21/05/07
4月〜6月は働きすぎると手取りが減る? デメリットだけでなく5つのメリットあり
4月、5月、6月に残業すると損すると言われることがあります。この時期に残業すれば社会保険料が増え、給与の手取り額が減ってしまうからです。いったいどういうことなのでしょうか?
ここでは、社会保険料が決まる仕組みについて説明します。4月~6月に残業して給料が増えることにはメリットがあることも知っておきましょう。
給与から控除される社会保険料額は「標準報酬月額」で決まる!
社会保険料とは、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料(40歳以上の場合)のことです。社会保険料は毎月の給与から天引きされているので、普段はあまり意識していないかもしれません。ところで、社会保険料の金額は、いったいどのようにして決まるのでしょうか?
社会保険料は、誰もが同じ金額ではなく、給与によって変わります。社会保険料を算出する基準となる給与が「標準報酬月額」と呼ばれるものです。
標準報酬月額は1年間の給与を合計して12で割ったものではなく、毎年4月、5月、6月の給与をもとに算出するものです。4~6月の給与から決まった標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月まで使われ、1年ごとに見直しされる仕組みになっています。
標準報酬月額はどのようにして決まる?
標準報酬月額は、4月から6月までの給与を合計して3で割った金額そのものではありません。4月から6月までの給与の平均額を等級表にあてはめ、等級ごとに決まっている金額を標準報酬月額とします。給与の細かな金額は違っていても、同じ等級に属する人は同じ標準報酬月額となります。
たとえば、厚生年金の場合、等級は1等級から32等級に分かれます。いちばん低い1等級の場合8万8000円が、いちばん高い32等級の場合65万円が標準報酬月額です。32等級より上はないので、4月から6月の給与の平均額が100万円だったとしても、標準報酬月額は65万円になります。
●厚生年金の等級表
日本年金機構「厚生年金保険料額表(令和3年度版)」より
健康保険・介護保険に関して標準報酬月額を算出するときには、厚生年金とは別の等級表を使います。健康保険・介護保険の等級表は、加入している健康保険や都道府県によって異なりますが、1等級から50等級に分かれています。
●健康保険・介護保険の等級表
「令和3年度保険料額表(協会けんぽ・東京都の場合)」より
社会保険料の算出方法は?
標準報酬月額は、等級ごとに決まることを説明しました。厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料は、それぞれ標準報酬月額に保険料率をかけて算出します。
●厚生年金保険料の保険料率と計算方法
厚生年金保険料については、保険料率は一律18.3%となっています。たとえば、4月から6月の給与の平均額が25万円の場合、厚生年金保険料額表を見ると17等級となり、標準報酬月額は26万円です。26万円に18.3%をかけた4万7580円が厚生年金保険料となりますが、このうち2分の1は会社が負担してくれるので、給与から天引きされるのは2万3790円です。
●健康保険料・介護保険料の保険料率と計算方法
健康保険・介護保険の保険料率は、加入している健康保険によって異なります。たとえば、東京都で協会けんぽに加入している40歳~64歳の人の場合、健康保険料率が9.84%、介護保険料率が1.80%です。4月~6月の給与平均額が25万円とすると20等級となり、標準報酬月額は26万円です。26万円に健康保険料率と介護保険料率を合わせた11.64%をかけると保険料は3万264円、これを会社と折半するので、給与天引きされる額は1万5132円となります。
標準報酬月額が上がるデメリットとメリット
標準報酬月額は、4月~6月の給与を基準に決まります。この場合の給与には、基本給のほか残業手当や通勤手当も含まれます。つまり、4月~6月だけ残業がたまたま多かったら、本来の給与とかけ離れた社会保険料を1年間払うことになります。
4月~6月に残業して標準報酬月額が上がることのデメリットを気にする人は多いですが、悪いことばかりではなく、逆に良いこともあります。以下、4月~6月に働き過ぎるデメリットとメリットを整理してみます。
●4月~6月に働き過ぎるデメリット
①給与の手取りが減る
上にも書いたとおり、給与から天引きされる社会保険料は、標準報酬月額をもとに計算します。4月~6月に働き過ぎて標準報酬月額が上がると、社会保険料も上がり、手取り額が減ってしまいます。手取り額が減って使えるお金が減ってしまうのは、嬉しくないでしょう。
②健康なら損している気がする
標準報酬月額が上がると、健康保険料が上がります。健康保険というのは、病気やケガをしなければ給付が受けられない掛け捨ての保険です。健康なのはありがたいことですが、病院に行くことがないのに高い健康保険料を払っていると、損している気持ちになることもあるでしょう。
③会社の負担も増える
社会保険料は会社が2分の1を負担しています。従業員の標準報酬月額が上がれば、会社の社会保険料の負担も増えることになります。4~6月に従業員の残業が増えるのは、会社にとってもあまり嬉しくないことです。
●標準報酬月額が上がるメリット
①老後の年金が増える
標準報酬月額が上がると、厚生年金保険料が上がります。厚生年金保険料を多く払うと、老後にもらえる公的年金が増えるというメリットがあります。
老後に受給できる公的年金(老齢年金)には老齢基礎年金と老齢厚生年金があり、このうち老齢厚生年金を計算するときには、現役時代の標準報酬月額が影響します。同じ年数働いたのであれば、標準報酬月額が高い方が年金も多くなるということです。公的年金は終身で受け取れるものなので、長生きするほどメリットが大きくなります。
②遺族年金や障害年金が増える
公的年金には、老齢年金のほか、遺族年金や障害年金もあります。遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)は自分が亡くなったときに養っていた家族に支給される年金で、障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)は自分が障害状態になったときに支給を受けられる年金です。
遺族厚生年金や障害厚生年金も、やはり標準報酬月額が基準になります。標準報酬月額が上がると、遺族年金や障害年金を受給することになった場合にも、金額が上がるということです。
③傷病手当金が増える
健康保険には、病気やケガで会社を休んだ場合の保障もあります。病気やケガで3日以上会社を休んだ場合には、4日目以降休んだ日数分(最大で1年6か月)の傷病手当金がもらえます。傷病手当金の額は、標準報酬日額(標準報酬月額を30で割った額)の3分の2になります。標準報酬月額が上がると、病気等で会社を休まねばならなくなった場合の傷病手当金も増えることになり、より大きな安心感を得られます。
④出産手当金や育児休業給付金が増える
給料が上がると、産休・育休を取得する際にもメリットがあります。産休中の給料がわりに健康保険から受けられる出産手当金は、1日につき標準報酬日額の3分の2となっているので、もらえる金額が多くなります。
また、育休中の給料がわりである育児休業給付金は、産休前6か月間の給料を180で割った賃金日額が基準になります。やはり給料を高くしておいて損なことはないのです。
⑤所得税・住民税が安くなる
所得税や住民税は、所得から社会保険料を控除した金額に課税されます。社会保険料が大きければ、課税される所得が少なくなり、税金が安くなるというメリットもあります。
まとめ
4月~6月に普段よりも残業が多めになってしまうと、9月から翌年8月までの1年間の社会保険料が上がります。急に手取りが減って焦らないよう、社会保険料の仕組みを理解しておきましょう。社会保険料を多く払っているということは、その分見返りも大きいということです。負担が増えることばかりを気にせずに、安心感を得る材料にしましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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