25/04/02
意外と高い?後期高齢者医療制度の保険料は月額いくらか

「国民皆保険」制度のもと、すべての日本国民は何かしらの公的医療保険制度に加入しています。75歳以上(および一定の障害がある65歳以上74歳未満)の人もまた、「後期高齢者医療制度」に加入して保険料を納めていますが、その保険料は都道府県によって異なることをご存じでしょうか。そこで今回は、後期高齢者医療保険料の全国平均と都道府県間の違い、また2025年度さらに値上がりする背景を解説します。
後期高齢者医療制度に加入で何が変わる?
75歳以上の1人あたり医療費(2023年度概算)は、75歳未満の平均(25.2万円)の約4倍にあたる96.5万円。75歳を迎えて後期高齢者医療制度に加入することによる一番の変化は、病院等の窓口で実際に支払う際の自己負担割合です。6歳(義務教育就学前)未満が2割、70歳未満は3割、70歳から74歳は原則2割であるのに対して、75歳以上は原則1割と低く抑えられています。3割となる現役並み所得者に加えて、一定以上所得のある人は2022年10月から2割に引き上げられましたが、その判定基準は次の図のとおりです。
<後期高齢者医療制度における窓口負担割合>

政府広報オンライン
「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?」より
後期高齢者医療保険料はどう決まる?
窓口負担以外の部分を賄うために必要な財源の一つが、後期高齢者医療制度の加入者全員が納める保険料です。公的年金の受給額が18万円以上の人は、原則として年金からの天引き(特別徴収)される形で、住んでいる市区町村に納付されます。
●後期高齢者医療保険料は「均等割額」と「所得割額」の2つで構成
後期高齢者医療保険料は、すべての被保険者が負担する「均等割額」と、被保険者の所得に応じて負担する「所得割額」で構成されており、見直しは2年ごとです。
【後期高齢者医療保険料(年額)の計算式】
保険料(年額)=均等割額+所得割額(※)
(※)所得割額=(前年中の総所得金額等-基礎控除額)×所得割率
公的年金等の収入金額が330万円未満の人は、110万円の公的年金等控除を差し引いた後の金額が総所得金額となります。収入が年金のみで153万円以下であれば、「(153万円-110万円)-住民税の基礎控除43万円=0万円」となり、所得割は発生しません。
●後期高齢者医療保険料は「都道府県」単位で設定
2025年度における月額保険料は、厚生年金受給者の標準的な年金額(年金収入195万円)の場合には全国平均で5,673円。しかし、最も高い福岡県(月6,641円)と最も安い岩手県(月4,808円)では、月1,833円(年21,996円)の開きがある点に注目です。
<2024・2025年度の保険料率(都道府県別)>

厚生労働省
「後期高齢者医療制度の令和6・7年度の保険料率について」より筆者作成
後期高齢者医療制度は、各都道府県に設けられた「後期高齢者医療広域連合」を保険者として、都道府県単位で財政および運営責任が明確化されています。したがって、保険料もまた、住んでいる地域の医療費水準等に基づいて決められているのです。
なお、後期高齢者医療制度の被保険者一人当たりの全国平均の保険料額は2024年度に7,082円とはじめて7,000円の大台を突破する見込み。さらに2025年度は7,192円となる見込みが示されています。
後期高齢者医療保険料に軽減措置はあるの?
後期高齢者医療制度における一人当たりの年間保険料額は、制度が創設された2008年度から2025年度にかけて約23,000円増加しました。老後の暮らしにおける負担は増す一方ですが、軽減措置が設けられているので確認しましょう。
<後期高齢者医療保険料の推移(2008~2025年度)>

筆者作成
●低所得世帯に対する均等割額の軽減措置
同一世帯の被保険者および世帯主(被保険者でない人も含む)の所得金額の合計額が、基準額を下回る場合、その所得額に応じて均等割額が2~7割軽減されます。
<均等割額の軽減措置(例:東京都)>

筆者作成
「年金・給与所得者の数」とは、同一世帯の被保険者と世帯主のうち、給与収入額が55万円(※)を超えている人、または公的年金等の収入額が125万円を超えている人(65歳未満は60万円超)の数です。65歳以上の公的年金受給者の総所得金額等は、年金所得の範囲内で最大15万円が控除されたうえで、軽減判定が行われます。
(※)給与所得控除の最低額を10万円引き上げる「令和7年度税制改正」によって、65万円となる見通しです(2025年3月12日時点)。
●被用者保険の被扶養者であった人に対する軽減措置
75歳の誕生日を迎える前日まで(会社の健康保険など)被用者保険の被扶養者だった人には、所得割額はかかりません。均等割額についても、加入から2年間を経過する月まで、5割軽減の対象です。なお、低所得世帯に対する均等割額の軽減に該当している場合には、軽減割合の高い方が適用されます。
●所得割額の軽減(東京都の独自措置)
低所得世帯に対する均等割額の軽減措置や、元被扶養者に対する軽減措置は、法律で定められている措置です。これらに加えて、東京都(東京都後期高齢者医療広域連合)のように、所得割額を50%または25%軽減するといった独自の措置が設けられている場合もあります。
<所得割額の軽減対象と軽減割合(東京都)>

東京都後期高齢者医療広域連合
「保険料の決め方・賦課」より筆者作成
【2024年4月施行】後期高齢者医療保険料の増加理由とは?
75歳以上の医療費が占める割合は、全体の約4割。2023年度(概算)も、2022年度から4.5%増の18.8兆円となりましたが、実は後期高齢者医療保険料は、窓口負担分を除く医療給付に必要な財源の約1割にすぎません。残りの約9割は、公費(約5割)および現役世代からの支援金(約4割)によって成り立っています。
<後期高齢者にかかる医療費の財源>

東熊本県後期高齢者医療広域連合「保険料はどうなるの?」より
そこで、世代間のバランスを図る改正(2024年4月施行)が、次のとおり2024・2025年度の後期高齢者医療保険料から反映されるようになりました。これが、後期高齢者医療保険料が増加する理由となっています。
●後期高齢者医療保険料の増加理由(1):現役世代の負担率の伸びを反映
2008年から2022年にかけて、「高齢者一人当たりの保険料」はたしかに1.2倍(5,332円→6,472円)増加しましたが、「現役世代一人当たりの支援金」はそれを上回る1.7倍(2,980円→5,456円)の増加です。今回の見直しでは、それぞれの伸び率が同じになるよう、「後期高齢者負担率」が12.67%(2022・2023年度:11.72%)に引き上げられました。
●後期高齢者医療保険料の増加理由(2):出産育児一時金を全世代で支え合う仕組みの導入
健康保険や国民健康保険の被保険者等が出産すると、加入している公的医療保険制度から「出産育児一時金」が支給されます。2023年4月よりその金額が42万円から50万円に引き上げられましたが、出産育児一時金に係る費用の7%(2024・2025年度は3.5%)を、後期高齢者医療制度からも支援する仕組みが、今回の改正で導入されました。
「激変緩和措置」の縮小で2025年度から保険料が増える人
今回の改正にあたっては、保険料負担の急激な上昇に対する「激変緩和措置」も設けられていることから、その負担上昇を煽る情報は冷静に見極める必要があります。実は、約6割とされる年金収入153万円相当以下の加入者は、改正に伴う「均等割」の増加はありません。
一方で、約12%と推計される年金収入153~211万円相当の加入者については、激変緩和措置で2024年度は行われなかった「所得割」の増加が、2025年度より発生します。また、2024年度は73万円に抑えられていた年収1,000万円超の加入者に係る賦課限度額(保険料負担の年間上限額)が、2025年度は80万円に引き上げられる点にも注意が必要です。
現在の状況をもとに保険料がいくらになりそうか試算してみよう
今回は、すべての75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」に係る保険料について、2025年度さらに値上がりする背景を中心に解説しました。みなさんがお住まいの都道府県では、2025年度果たしていくらになるでしょうか。老後の家計を見通すうえで、後期高齢者医療保険料が、今後ますます重要な位置を占めることは間違いありません。都道府県によっては後期高齢者医療広域連合のウェブサイトから保険料を簡単に試算ができるので、75歳を迎えるまでまだまだ時間がある人も、ぜひアクセスしてみてください。知っていると知らないとでは、実際に75歳を迎えた際の心のゆとりが大違いです。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker

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