20/08/21
あなたが見ている世界は真実の姿?~『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』
「世界は悪くなっている」と思い込む私たち
「世界では戦争、暴力、自然災害、人災が絶えず、どんどん物騒になっている」
「金持ちはより金持ちになる反面、貧しい人は増え続ける一方だ」
「天然資源はもうじき尽きてしまう」
世界14カ国の1万2000人に調査した結果、大半の人はこのように考えていることがわかりました。TVや新聞が深刻なニュースを報道するたびに、私も未来への危機感や先行きの不安を感じます。ただ統計データ上では、極度の貧困者は20年前の半分に減り、平均寿命は40年前より10歳伸びているとのこと。私たちの予想に反して、地球上の貧困は減り、寿命は延び、世界はよくなっているのです。
また近年の、自然災害の大型化から、地震や津波、豪雨による被害者が増えているように思われますが、実際には過去の災害時の半分以下に減っています。
このように人が事実と違うとらえ方をしてしまうのは、経験や情報による思い込みが原因です。
この本では、私たちがいかに思い込みから物事を勘違いしてとらえているのか、思い込みに惑わされず事実に基づいた思考をするにはどうすればよいかが語られています。
人を絶望させる10の本能
世界が以前より悪い状態になっていると感じるのは、私たちの脳が持つ本能のため。それは「分断本能」や「ネガティブ本能」、「瞬時の判断本能」、「過大視本能」、「パターン化本能」など10種類もあります。
たとえば、人は「先進国と後進国」、「良いか悪いか」、「裕福か貧困か」のように、物事を対比する二つに分けて考えがち。これを「分断本能」といいます。
シンプルでインパクトが強いため、メディアが使いやすい手法です。
よく「キャッシュレス派と現金派」、「そば派とうどん派」、「インドア派とアウトドア派」といった比較テーマが取り上げられます。しかし、実際には電子マネーと現金を使い分け、そばもうどんも食べ、余暇に読書もキャンプも楽しむという中間層の人々が圧倒的に多く、どちらか一方に偏る人はほんの少数。AかBかのどちらかという両極端の思い込みは、勘違いを起こします。
また、人はポジティブな話よりもネガティブなニュースに影響されがちな「ネガティブ本能」を持っています。暗いニュースは明るい内容よりも刺激的で強い印象を残すため、悪い面を事実よりも大きくとらえてしまう傾向があるのです。
ネガティブ本能に支配されると、人は希望を失い、「何をやってもムダ」とやる気を失ってしまいます。そうならないように「悪いニュースのほうが広まりやすい」と理解しておけば、偏りのあるメディア報道に振り回されず、暗いニュースに絶望することもなくなります。
「ファクトフルネス」で判断力を上げよう
このように、人は自分の目に映る世界が真実の姿だと信じていますが、思い込みというフィルター越しに眺めているため、実際よりも歪んだ形になっています。ビジネス上でも、AかBかの二極で考えると、クライアントが望むものを見おとしがち。事実と異なる思い込みは誤解を生じ、致命的なミスを招くことになりかねません
間違った思い込みを増長させる10の本能を抑えて、真実を見極める方法として有効なのが、ファクトフルネス(FACTFULNESS)。「事実に基づいて世界を正しく見る」という著者の造語です。ファクトフルネスの習慣を身につけると、思い込みを克服して正確な世界の姿を理解することができるようになります。
世界は悪化の一途をたどっているという考えは絶望を生みますが、実際には世界は改善されつつあると分かれば、前に進む勇気が湧いてきます。それは希望につながり、暗い話題を選びがちなネガティブ本能からも解放されます。
きちんと物事を理解することで、さまざまな事柄に対する判断力が上がり、それに比例して成功率も上がります。不安や迷いを抱えてなかなか調子を出せずにいる人は、もしかすると周囲の意見やメディアからの偏った情報に影響されて動けなくなっているのかもしれません。思い込みに流されずに真実を掴む方法はこれからも必要となるため、一読をおすすめします。
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』
(日経BP)
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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