米国株に投資している方は、忘れずに申請しましょう。1回やってみれば、次回からは手間なくできるようになるはずです。
今回の内容は動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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