22/12/02
定年後の再雇用で給与40万円から20万円に減額した場合、高年齢雇用継続給付はいくら?再就職では?
一昔前までは「60歳で定年退職して完全リタイア」するのが一般的でしたが、今では、60歳以降も働き続けるのが当たり前と考えられています。このように60歳以降も希望すれば働き続けられる環境が整ってきた一方で、定年後の再雇用時には正社員から契約社員などに切り替わることが多く、一般的には給与が大幅に減ってしまうというのが現状です。
今回は、再雇用や再就職で給与が減ってしまった場合に助けてくれる「高年齢雇用継続基本給付金」や「高年齢再就職給付金」について解説します。自分が給付金の支給対象となるかどうか、一度よく確認しておくといいでしょう。
高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金の違いとは?
高年齢雇用継続給付は、65歳以降も働き続ける労働者を支援するための雇用保険制度のひとつです。定年後も働き続けたいけれど、給与の低下による影響を大きく受けざるを得ない高齢者をサポートする目的で用意されています。
高年齢雇用継続給付には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類があります。
※以下「雇用保険の基本手当」のことを分かりやすく「失業保険」と表現しています。
●高年齢雇用継続基本給付金
高年齢雇用継続基本給付金は、定年後も働き続ける65歳未満の人が60歳時点に比べ賃金が75%未満に低下した場合にもらえる給付金です。
高年齢雇用継続基本給付金は、60歳以降も失業保険をもらわず、継続して雇用された場合にもらえる給付金です。一度退職したとしても、失業保険をもらっていなければ、再就職した際に申請できます。
●高年齢再就職給付金
高年齢再就職給付金は、60歳以降に一度退職して失業保険をもらい、再就職した際に失業保険支給残日数が残っているともらえる給付金です。
この2つの給付金の違いは、60歳以降に退職して失業保険をもらったかどうかで、もらえる給付金が異なります。つまり、60歳以降も同じ会社に再雇用されて働き続ける場合には、「高年齢雇用継続基本給付金」、一度退職して失業手当の受給中に別の会社に再就職した場合には「高年齢再就職給付金」をもらうことになります。
【高年齢雇用継続給付の種類(ケース別)】
筆者作成
高年齢雇用継続基本給付金の支給要件
ここからは、2つの給付金の給付対象や条件などの違いについて、もう少し詳しく順を追って説明します。
●高年齢雇用継続基本給付金の支給要件
高年齢雇用継続基本給付金は、以下の支給要件を満たすと支給の対象となり、低下した賃金の一部を補填することができます。
①60歳以上65歳未満であること
②雇用保険の被保険者期間が5年以上あること
③賃金が60歳到達時賃金の75%未満であること
④一度も失業手当を受給していないこと
再雇用でアルバイトやパートに切り替わり勤務日数が減った場合や、失業手当を受給せずに1年以内に転職した場合も対象です(引き続き雇用保険に加入していることが条件)。
●高年齢雇用継続基本給付金の受給期間
高年齢雇用継続基本給付金は、60歳になった月から65歳になる月まで、最大5年間にわたりもらうことができます。
●高年齢雇用継続基本給付金の給付金額
高年齢雇用継続給付の給付額は、高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金のどちらも基本的に同じ計算方法で算出されます。給付金額は、60歳以前の賃金からどれだけ下がったか(賃金低下率)により変わってきます。
賃金低下率は「60歳以降の賃金÷60歳以前の賃金差の割合」で算出します。
賃金低下率が61%以上75%未満の場合は、60歳以降の毎月の賃金×一定の割合(15%〜0%)となります。ちなみに、賃金低下率が61%以下の場合は、60歳以降の毎月の賃金×15%が支給されます。
【高年齢雇用継続基本給付金の受給額】
筆者作成
●高年齢雇用継続基本給付金の計算例~Aさんの月々の収入はいくら?~
では、実際に「勤続15年、60歳の男性Aさんが定年退職し、月給40万円→月給20万円で
再雇用された場合」を想定して計算してみましょう。
[計算例]
•賃金の低下率=50%
支給率は15%となるため、支給額は
20万円 ×15.00% =30,000 円 (月額)
→月々の収入(月給20万円+給付金3万円)は、約23万円
[Aさんの収入まとめ]
60歳時点の賃金が月額40万円だった場合、60歳以後の各月の賃金が20万円に下がったときには、50%に低下したことになるので、1カ月当たりの賃金20万円の15%に相当する額の3万円が毎月支給され、月々の月収は約23万円になります。
高年齢再就職給付金の支給要件
高年齢再就職給付金の支給要件は以下の5つです。
①60歳以上65歳未満で失業保険を一部受給中に再就職した人
②雇用保険の被保険者期間が5年以上あること
③賃金が60歳到達時賃金の75%未満であること
④再就職後も被保険者かつ1年を超えて引き続き雇用されることが確実であること
⑤再就職日の前日に基本手当(失業給付)の支給残日数が100日以上あること
特に失業保険の支給残日数が100日以上残っている必要がありますので、失業保険の残日数には注意が必要です。
●高年齢再就職給付金の受給期間
高年齢再就職給付金は、失業保険の支給残日数が100日以上200日未満の場合は、最長で再就職した日の翌日から1年を経過する月までもらえます。また、支給残日数が200日以上の場合は、最長で再就職した日の翌日から2年を経過する月までもらえます。いずれの場合も65歳までが支給上限で、支給期間が残っていても65歳になると受給対象から外れます。
●高年齢再就職給付金の給付金額
高年齢再就職給付金の給付額は、高年齢雇用継続基本給付金と同じ計算方法で算出されますが、再就職日の前日に基本手当の支給残日数が200日以上のときは、再就職日の翌日から2年を経過する日の属する月まで、100日以上200日未満のときは、1年を経過する日の属する月までとなっており、高年齢雇用継続基本給付金と比べると受給期間は比較的短い特徴があります。
【高年齢再就職給付金の受給額】
筆者作成
●高年齢再就職給付金の計算例~Bさんの月々の収入はいくら?~
では、「勤続15年、60歳の男性Bさんが定年退職で再雇用ではなく、別の会社に再就職した場合」で考えてみましょう。今回は、月給40万円から月給20万円に下がるのを避けるため就職活動をして、もっと条件のよい月給25万円の会社に再就職したと想定します。
その場合、Bさんは高年齢再就職給付金をいくらもらえるのかを計算してみましょう。
[計算例]
・賃金の低下率=62.5%
支給率は13.07%で支給額は
25万円 ×13.07% =32,675 円 (月額)
→月々の収入(月給+給付金)は、約28万2,675円
[Bさんの収入まとめ]
60歳時点の賃金が月額40万円だった場合、60歳以後の各月の賃金が25万円に下がったときには、62.5%に低下したことになるので、1カ月当たりの賃金25万円の13.07%に相当する額の32,675円が毎月もらえます。月々の収入は約28万2,675円になります。
Bさんのように、賃金低下率が61%超75%未満の場合、賃金低下率ごとの支給率の目安は厚生労働省が公表している支給率の早見表で確認するとよいでしょう。
60歳到達時の賃金月額と比較した支給対象月に支払われた賃金額(みなし賃金額)の低下率に応じた支給率を、支給対象月に支払われた賃金額にかけることにより、高年齢雇用継続給付の給付金の支給額が分かります。
【高年齢雇用継続給付の給付金早見表】
厚生労働省「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について」より
高年齢雇用継続給付の注意点3つ
60歳以降も働き続けたい高齢者にとってはありがたい高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金・高年齢再就職給付金)ですが、受給する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。
●高年齢雇用継続給付の注意点① 収入の額によっては不支給もある
高年齢雇用継続給付の給付金額には上限・下限があります。受給期間中に収入が上限額を超えた場合、その月の支給はありません。「賃金+給付金」が上限額を超えた場合には、超えた分だけ給付金が減額されます。また、給付金の金額が下限額以下になった場合にも支給されないので注意が必要です。
•上限(支給限度額):364,595円
•下限(最低限度額):2,125円
※2023年7月までの金額(毎年8月1日に更新されます)
●高年齢雇用継続給付の注意点② 年金との併給調整もある
働きながら年金をもらっている人は、高年齢雇用継続基本給付金の一部が支給停止されます。
もともと65歳未満の人で収入と年金の合計額が47万円を超えるときは、超えた額の2分の1が支給停止される決まりで、この収入にはボーナスを12で割った額も含まれます。
高年齢雇用継続基本給付金を受給すると、さらに年金の一部が支給停止されます。停止される金額は、最高で標準報酬月額の6%相当額です。標準報酬月額とは、毎月の給料を一定の幅で等級に分けたもので、社会保険料の金額を決定するもとになっているものです。併給調整についての詳細は、年金事務所やハローワークで確認することができます。
●高年齢雇用継続給付の注意点③ 高年齢雇用継続給付は今後縮小する可能性大
高年齢雇用継続給付は、今後は段階的に縮小される可能性があります。例えば、再雇用でもらえる高年齢雇用継続基本給付金は、2025年4月に支給率が最大15%から10%に引き下げられることが決定しています。(2025年3月31日までに60歳になっていれば現行通りの15%)
2025年4月からはすべての企業で定年年齢を65歳以上に引き上げることが義務化されます。60歳以上の働く人に関係する法律や制度が大きく変わってきていることが背景にあり、将来的に高年齢雇用継続給付は廃止ということも考えられます。
まとめ
65歳まで働ける企業を増やすために誕生した高年齢雇用継続基本給付金ですが、現在は65歳以上も働く意欲がある限り長く働けるような法整備が進められていることを踏まえ、近い将来にはその役割を終える可能性があります。
再雇用時の給料大幅ダウンは、社会的な問題ともいえますので、国として企業側に定年前と再雇用時の給料格差を是正することが強く求められていくでしょう。個人レベルでは、減収分を給付金で補う発想から脱却して、高齢になってもよりよい雇用条件で働き続けられるための自己研鑽や学習機会を継続的に心掛けておくとよいでしょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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