19/10/15
パート主婦の「損する働き方」はどんな場合?
パート主婦にとってこの時期気になることは、今年1年の給与の総額です。「がんばって働いても、一定額を超えると手取りが減ってしまうから」と、10~12月の出勤日や働く時間の調整をそろそろ考え始めないといけない時期です。
今回はパート主婦にあるいくつかの給与収入の「壁」をおさらいし、壁を超えたらどうなるかを知って、損しない働き方とその先にあるものを考えてみましょう。
パート主婦にある「壁」のおさらい
パート主婦には5つの給与収入の壁があります。それぞれその額を超えると税金や社会保険料の負担が増えるというものです。なお、給与収入にはボーナスや寸志なども含まれます。また、夫の所得は1,000万円以下とします。
①100万円の壁:自身が住民税の納付対象となる
②103万円の壁:自身が所得税の納付対象となる
③106万円の壁:(501人以上の会社で勤めている場合)社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入対象となる
④130万円の壁:夫の社会保険上の扶養ではなくなるため、自身で社会保険(健康保険・国民年金)に加入しなければならない
⑤150万円の壁:夫の所得税計算上の「配偶者特別控除」の額が、段階的に減額される
この他、夫の会社に「配偶者手当」や「家族手当」という名目で、配偶者を扶養しているときに手当がつく場合もあります。その場合は夫の会社の規定によって妻の収入の上限が決まっているので、その上限額にも注意が必要です。
壁を超えたらどうなる?損する壁は1つ
5つの壁があることはわかって頂けたと思いますが、ではその壁を超えたらどうなるのでしょうか?
①の住民税課税となる100万円、②の所得税課税となる103万円、⑤の夫の所得税増税となる150万円については、負担する税金がそれほど多い額にならないので、世帯での手取りに大きく影響をあたえることはありません(最後の「夫の配偶者手当」まで考慮すると、違ってくるケースもあります)。
世帯手取り合計に大きく影響を与えるのは、③または④の社会保険への加入の壁なのです。どちらの壁になるかは、パート主婦の勤務先の規模によって異なります。
●③の106万円の壁になるパート主婦
・従業員501人以上の会社に勤めている
・1週間の労働時間が20時間以上
・月額8.8万円以上の賃金が見込まれる
以上のすべてにあてはまる場合は、自身が勤務先の健康保険と厚生年金保険に加入しなければなりません。つまり保険料が天引きされて手取り額が下がるのです。月額9万円の給与なら、健康保険と厚生年金保険で月1.2万円ほどなので、年間15万円手取りが下がることになります。夫の扶養からはずれたからといって、夫の保険料が下がるわけではないので、世帯では実質手取りが減ることになります。
しかしこの場合は、今まで補償されなかった病気やけがで休業したときの給与補填や、将来の年金額が増えるというメリットもあります。
●④の130万円の壁になるパート主婦
従業員500人以下の会社で働くパート主婦の場合、年収130万円を超えると夫の社会保険上の扶養ではなくなるため、自分で国民健康保険と国民年金に加入して、それぞれ保険料を払わなければなりません。
国民健康保険料は住所地によって違いがありますが、給与年収140万円としておおよそ月1万円弱です。一方、国民年金保険料は給与年収に関係なく一律で、2019年度は月16,410円です。合計月々2.5万円として年間30万円の負担増となり、年収が130万円から140万円と10万円増えたことによって、保険料負担が30万円増えて、手取りはマイナス20万円となってしまいます。しかも、休業補償もなく、年金も今までとなんら変わらない条件です。
なので、体力や家庭の事情が許せば、もう少し頑張って150万円を超える、または自分で社会保険に入るぐらいの時間働いてみるべきだと思います。
世帯の手取り収入よりも、自身の資産を増やすことを考えたい
パート主婦で社会保険に加入しないためには、従業員501人以上の会社で働いているときは、月額8.8万円未満に抑える働き方をしないといけません。時給1,000円なら1か月88時間未満です。5時間勤務を週4日という感じでしょうか。しかし、これではなかなか自身の資産となるほど、仕事のスキルはあがりません。
また、従業員500人以下の会社であっても、月額10.8万円未満で週の労働時間が30時間未満を強く意識していなければいけないのは、仕事をする本人も職場の人も不便ですし、スキルの面でいえば従業員501人以上のパート主婦と同じことがいえるのではないでしょうか。
さらに極端なことをいえば、夫はいつまでも会社員でいる保障はあるのでしょうか? 夫との婚姻関係がこれからもずっと続くと断定できるのでしょうか?
まとめ
政府は、将来的には短時間労働のパート主婦であっても、社会保険に加入しなければならないしくみに変えていこうとしています。なぜなら、自営業の妻との不公平性もさることながら、社会保険に加入することによって厚生年金の増額が見込め、老後資金の確保につながるからです。
状況さえ許せば、今年や来年など目先の世帯の手取り収入を考えるのではなくて、もっと先に待ち構える自身のスキルの向上や、将来の自身のお金の確保を考えた働き方を、筆者は強く推奨します。
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小野 みゆき 中高年女性のお金のホームドクター
社会保険労務士・CFP®・1級DCプランナー
企業で労務、健康・厚生年金保険手続き業務を経験した後、司法書士事務所で不動産・法人・相続登記業務を経験。生命保険・損害保険の代理店と保険会社を経て2014年にレディゴ社会保険労務士・FP事務所を開業。セミナー講師、執筆などを中心に活躍中。
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