26/06/29
年金12万円でも「医療費・介護費」を大幅に減らせる裏技

親の介護が始まったとき、多くの人が「こんなにお金がかかるとは思わなかった」と口をそろえます。介護サービスの利用料、病院への付き添い、毎月かさむ医療費…。働きながら親を支える世代にとって、その負担は決して軽くありません。
しかし、知っているか知らないかだけで、毎月の負担が数万円単位で変わることがあります。しかも、引っ越しも不要、手続き費用もゼロ。住民票に関するたった1枚の届け出で実現できる方法があるのです。
その方法とは「世帯分離」です。役役所の窓口でわざわざ教えてくれることはありませんが、知っているか知らないかで年間数十万円の差がつくこともある、まさに"知る人ぞ知る方法"です。今すぐ使える、合法的な節約術をわかりやすく解説します。
そもそも「世帯分離」とは?
世帯分離とは、同じ住所に住んでいても、住民票上の世帯を別々に分けることができる制度です。
たとえば、親と一緒に暮らしている場合でも、役所に「世帯変更届」を出すだけで、「親の世帯」と「子の世帯」を別々に登録することができます。実際の生活や扶養関係とは別に扱われるため、「同居しながら世帯だけ分ける」ことが法律上、認められています。引っ越しをする必要はまったくありません。
年金12万円なら「住民税非課税世帯」になれる可能性が高い
この制度を活用するうえで、カギとなるのが「住民税非課税世帯」という考え方です。
年金で生活している高齢者の場合、収入が少なければ住民税がかからない(=非課税)ケースが多くあります。65歳以上で年金収入だけという方であれば、おおむね年金が年間155万円以下(ひとり暮らしの目安)であれば、住民税非課税になる可能性が高いとされています。月12万円前後の年金であれば、多くの場合、この条件に当てはまります。
住民税非課税世帯になると、医療費や介護費の自己負担の上限が大きく下がるなど、さまざまな行政サービスでお得な扱いを受けられるようになります。
ただし、ここに落とし穴があります。この優遇が受けられるのは、「世帯全員が住民税非課税」の場合に限られています。つまり、親自身は年金12万円で非課税の対象であっても、働き盛りの子どもと同じ世帯に入っていると、子どもの収入によって「住民税課税世帯」と見なされてしまい、せっかくの優遇が受けられないのです。
そこで世帯分離の出番です。子どもの世帯と親の世帯を分けることで、親の収入だけで判断されるようになり、親の世帯が「住民税非課税世帯」として認定されやすくなります。
世帯分離で受けられる4つのメリット
世帯分離には、次のようなメリットがあります。
●(1)介護費の自己負担が下がる
介護保険サービスの利用料は、世帯全体の収入をもとに決まる部分があります。子どもと同じ世帯だと、子どもの収入が加算されてしまい、親の介護サービス利用料が高くなってしまいます。世帯を分けることで親自身の収入だけで計算されるようになり、月2〜3万円の負担が減るケースもあると言われています。年間に換算すると、最大35万円程度の節約につながるという試算もあります。
●(2)医療費の月額上限が大きく下がる
高額療養費制度では、1か月の医療費の自己負担に上限が設けられています。この上限額は収入によって大きく変わります。70歳以上を例にとると、子どもと同じ世帯(一般の課税世帯)の場合、1か月の上限は5万7600円です。ところが、親が住民税非課税世帯になると、1万5000円または2万4600円まで下がります。毎月4万円以上の差が出ることもあります。
●(3)入院中の食事代も安くなる
入院中の食事の自己負担額も変わってきます。住民税非課税世帯であれば、1日あたりの食事代は390円〜810円程度です。一般の課税世帯では1日1650円かかるのと比べると、長期入院になるほど差は開いていきます。たとえば30日間の入院であれば、食事代だけで最大2万円以上の差になることもあります。
●(4)生活保護の申請がしやすくなる場合がある
生活保護は、世帯単位で審査が行われます。子どもと同居していると「家族がいるから支援は不要」と判断されることがありますが、世帯分離をすることで親の世帯だけで審査を受けられるようになり、条件を満たせば受給できるケースがあります。
世帯分離のデメリット・注意点
メリットが多い世帯分離ですが、デメリットもきちんと把握したうえで判断することがとても大切です。
●(1)扶養控除が受けられなくなる可能性がある
これまで子どもが親を税法上の扶養に入れていた場合でも、世帯分離をしただけで必ず扶養控除が受けられなくなるわけではありません。親子が生計を一にしていないと判断されると、扶養控除を受けられず、その結果として子どもの所得税や住民税が増える可能性があります。「介護費は月2万円安くなったけれど、税負担が年3万円以上増えてしまった」というケースも実際にあります。手続きをする前に、どちらの金額が大きいかをしっかり計算してみることをおすすめします。
●(2)健康保険料が上がるケースがある
国民健康保険料は世帯ごとに計算されます。世帯を分けることで、親が「1人世帯」として新たに保険料を計算されるようになり、全体的に割高になる場合があります。ただし、親が75歳以上であれば後期高齢者医療保険に移行しているため、この問題は基本的に生じません。親が75歳未満の場合は、保険料がどう変わるかを事前に役所で確認しておきましょう。
●(3)勤務先の扶養手当に影響することがある
勤め先から親の扶養手当を受け取っている場合、世帯分離によって支給の対象外になる可能性があります。会社によってルールが異なりますので、手続きをする前に人事や総務の担当者に確認しておくと安心です。
●(4)「費用を安くしたいから」だけでは申請できない
世帯を分けることが認められるのは、親と子それぞれが独立した生計を営んでいる場合に限られます。「介護費を安くしたいから世帯を分けたい」という理由だけでは、役所に受理されないこともあります。実際に生計が別になっていることが前提ですので、申請の際は窓口の担当者に状況を正直に伝え、要件を満たしているかどうかを確認しながら進めましょう。
世帯分離の手続きの流れ
世帯分離の手続きはそれほど難しくありません。住民票のある市区町村の役所(住民課・市民課など)へ行き、「世帯変更届」を提出するだけです。持っていくものは、本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)と印鑑です。手数料は基本的に無料で、家族が代わりに手続きする場合も、委任状があれば対応できます。届出は、世帯を変えた日から原則14日以内に行う必要があります。
お得になるか事前に確認を
世帯分離は、知っているだけで自動的に得をする制度ではありません。家族の状況によって、メリットが大きく出る場合もあれば、逆に損をしてしまう場合もあります。特に効果が出やすいのは、親の年金が月12万円前後で住民税非課税の範囲に収まっており、親が75歳以上で、子どもの収入が高く介護サービスをよく利用しているというケースです。一方で、子どもが親を税法上の扶養に入れている場合や、親が75歳未満で国民健康保険に加入しているケースでは、慎重に試算することが必要です。
「自分の家族の場合はどうなるんだろう?」と迷ったときは、お住まいの市区町村の相談窓口に相談してみることをおすすめします。「世帯分離を検討しているが、条件を確認したい」と伝えれば、担当者が丁寧に説明してくれます。
知らなければずっと払い続けるしかなかった費用も、正しい知識と手続きで合法的に抑えることができます。大切な親世代の家計を守るために、ぜひ一度、ご家族の世帯の状況を見直してみてください。
※本記事の情報は執筆時点のものです。制度の詳細や適用条件は自治体・状況によって異なりますので、必ず最新情報をご確認ください。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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