21/12/02
「そろそろ投資信託売りませんか?」金融機関のアドバイスに従うのは損しかない
金融機関のアドバイスに従って投資をしたものの、お金が減ってしまったという話はたくさんあります。そうなる理由は単純で、金融機関のアドバイスは、往々にして「自分たち(金融機関)がお金を稼ぐため」のアドバイスになっているからです。
今回は、実際にあった金融機関のアドバイス(実は筆者の知り合いの実話です)を元に、損するポイントを確認していきます。
「そろそろ投資信託売りませんか?」は手数料稼ぎの罠!
筆者の知り合い(70代)は、昔から投資に興味があって、個別の株や投資信託を購入していました。ときどき筆者に「今度こんなところに投資したけど、どう思う?」などと話題を振ってくれるので、筆者もそのたびにあれこれと、楽しく話をしていたのです。
その知り合いが、「最近、金融機関の担当者から「そろそろ投資信託売りませんか?」と連絡が来る」というのです。それも今年の話です。
売るように勧められた投資信託は、3年ほど前に100万円で購入したもの。話を聞いた時点で資産総額は103万円に増えていました。「これを売って、そのお金でこちらの投資信託を買わないか、とアドバイスを受けた」とは知り合いの弁です。
その投資信託を見て驚きました。
●知り合いが勧められた投資信託の基準価額・基準価額の推移①
(プライバシーに配慮して商品名は控えさせていただきます)
モーニングスターより抜粋
一見、投資信託の値段を示す基準価額(上のグラフ)も、資産を示す純資産総額(下のグラフ)も、順調に右肩上がりになっています。これだけを見ると、悪くなさそうです。
しかし、知り合いが利用している金融機関でこの投資信託を購入すると、購入時手数料が3.3%(税込)もかかるのです。
仮に、保有中の投資信託を103万円で売り、新たに100万円でこの投資信託を買ったとしましょう。すると、100万円から3.3万円の購入時手数料が引かれてしまいます。せっかく得た3万円の利益が一瞬にして吹き飛んでしまうことになります。
金融機関の担当者も、こちらの利益がなくなることはわかっているはずです。それなのに投資信託の買い替えを勧めてきた理由は「購入時手数料を稼ぎたいから」に違いありません。金融機関にしてみれば、買い替えてもらうだけで3万円稼げるのですから、おいしいですよね。
安易に金融機関のアドバイスに従うと損してしまうことを証明する事例だといえます。
「毎月分配金がもらえます」は資産を増やしたい人にはNG!
この一件があったあと、他にも持っている投資信託があれば教えてほしいと知り合いに聞いてみました。すると、「昔、毎月お金が入ってくる投資信託を勧められて買った」との返事が。これはまずいのではと思いつつ、情報を調べてみました。
●知り合いが勧められた投資信託の基準価額・基準価額の推移②
(プライバシーに配慮して商品名は控えさせていただきます)
モーニングスターより抜粋
この投資信託は毎月分配型といって、分配金を毎月支払ってくれる投資信託です。緑色の帯のように見えるマークは、分配金が支払われたことを示すマークです。
毎月分配型は主に、年金を受給している方に人気のある商品。年金は偶数月の15日に、2ヶ月分がまとめて支給されます。そのため、毎月分配型のような投資信託を持っていれば、年金の収入のない奇数月にも分配金が入ってきて、生活の足しにできるというわけです。
しかし、毎月分配型は投資信託の運用で利益が出ていないとき、元本を取り崩してまで分配金(元本払戻金・特別分配金)を出してしまいます。すると、投資信託の基準価額や純資産総額も、やがて減っていってしまいます。つまり、長期の資産形成には向かないのです。
実際、上のグラフをみても、基準価額・純資産総額が大きく下落していることは明らかです。また得られる分配金も、多いときは1万口あたり100円だったのですが、直近の2021年11月では10分の1の10円になってしまっています。
知り合いはすでに年金を受け取ってはいますが、投資信託の運用では資産を増やしたいと考えていました。ですから、毎月分配型の投資信託はミスマッチだったことになります。実際、金融庁の基準を満たす投資信託に投資するつみたてNISAの対象商品からは、毎月分配型の投資信託は除外されています。これは、毎月分配型は長期の資産形成に向かないことを表す何よりの証拠でしょう。
なお、この商品の購入時手数料は税込2.2%でした。とはいえ、今はネット証券などを中心に、購入時手数料が無料の投資信託もたくさんあります。そうした商品のなかから、分配金を出さない商品を選んだ方が、よほど資産形成に役立つでしょう。
「今この商品が人気です!」って、今後は誰にもわからない!
もう1本、こちらは実際に購入しなかったものの「今この商品が人気です!」と勧められた商品があると、知り合いはメモを見返しながら教えてくれました。
●知り合いが勧められた投資信託の基準価額・基準価額の推移③
(プライバシーに配慮して商品名は控えさせていただきます)
モーニングスターより抜粋
ところでこの投資信託、何に投資しているかわかりますか? 知り合いにそう確認したところ、「わからない。でも、おすすめだって言われた」とのことでした。
この商品は、日本・世界の株式・債券・REITに分散投資を行うバランス型の投資信託です。バランス型の投資信託自体は、分散投資・リスク軽減に役立つのでいいと思います。しかし、この商品はさらに先物を組み合わせて、3倍程度のレバレッジをかけながら運用を行うしくみになっていました。こんな複雑な商品を70代の知り合いに勧めてくるとはと、驚きました。
もちろん、この投資信託に将来性があると本当に思って勧めてきたのかもしれません。しかし、将来のことは誰にもわかりません。今の運用が仮にうまくいっていたとしても、それが今後も続くとは限らないのです。そして、今後運用がうまくいかなくなったとしても、金融機関は責任を負いません。
それに、上のグラフをよく見ると、基準価額こそ上昇しているものの、純資産総額は2020年半ばから、少しずつ減少しています。といっても、まだ2000億円以上ある商品ではありますが、純資産総額が減るということは、投資家の資金が引き上げられていることを意味します。果たして、本当に「今この商品が人気です!」なのでしょうか。
知り合いの利用する金融機関でこの投資信託を購入した場合、税込3.3%の購入時手数料がかかります。真意は定かではありませんが、手を出していい商品には到底思えませんでした。
まとめ
今回は筆者の知り合いの話をもとに、金融機関のアドバイスの事例を紹介しました。顧客の資産形成を願って、真剣に業務にあたる担当者の方も、たくさんいるでしょう。しかし、ときに金融機関は、自社の利益を優先するということをぜひ知っていただければと思います。
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畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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