22/12/11
国民健康保険料の年間上限額が2万円アップ!特に負担増となるのはどんな世帯か?
厚生労働省は、2023年度(令和5年度)から国民健康保険料の年間上限額を2万円引き上げる方針を発表しました。国民健康保険は、職場の健康保険に被扶養者として加入していない方などが加入する健康保険です。例えば、最近増加傾向にあるフリーランスの方やお店などを経営する自営業の方、また従業員であってもパートやアルバイトなどで一定以上の収入がある方が加入しています。
物価上昇でさまざまな日用品の値上げラッシュが続く中、今回の国民健康保険料の年間上限額が引き上げられるというニュースは、またしても生活を圧迫することになりそうだと不安を感じる方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、特に負担増となる対象世帯の具体例や少しでも保険料負担を減らす節約テクニックについてお伝えしたいと思います。
国民健康保険料の決まり方
本題に入る前に、そもそも「国民健康保険料はどのように決まるのか?」について解説しておきましょう。国民健康保険料は、下の図のように「医療分」「後期高齢者支援金分」「介護分」の3つの区分から構成されて、加入者の所得や、世帯人数を基に計算されています。
●国民健康保険料の計算式
筆者作成
「医療分」➔国民健康保険加入者の医療費用の保険料
「後期高齢者支援金分」➔後期高齢者医療制度(75歳以上の医療制度)のための費用
「介護分」➔介護保険制度のための費用
「医療分」「後期高齢者支援金分」はすべての加入世帯でもれなくかかり、「介護分」は40歳~64歳の加入者にだけかかります。
国民健康保険料は「支払い能力」に応じて決まる
国民健康保険料は保険制度の円滑な運営のため、加入者の「支払い能力」に応じて、公平に決める必要があるとされています。上の計算式のとおり、保険料の各区分には「所得割」と「均等割」があります。そのうち「所得割」が被保険者の「支払い能力」により金額が決まってくる部分です。
各自治体によって適用する保険料率は異なるため、市区町村が、加入者の国民健康保険料の年間金額(その年の4月~3月に支払う保険料の合計)を決定し通知します。
例えば、東京都大田区の2022年度(令和4年度)の保険料率や所得割額・均等割額は以下のとおりとなっています。
●東京都大田区の所得割額・均等割額
東京都大田区ホームページ「令和4年度保険料の料率等について」より
国民健康保険料の年間上限額の見直しとは
国民健康保険料は支払い能力(所得)に応じて公平に負担する仕組みとはいえ、そこまで医療機関を利用していないのに「前年度の収入がたまたま多かった」ために高すぎる保険料を負担させられてしまうのはおかしな話です。そのため、所得が一定金額を超えてくると保険料の上限額に達し、それ以上保険料は増加しない仕組みがあります。
具体的には、国民健康保険料は区分ごとに世帯限度額が設けられ、各区分の合計額が世帯限度額以上になる場合は世帯限度額を優先することになっています。
●国民健康保険料の世帯限度額(東京都大田区の場合)
東京都大田区ホームページ「令和4年度保険料の料率等について」より
この国民健康保険料の年間上限額について見直しをして引き上げましょうというのが今回の法改正の趣旨です。具体的には、令和5年度の国民健康保険料の年間上限額は以下のように、最大2万円引き上げられ、年間104万円となる方針です。
●国民健康保険料の年間上限額
厚生労働省「国民健康保険の保険料(税)の賦課(課税)限度額について」より
高所得層の「負担増」で中所得層の負担軽減が狙い
今回の国民健康保険料の年間上限額の引き上げの背景には、急速に進む高齢化による医療費の増大で、国民健康保険の財政が厳しいことにあります。
国民健康保険制度を支えていくためには、国民健康保険料そのものを引き上げなければなりませんが、全被保険者の国民健康保険料を値上げすることは大きな反発が予想されます。そこで、高所得層の上限負担を引き上げることで、中所得層の負担を少しでも軽減しようというのが、上限額引き上げの狙いのようです。
つまり、今回の限度額引き上げによる保険料への影響は、高所得者層ほど影響が大きくなるということがいえます。
保険料が増加する世帯の具体例を紹介
今回の見直しにより、来年度から負担が増える高所得世帯はどのような世帯なのでしょうか。
国民健康保険料額は収入や年齢、家族構成によって異なりますので一概には言えませんが、ここでは、世帯構成のパターン別に上限金額に該当する所得を紹介します。この所得に該当していれば、令和4年は上限金額に達している可能性が高く、来年度の保険料があがる可能性が高いといえます。自治体によっても異なりますが、今回は前述した東京都大田区を例にご紹介します。
●[ケース1]単身世帯 世帯主のみ(40歳以上)の場合
年齢が40歳以上になると、介護保険料の支払いが必要です。東京都大田区の場合、所得金額が900万円以上になると、上限金額に該当することが分かりました。
つまり、40歳以上の単身の人の所得金額が900万円以上の場合、令和5年度からは上限金額が現在の102万円から104万円になる可能性があります。
●[ケース2]配偶者あり子持ち世帯 世帯主(40歳以上)と配偶者(40歳以上)、子ども1人(16歳以下)の3人家族の場合
世帯主が40歳以上で、妻も40歳以上(専業主婦)、そして16歳以下の子どもが1人いる3人家族の場合、該当する所得金額は780万円となりました。よって、780万円以上の所得がある人は、令和5年度から上限金金額が現在の102万円から104万円になる可能性があります。
●[ケース3]世帯主が40歳以上、専業主婦(40歳以上)、子ども2人の4人家族の場合
さらに、世帯主が40歳以上で、妻も40歳以上(専業主婦)、そして子どもが2人(16歳以上19歳未満、16歳未満がそれぞれ1人)いる4人家族の場合、該当する所得金額は720万円となり、720万円以上の所得がある人は、令和5年度から上限金金額が現在の102万円から104万円になる可能性があります。
※上記のケースで使用している金額は、いずれも所得金額です。収入金額で考える場合は、経費の額を上乗せする必要がある点に注意してください。
年収1000万円前後の人は国民健康保険料が上がる可能性あり
上記結果を踏まえると、今回の改正により保険料が増額となる高所得者層というのは概算で年収1000万円以上(所得で700~900万円位)の国保加入者が該当してくる可能性が高いといえます。厚労省の試算によると、限度額該当世帯の割合は、加入世帯全体の1.51%に過ぎないそうですから、影響は比較的軽微なのかもしれません。
ですが、今回の試算では、2022年度(令和4年度)の保険料率を適用していますので、もし来年度保険料率が改正され、料率が上がった場合には、年収1000万円以下の人でも引き上げ後の上限金額が適用される可能性があります。
また、子育て中の世帯では、保険料以外に教育費などの負担や住宅ローンの返済も考慮しなければならず、特に子どもが高校生や大学生など、一番教育費がかかる年齢に差し掛かっている場合、月数千円程度の保険料負担の増加でも家計に重くのしかかってくることも十分に考えられます。
今回対象にはならなかった世帯でも、このような見直しが今後も続く可能性を考えると、こういった社会保険料負担増加のために、何らかの対策を立てておく必要がありそうです。
高すぎる保険料負担の節約テクニック4選
「国民健康保険料は高すぎる!」というあなたに、ここからは思いつく限りの保険料の節約テクニックをご案内します。
① 世帯を1つにまとめる
1世帯ごとにかかる「平等割額」が保険料に加算される市区町村があります。この場合、例えば親世代と同一住居で生活をしているにもかかわらず別世帯として国民健康保険に加入するとそれぞれに平等割額がかかってきてしまいます。もし世帯を一緒にすることができるのなら即実行すべきです。
② 保険料の安い市区町村へ引っ越す
引っ越しといってもそう簡単にできるものではありませんが、場合によっては年間で数十万円もの保険料節約が可能になるかもしれません。全国で一番高い自治体と低い自治体の差は2倍以上になるケースもあります。保険料の節約方法として住む自治体を変えることは最も効果的かもしれません。
③ 電子マネーのnanacoを利用する
nanacoはセブンイレブンが運営する電子マネーです。国民健康保険料はこのnanacoで支払うことができます。クレジットカードでnanacoチャージすることでカードのポイントをためることができます。nanacoへのチャージにクレジットカードを利用する場合は、どのクレジットカードでも良いわけではなく、セブンカード系列のクレジットカードのみとなっています。以前はJCBカードや三井住友Visaカードなどでもチャージできていましたが、今はセブンカード系列のカードでしかチャージができない(すでに登録済の場合は除く)ので注意してください。
④ 確定申告で控除を受ける
国民健康保険料をきちんと納付していて所得がある方は、確定申告を行うことで社会保険料控除を受けることができます。結果として国民健康保険料の軽減・節約につながりますので該当する方は必ず確定申告を行いましょう。
このほか、国民健康保険では、ある一定の条件を満たす方については保険料を減免(免除)してくれる制度があります。例えば会社が倒産し無職になってしまった方とか、病気やケガで障害を負った方などが該当しますので、お住まいの市区町村などに必ず相談をしてください。
まとめ
国民健康保険料の限度額引上げは、毎年のように実施されており、それに伴い保険料の負担感も年々増しています。せっかく払った保険料を無駄にしないためにも、使えるサービスはもれなく利用しましょう。例えば出産育児一時金(国民健康保険加入者が出産した)や葬祭費(国民健康保険加入者が死亡した)、高額療養費(医療費が高額で払えない)の支給などがあります。まずはお住まいの市区町村ではどういうサービスがあるのかを把握し、いざという時に役立ててくださいね。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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