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24/06/25

資産運用・経済

【目論見書】投資信託の隠れコストの見える化「総経費率」 信託報酬とはどう違うの?

【目論見書】投資信託の隠れコストの見える化「総経費率」 信託報酬とはどう違うの?

投資信託の手数料でもっとも大切なのは、保有中にかかる信託報酬だと聞いたことのある方もいるでしょう。しかしこれからは、2024年4月から投資信託の目論見書に記載されるようになった「総経費率」も確認しましょう。総経費率を見ると、信託報酬だけでは測れない投資信託の「隠れコスト」がわかります。
今回は、投資信託の信託報酬と総経費率の違いを紹介します。

そもそも信託報酬ってどんなもの?

投資信託の主なコストには、
・購入時手数料:投資信託を購入するときの手数料
・信託報酬:投資信託の保有中に差し引かれる手数料
・信託財産留保額:投資信託を売却するときの手数料
の3つがあります。

この3つのコストのうち、購入時手数料と信託財産留保額はかからない投資信託も多くあります。しかし、信託報酬はどの投資信託でもかかります。
信託報酬は、投資信託を持っている間に投資信託の販売会社・運用会社・信託銀行が投資信託の信託財産の中から毎日一定の割合で差し引く手数料です。
投資信託の目論見書には、販売会社・運用会社・信託銀行の信託報酬の配分や、その信託報酬を受け取ることでどのような仕事(役務)をしているのかが示されています。

<eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬>

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より
(株)Money&You作成

「オルカン」の愛称で人気の「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の場合、信託報酬率は年0.05775%。それを販売会社・運用会社・信託銀行の3社で分けていることがわかります。なお、eMAXIS Slimシリーズには純資産総額が増えるごとに実質的な信託報酬率が下がる「受益者還元型信託報酬」という仕組みがあることも説明されています。

投資信託は数十年にわたって投資・保有することでお金を増やす商品なので、信託報酬が少し違うだけで、投資結果に大きな差を生みます。もちろん、安いに越したことはありません。

信託報酬だけの比較には問題も…

しかし、信託報酬だけを比較するのには問題があります。なぜなら、投資信託にかかるコストは、信託報酬だけではないからです。 目論見書には、その他のコストにどんなものがあるか、きちんと掲載されています。

<eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の「その他の費用・手数料」>

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より

これらの費用は、前もっていくらと示すことができない事後費用なので、目論見書に明示されていませんでした。そのことをもって「隠れコスト」などと呼ばれますが、もちろん隠しているわけではありません。実際にいくらかかったかは、運用報告書に示されています。

<eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の運用報告書>

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の運用報告書より
(株)Money&You作成

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の隠れコストは、
・売買委託手数料0.006%
・有価証券取引税0.015%
・その他費用0.032%
ですから、合計すると0.053%です。信託報酬の0.113%※と合わせると0.166%です。
※eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬は2023年9月8日に年0.05775%に引き下げられています。

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の隠れコストは低水準ですが、なかには信託報酬よりも隠れコストのほうが高い投資信託もあります。
たとえば、「PayPay投信NASDAQ100インデックス」の運用報告書を見ると、信託報酬が年0.417%なのに対し、その他のコストの合計は0.5%。合計で0.917%と信託報酬よりかなり高くなっています(2022年6月28日〜2023年6月26日)。
信託報酬だけを見て選んでいた投資家にとっては、蓋を開けてみれば保有コストが2倍になっていたという商品の一つです。

その他のコストが高いと、「信託報酬が安く、低コストで運用できるから」と投資信託を選んだにも関わらず、実際にはコストの高い運用をしていた…ということになってしまいます。

また、信託報酬のなかに含まれる費用も、投資信託によって異なります。たとえば、インデックスファンドがベンチマークにする指標の利用料ひとつとっても、信託報酬に含める投資信託もあれば、含めない投資信託もあり、会社ごとに異なります。これでは、正しい比較がしにくいでしょう。

この状況を改善しようと、2024年4月から投資信託の目論見書に「総経費率」が記載されるようになりました。

総経費率≒信託報酬+隠れコスト

総経費率は、信託報酬や隠れコストの合計を表す「総経費」が投資信託の規模を表す「純資産残高」に占める割合を年率で表したもの。ざっくりいえば「信託報酬+隠れコスト」です。投資家は、信託報酬だけでなく総経費率を比べることで、コストが本当に安い投資信託がわかるようになります。

たとえば、eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の総経費率は次のように示されています。

<eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の総経費率>

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より
(株)Money&You作成

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の2022年4月26日〜2023年4月25日の総経費率は0.15%です。そのうち運営管理費用(信託報酬)が年0.11%、その他費用(隠れコスト)の比率が年0.03%(表示桁数未満四捨五入)となっています。なお、eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬は2023年9月8日に年0.05775%に引き下げられているため、次回の目論見書で表示される総経費率はより少なくなるでしょう。

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総経費率には「含まれない費用」もある点に注意!

投資信託の総経費率を見れば、信託報酬だけでなく隠れコストも含めた、より正しい投資信託のコストを把握できます。しかし、総経費率を見るときにも注意点があります。

●総経費率には含まれない費用もある

目論見書に記載される総経費率はあくまで概算で、含まれていない費用もあります。上で紹介したeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合も、運用報告書に記載された隠れコストが「0.053%」だったのに対し、目論見書のその他費用の比率は「0.03%」です。

目論見書の注を見ると、
当期間の運用・管理にかかった費用の総額(原則として購入時手数料、売買委託手数料および有価証券取引税を除く。消費税等のかかるものは消費税等を含む。)を当期間の平均受益権口数に平均基準価額(1口当たり)を乗じた数で除しています。

とあります。

つまりeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の総経費率に占める「その他費用の比率」は、その他のコストのうち購入時手数料・売買委託手数料・有価証券取引税を除いた金額の比率(=その他費用(0.032%)のみ)となっているのです。

もしも詳しく隠れコストが知りたいというのであれば、運用報告書を確認しましょう。

●総経費率は新しい投資信託の目論見書には記載されない

総経費率は、過去の運用実績をもとにして計算されるため、これから運用がスタートする新規設定の投資信託や、決算を迎えていない投資信託の目論見書には記載されません。商品によっても異なりますが、総経費率がはっきりするのは運用後1年程度経ってからですので、新しい投資信託の場合「フタを開けたら意外と総経費率が高かった」となる場合もあることに注意しましょう。

●総経費率は同種の投資信託で比較する

総経費率は、同種の投資先の投資信託の間で比較しましょう。たとえば同じ「S&P500」に連動を目指すインデックスファンドであれば、値動きはそれほど大きく変わらないはずです。この場合、総経費率がより低い投資信託を選んだほうが利益を得られるでしょう。

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信託報酬も大事だけど、総経費率も確認しよう

2024年4月から、投資信託の隠れコストが目論見書に表示されるようになったことを紹介しました。信託報酬は投資信託のコストを知る重要な指標に違いないのですが、これからは目論見書・運用報告書で総経費率も確認し、実際のコストを比較して投資するかしないかを判断するようにしましょう。

頼藤 太希 マネーコンサルタント

(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki

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