21/09/11
日本人がFIREするためには、忘れてはいけない4つの問題点
Financial Independence, Retire Early。日本語では経済的自立をして早期リタイアを目指すというものです。略して「FIRE」が、日本だけでなく世界中で話題です。FIREは資産運用による不労所得を増やすことで経済的に自立し、早期リタイアを目指す人生戦略。昔から「脱サラ」という言葉があるように、会社をやめて自由に生きたいと考える人は少なくないようですね。
しかし、いざFIREを実現しようとすると、問題点も少なくないことが見えてきます。今回は、普段あまり語られることの多くないFIREの問題点を4つ、紹介します。
FIREの問題点1:4%ルールを過信しすぎている
FIREでは、年間の生活費を資産運用の収入でまかなうことを目指します。たとえば、年間の生活費が300万円ならば、年間の資産運用の収入が300万円あれば、計算上は資産を減らさずに、資産運用の収入だけで暮らしていけることになります。
FIREを実現するために必要な資産(FIRE資産)を計算するのに用いられるのが「4%ルール」。かんたんにいうと、「年間の生活費の25倍の資産を運用すれば、年利4%の運用益で生活費をまかなえる」というルールです。つまり、年間の生活費が300万円ならば、その25倍の7500万円のFIRE資産を運用すればいいというわけです。この場合、運用益は7500万円×4%=300万円ですから、年間の生活費と釣り合いますね。
しかし、果たして年4%の運用が毎年続けられるものでしょうか。
FIREの投資先としては、米国の高配当株・連続増配株や、高い配当の見込める株にまとめて投資する米国ETF(上場投資信託)などがよく注目されています。確かに、目下米国市場は好調で、右肩上がりの成長を見せていますが、それでも投資です。4%増えないことがあっても不思議ではありません。
たとえば、ある年の運用利回りが半分の2%だったとしたら、FIRE資産から得られる運用益は7500万円×2%=150万円となってしまいます。これでは生活できないので、資産を取り崩さざるを得ないでしょう。さらに、2%どころかマイナスになってしまったら、資産は急激に減ってしまいます。
もしも50歳でFIREを実現して、90歳まで生きるとした場合、この先40年間も「4%で運用できないかもしれない」というリスクを抱えることになってしまうのです。
老後には公的年金があるではないかと指摘があるかもしれませんが、早期リタイアするということは、厚生年金に加入する期間も短くなりますので、当然年金も減ります。この問題は次の項目で解説します。
FIREの問題点2:将来の年金が減る問題を軽んじている
日本の公的年金制度には、国民年金と厚生年金の2つがあります。会社員・公務員として働いている間は、両方とも加入しています。給与明細を見ると、毎月の給与から保険料が天引きされていることがわかります。
FIREに限った話ではありませんが、勤め先を退職しても、60歳までは国民年金に加入する義務があります。国民年金保険料を40年間(480か月)すべて納めると、65歳から満額の国民年金(老齢基礎年金)が受け取れます。2021年度の老齢基礎年金の満額は78万900円です。
しかし、厚生年金の加入資格は失います。厚生年金で受け取れる老齢厚生年金の金額の計算はやや複雑なのですが、基本的に厚生年金に長く加入し、保険料をたくさん納める(=平均年収が高い)ほど増えます。ですから、FIREすることで将来の年金額が減ってしまうのです。
●早期退職すると年金はどうなる?
筆者作成
上の表は、平均年収と厚生年金加入期間から算出した、65歳以降に受け取れるおおよその年金額(国民年金の満額+厚生年金の目安)をまとめたものです。
たとえば、年収400万円の方が35年働き、58歳で退職したとします。このとき、老後の公的年金の金額は表より年約154万円とわかります。しかし、仮に48歳でFIREした場合には、年約132万円となってしまうのです。
年金は原則65歳から生涯にわたってずっと受け取れます。年22万円の差は、90歳までの25年間と考えると550万円もの差に。資産運用は必ずうまくいくとは限りませんが、年金は何もしなくても安定的に受け取れるのですから、この差は大きいですよね。
しかも、仮にFIRE資産がなくなったときに働こうとしても、うまく働けるとは限りません。ただでさえロボットやAIの台頭によって仕事が減る時代です。働ける場所もないかもしれません。高齢ならなおさら、その可能性が高まってしまうでしょう。
FIREの問題点3:FIREを目指すと今の生活が犠牲になりがち
FIREは比較的少ない資産で早期リタイアが実現できるとあって、話題になっています。とはいえ、上でも紹介したとおり、年300万円の運用益を得るためのFIRE資産は7500万円。「億万長者」というほどではありませんが、それなりの金額です。FIRE資産を用意するには、時間がかかるのです。
●FIREに必要な投資期間は?
筆者作成
年間の生活費300万円を捻出するために、FIRE資産を7500万円用意するとします。仮に毎年4%で運用できた場合、毎月5万円ずつ投資をしても、FIRE資産が用意できるのは45年後。23歳からスタートしても68歳ですから、とても「早期リタイア」とはいえませんね。毎月の投資金額を倍の10万円にしても32年かかる計算です。
FIREを実現した方、あるいはFIREを目指している人からは、「収入の半分を投資しました」「私は収入の8割を投資に回しました」などと、投資に全力を注いだ話が聞こえてきます。しかし、それだけのお金を投資に回すことは、現実的ではありません。当たり前のようですが、生活費がかかるからです。
●家計の支出を確認しよう
筆者作成
表は、20代〜60代の各年代の生活費の支出をまとめたものです。支出合計は、年代によりばらつきがありますが、おおよそ22万円〜36万円。これに、賃貸の家賃や住宅ローンの返済費用を加えた金額が、毎月の生活費の合計となります。
もし収入の半分を投資するならば、この支出合計の2倍の金額を毎月稼ぐ必要があります。たとえば30代ならば月約57.6万円。これだけ稼げるのは、ほんの一握りの人でしょう。
収入の5割〜8割を投資に回せる人は、独身で実家暮らしの人や、結婚しても夫婦二人共働きで子なしの人などに限られるでしょう。しかも、FIRE資産を作るために激しく節約する必要があります。若いうちだからこそできる趣味や楽しみ、スキルアップのための自己投資まで犠牲にしながらFIREを目指すべきなのか、よく考える必要があります。
FIREの問題点4:子どもがいると早期リタイアは厳しい
問題点3でも触れましたが、子どもがいるとFIREのためのお金を貯めにくくなります。なぜなら、教育には多額の費用がかかるからです。
●幼稚園から大学までの教育費の目安
筆者作成
幼稚園から大学までの教育費は、子どもが公立に通うか私立に通うかで大きく異なりますが、1人あたりおおよそ1000万円〜2500万円かかります。この費用には、一般的な塾の費用や習い事の費用は含まれますが、中学受験のための塾費用、海外留学などの費用、大学受験で浪人した場合の費用、大学で一人暮らししているときの費用などは含まれていません。これらがある場合には、もっとお金がかかります。
教育費を削ってまでFIREするというのは本末転倒ではないでしょうか。もちろん、資産運用を行って「FI」の部分、経済的自立を目指すこと自体は良いと思います。
まとめ
経済的に自立し、早期リタイアを目指すFIRE。比較的少ない資産でも、誰でも目指すことができるとあって、あこがれを抱く方も多いのでしょう。しかし、今回ご紹介したとおり、FIREには問題点もあります。これらを踏まえた上で、FIREをするのか、FIREをするならいつ、どのようにするのか、よく検討して考えていただければと思います。
今回の内容は動画でも紹介しています。よろしければご視聴ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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