22/05/10
パートで働き損となる年収はいくら?損を取り戻すにはいくら稼げばいいのか
パート勤務でも会社によっては社会保険に加入できる場合があります。そうなると気になるのは手取りの目減りです。社会保険料が給与から天引きされるので手取りが減り、場合によっては自分よりも年収の低い人よりも手取りが少なくなることがあります。これでは働き損になってしまいますよね。そこで、いくら収入を増やせば働き損ではなくなるのか調べてみました。
特に気にしなくてもいい税金の壁
家計を支えるためにパートで働く妻(夫でも同様ですが、以下は夫が「主たる生計維持者」とします)たちには、いくつかの壁が存在しています。
よく聞くのが「103万円の壁」。以前は妻の収入が103万円を超えると、夫が配偶者控除38万円を受けられなくなるので、103万円を超えないように働く人が少なくありませんでした。けれども、2018年1月に配偶者控除と配偶者特別控除の改正が行なわれ、新たに「150万円の壁」が誕生しました。
150万円の壁とは、配偶者特別控除による控除上限額38万円を受けられる収入のボーダーラインのこと。夫の年収が900万円以下の場合、妻の給与所得が48万円超95万円以下であれば、38万円の配偶者特別控除を受けることができます。
○妻の年収150万円-給与所得控除55万円=95万円
(給与所得が95万円なので、配偶者特別控除38万円が受けられます)
つまり、収入を150万円までに抑えれば、配偶者特別控除の満額38万円が受けられるので夫の年収が減ることはありません。また、150万円の壁ができたことで、103万円の壁は妻のパート収入に所得税が発生するボーダーラインとなっています。
103万円の壁と150万円の壁はいわゆる税金の壁です。妻に所得税と住民税がかかるようになったとしても、年収から考えると世帯収入を大きく減らすような大きな額にはなりません。なので、税金の壁は特に気にしなくても大丈夫です。
気にしなければいけないのは、社会保険の壁です。
収入に大きく影響する社会保険の壁
妻の収入には社会保険の壁といわれる「106万円の壁」と「130万円の壁」があります。これらは、妻にも社会保険料の負担が発生する年収の壁です。106万円の壁・130万円の壁を越えると、妻の給与から社会保険料(厚生年金保険料+健康保険料+40歳以上は介護保険料)が天引きされます。この場合、世帯収入にも大きく影響が出てくるので注意が必要です。
●106万円の壁とは?
2016年10月から、従業員数501人以上の会社でパートとして働いている場合、次の要件を満たしているときは社会保険に加入することになっていました。
・週の所定労働時間が20時間以上である
・1年以上雇用の見込みがある
・月額賃金が8.8万円以上である
・学生ではない
上記の要件を満たし、社会保険料の負担が発生する妻の年収は106万円以上です。従業員501人以上の大企業に勤める妻には106万円の壁があるということですね。
●130万円の壁とは?
130万円の壁とは、夫の社会保険の扶養から外れ、社会保険料の負担が発生する年収のボーダーラインのことです。従業員数500人以下の会社でパートやアルバイトとして働いている場合でも、年収が130万円以上になると勤め先の社会保険に加入し、保険料が給与天引きされるようになります。もし勤め先の社会保険に加入できないときは、自分で国民年金と国民健康保険に加入し、保険料を納めることになるので注意が必要です。パート収入が130万円未満であれば、夫の社会保険の扶養に入れるため、社会保険料の負担はありません。
ただし、今後社会保険の加入対象になる範囲が拡大されます。2022年10月からは、従業員数101人~500人以下の会社に勤めるパートやアルバイトも、以下の要件を満たせば社会保険料の負担が発生することになりました。
・週の所定労働時間が20時間以上である
・2ヶ月超雇用の見込みがある
・月額賃金が8.8万円以上である
・学生ではない
さらに2024年10月からは、社会保険の加入対象が従業員数51人以上の会社にまで拡大される予定です。そうなると多くのパート勤務の人に106万円の壁ができ、社会保険料を負担する人が増えそうですね。
妻が働き損を取り戻す年収は?
パート勤務でも収入が一定以上になり、勤め先の社会保険に加入することになれば、社会保険料が給与天引きとなるため手取りが減ります。その際、年収の低い人のほうが、社会保険に加入した人よりも手取りが多くなるという逆転現象が起きます。このことから働き損といわれるようになったのです。では、社会保険料を支払っても手取りが減らない「手取り回復損益分岐点」は、いくらになるのでしょうか。
●106万円の壁での手取り回復分岐点
106万円の壁が発生する大企業に勤めるパートの手取り額を見てみましょう。
<試算の前提条件>
・社会保険料を給与収入の15%とする
・所得控除は、基礎控除と社会保険料控除のみとする
・住民税は所得割10%+均等割5千円とする
この場合、給与収入が106万円以上になると勤め先の社会保険に加入するので、保険料が天引きされます。
・給与収入106万円の手取り額は「89万6000円」
けれども、社会保険に加入する一歩手前の収入ではどうでしょうか?
・給与収入105万円⇒手取り額「103万7000円」
このように手取りの逆転現象が発生しました。
では、逆転現象が解消される手取り回復分岐点の給与収入はいくらになるでしょうか?
試算した結果、次のようになりました。
・給与収入125万円⇒手取り額「104万7700円」
給与収入が約125万円以上になれば、逆転現象が解消されるということです。
●130万円の壁での手取り回復分岐点
同様に、従業員数が500人以下の会社に勤めるパートの場合も見てみましょう。
この場合は、給与収入が130万円以上になると社会保険料の負担が発生します。
<試算の前提条件>
・社会保険料を給与収入の15%とする
・所得控除は、基礎控除と社会保険料控除のみとする
・住民税は所得割10%+均等割5千円とする
・給与収入130万円⇒手取り額「108万3800円」
しかし、給与収入が129万円の場合は次のようになりました。
・給与収入129万円⇒手取り額「124万1000円」
手取りの逆転現象が発生しましたね。
そこで、手取り回復分岐点を探ってみたところ、次のようになりました。
・給与収入153万円⇒手取り額「125万円」
給与収入が約153万円以上になれば、逆転現象が解消されることがわかりました。
●国民年金&国民健康保険加入での手取り回復分岐点
これまでにご紹介したのは、勤め先の社会保険に加入した場合の試算です。しかし、場合によっては勤め先の社会保険に加入できないことがあるかもしれません。そんなときは、国民年金と国民健康保険に加入することになります。
そこで、国民年金と国民健康保険に加入した場合の手取り回復分岐点を試算してみました。
<試算の前提条件>
・東京都世田谷区在住
・年齢は40歳
・国民年金保険料16,590円(2022年度の保険料)
・給与収入170万円⇒手取り額「128万7016円」
これまでの試算では、給与収入が129万円の場合、手取り額は124万1000円でした。そして会社の社会保険に加入する場合、手取り回復分岐点は給与収入153万円でしたね。これと比較すると、国民年金と国民健康保険の加入では手取り回復分岐点が給与収入170万円と、かなり高くなりますね。
※負担する保険料額は自治体により異なるので、手取り回復分岐点は住んでいる地域によっては前後する可能性があります。
本当は働き損なんかじゃない!妻が働くメリット
妻のパート収入に社会保険料が発生すると働き損といわれていますが、手取り収入が減ったとしても、社会保険に加入したほうが将来的にはメリットがあることをご存じですか?
●老齢年金が充実する
扶養の範囲内で働き、社会保険料の負担がない場合、65歳から受け取れる老齢年金は老齢基礎年金のみとなります。独身時代に会社員として働いた経験のある人は老齢厚生年金を受け取れますが、その額は生活を支えるほどではないかもしれません。
しかし、自分で社会保険料を納めると年金の2階部分にあたる老齢厚生年金の報酬比例部分が追加されます。厚生年金保険料を納める期間が長くなればなるほど、その報酬比例部分の金額は増えていきます。つまり、夫の老齢年金と妻の老齢年金をあわせれば、扶養範囲内で勤めているよりも充実した老齢年金を受け取れるようになるのです。
●病気やケガで会社を休んだときに傷病手当金を受け取れる
勤め先の健康保険に加入していると、病気やケガで会社を休んだときに「傷病手当金」を受け取れる場合があります。会社を休み収入が減っても、傷病手当金があれば治療費や生活費の補てんとして使えるので安心です。
●出産手当金が受け取れる
健康保険に加入することができれば、出産で会社を休んだときに、出産手当金を受け取れます。産前42日と産後56日までの間に給与の3分の2に相当する額を受け取ることができるのです。
勤め先の社会保険に加入することで、これらの恩恵を受けることができるのです。そう考えると、決して働き損ではなく、将来的なメリットが大きいのではないでしょうか。
もし会社の社会保険に加入できるのであれば、106万円の壁・130万円の壁を気にするのではなく、逆転現象を解消できる収入を意識して働いたほうが手取り額を増やせることを覚えておいてくださいね。
まとめ
妻が勤め先の社会保険に加入することの最も大きなメリットは、老齢年金が充実することではないでしょうか?夫婦で受け取れる年金額が増えれば、その分生活に余裕が生まれます。それだけでなく、勤めている間に貯蓄を増やす余裕もできます。働き損になることを心配して働き方を制限するよりも、人生における選択肢が広がるかもしれません。働き方を検討するときは、将来の暮らしにまで視点を向けたメリットを考えてみてはいかがでしょうか。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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