21/10/27
住宅ローン減税中にふるさと納税を併用すると損はするのか
所得税や住民税を控除できる(差し引くことができる)制度に、住宅ローン減税とふるさと納税があります。どちらも活用すべき制度なのですが、よく「住宅ローン減税中にふるさと納税を併用すると損ですか?」と聞かれることもあります。
結論からいうと、そんなことはありません。大半の方が併用しても両方の控除を受けられますし、返礼品ももらえてお得です。
今回は、住宅ローン減税とふるさと納税を併用しても損しない理由を紹介します。
住宅ローン減税とふるさと納税のしくみ
両制度の併用の話をする前に、住宅ローン減税とふるさと納税のしくみをおさらいします。
●住宅ローン減税
住宅ローン減税は、自分で住む家を購入・リフォームするために住宅ローンを借りた人が利用できる制度。基本的に毎年の住宅ローン残高の1%を10年間所得税・住民税から控除できます。
・住宅ローン減税の概要
筆者作成
控除できる金額は、一般住宅の場合10年間で最大400 万円(年間40万円×10年間)。まず所得税から控除し、所得税で控除しきれない分は、住民税からも控除されます(前年度課税所得×7%、最大13万6500円まで)。
ただし、自分が1年間に支払う所得税・住民税の範囲でしか税金は戻ってこないので、実際には40万円まるごと控除を受けられない方もいます。
●ふるさと納税
ふるさと納税は、自分が選んだ自治体に寄付ができる制度です。寄付をすると、2000円を超える金額を所得税や住民税から控除することができます。しかも、寄付をすることで寄付先の自治体からお礼の品(返礼品)を受け取れます。つまり、実質的に自己負担2000円で返礼品がもらえる制度なのです。
もっとも、ふるさと納税で自己負担額が2000円になる寄付の金額には上限があります。年収の上限は、年収や家族構成などで異なります。
・ふるさと納税の自己負担が2000円で済む寄付上限額の目安
筆者作成
この金額以上にふるさと納税をしてもいいのですが、上限を超えた分は控除されませんので、自分の上限額を知った上でふるさと納税をするのがいいでしょう。自身の上限額はいくらになるのか、ふるさと納税のポータルサイトにあるシミュレーションを使って計算してみましょう。
住宅ローン減税はどのようにして行われる?
住宅ローン減税は、次のような流れで行われます。
●住宅ローン減税適用の流れ
筆者作成
まずは所得税の計算から。毎年の給与収入から会社員のみなし経費にあたる「給与所得控除」を控除して、給与所得を計算します。給与所得控除の金額は、数式で決まっています。
次に、給与所得から人によって違う「所得控除」を控除して、課税所得を計算します。
この課税所得の金額に応じて決まる5%〜45%の税率をかけることで、所得税の金額が決まります。また、住民税は一律で10%です。
住宅ローン減税では「税額控除」といって、所得税や住民税を直接控除できます。仮に所得税を控除した結果ゼロになった場合は、その年に納めた所得税が全額還付されます。さらに、それでも控除しきれなかった場合には、翌年の住民税からも控除される、というわけです。
住宅ローン減税とふるさと納税と併用した場合どうなる?【確定申告】
ふるさと納税の寄付金額を控除するには、確定申告をする方法とワンストップ特例制度を利用する方法があります。ふるさと納税は、確定申告で申請すると所得税と住民税が控除できます。
住宅ローン減税とふるさと納税と併用し、確定申告をした場合の流れは次のとおりです。
●住宅ローン減税とふるさと納税を併用し、確定申告を行った場合
筆者作成
ふるさと納税を行って確定申告すると、所得控除にふるさと納税の寄附金控除が含まれるため、課税所得が減り、そのぶん所得税も減ります。したがって、住宅ローン控除の税額控除で差し引ける所得税の金額も、減ってしまいます。
所得税で控除しきれない金額は住民税から控除されますが、上限は13万6500円です。これが住民税から控除されたあと、さらにふるさと納税の住民税分が控除されます。
つまり、「ふるさと納税の寄附金控除の分だけ、所得税から住宅ローン控除で節税できる金額が減る」ことを押さえておきましょう。
ふるさと納税と併用した場合【ワンストップ特例制度】
ワンストップ特例制度は、確定申告せずに、ふるさと納税の寄附金控除を受けられる制度です。「寄付先の自治体が1年間で5自治体以内」「確定申告をしない(会社員・公務員などの給与所得者)」といった条件を満たすときに利用できます。確定申告の手間がかからないメリットがあります。
ふるさと納税をワンストップ特例制度で申請する場合は、確定申告とは違って、所得税からは控除されず、全額が住民税から控除されます。したがって、住宅ローン減税とふるさと納税と併用し、ワンストップ特例制度を利用した場合の流れは次のようになります。
●住宅ローン減税とふるさと納税を併用し、ワンストップ特例制度を利用した場合
筆者作成
確定申告のときと違って、所得控除に寄附金控除が含まれません。ですから、課税所得は減りませんし、所得税も減りません。所得税が減らないので、住宅ローン控除で税額控除できる所得税の金額も、ふるさと納税の有無では変わらないことになります。
住宅ローン減税で所得税を控除し、控除しきれない金額は住民税から上限13万6500円まで控除できます。そして、最後に住民税からふるさと納税の控除分が引かれます。
ふるさと納税上限額は、住民税から住宅ローン控除限度額を差し引いた金額で十分控除できる仕組みになっているのでワンストップ特例の場合は控除できる金額に影響が出ないようになっています。
ですから、「ワンストップ特例制度の場合、控除額が減ることはない」ことになります。
確定申告の場合はいくら節税金額が減る?
住宅ローン減税をするとき、ふるさと納税をワンストップ特例制度で併用する分には損しないことがわかりました。問題は確定申告です。確定申告の場合は、いくら節税金額が減るのでしょうか。
●確定申告で節税金額はいくら減る?
筆者作成
たとえば、年収500万円・独身の人(※他の所得控除は基礎控除と社会保険料控除のみ)の場合、ふるさと納税の寄付上限額は6万2000円です。
もしも、この人の住宅ローン減税の金額が30万円だったとすると、ふるさと納税の有無による住宅ローン控除額の差額は、6200円となります。この人は、所得税率が10%なので、ふるさと納税の寄附金控除額は62000円×10%=6200円なのです。この例では、ふるさと納税をすると、6200円分だけ所得税から住宅ローン減税で節税できず、損になってしまうというわけです。
とはいえ、6200円といった数千円の違いです。住宅ローン減税とふるさと納税を合わせた合計の節税金額は大きいので、多少損することになってもふるさと納税を併用したほうがいいでしょう。
もっとも、もし確定申告が不要なら、ワンストップ特例制度を利用した方がお得ではあります。ぜひ活用していきましょう。
まとめ
「住宅ローン減税とふるさと納税を併用すると損」と言われることがありますが、その影響は確定申告とワンストップ特例制度で異なります。確定申告の場合は寄附金控除で所得税が減る分だけ住宅ローン減税ができなくなるので、その差額だけ損になりますが、大した損にはなりません。また、ワンストップ特例制度を利用すれば、控除額は減りません。
ですので、もし確定申告が不要なのであれば、ワンストップ特例制度を活用するのがおすすめです。また、確定申告する場合でも影響は小さいので、気にせずふるさと納税を併用していきましょう。
今回の内容は動画でも紹介しています。よろしければご視聴ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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