24/06/22
「変動10年国債」は日本一安全に定期預金より増やせるのは本当か
2024年3月、日銀はそれまで17年間続けてきたマイナス金利政策を解除し、金利を引き上げました。これを受けて「金利のある世界」に動き出した金融機関は、普通預金の金利を年0.001%から年0.02%に引き上げたり、定期預金の金利を年0.2〜0.4%程度に引き上げたりしているのですが、まだまだそこまで金利が高くないのが現状です。
そんな中で注目したいのが、国が発行している債券(国債)を個人でも買いやすくした「個人向け国債」。なかでも「変動10年国債」は銀行預金より金利が高く、元本保証が得られ、今後の金利上昇にも備えられる商品です。
今回は、個人向け国債の「変動10年国債」の特徴やメリット・デメリット、活用の仕方を紹介します。
個人向け国債ってどんな商品?
債券は、国、地方自治体、企業などがお金を借りるために発行する借用証書のようなもの。なかでも、国が発行している債券を「国債」と呼びます。個人向け国債は国債のひとつで、個人が買いやすいようにした商品です。
個人向け国債は毎月発売されており、最低購入価格1万円から1万円単位で購入できます。個人向け国債を買うと、半年に1度利息が受け取れ、満期になると貸したお金が返ってきます。
個人向け国債には「固定3年国債」「固定5年国債」「変動10年国債」の3つのタイプがあります。
<個人向け国債の3つのタイプ>
著書「1日1分読むだけで身につくお金大全100改訂版」(自由国民社)より
「固定」「変動」は金利の仕組みのことです。
・固定…販売している利率が満期まで変わらずにもらえること
・変動…半年に1度、利率が見直されて変動すること
を表します。
また年数は、お金を貸す期間(=満期になるまでの期間)のことです。それぞれ、3年・5年・10年と分かれています。
なお、満期になる前でも、発行後1年以上経てば中途換金できます。中途換金すると、直近2回の利子にあたる金額が差し引かれますが、元本割れはしません。
個人向け国債の利率は、最低でも年0.05%が保証されています。
2022年中頃まで、個人向け国債の金利は3タイプとも0.05%の下限で設定されていました。
しかし、変動10年国債は2022年8月、固定5年国債は2022年12月から、固定3年国債は2023年11月から金利が上昇してきています。2024年6月募集分に関しては、変動10年国債の金利は年0.69%、固定5年国債の金利は年0.59%、固定3年国債の金利は年0.40%となっています。
個人向け国債の金利が上昇…おすすめは「変動10年国債」
個人向け国債のおすすめは「変動10年国債」。なぜならば、今後も金利が上昇していった場合に、すでに保有している変動10年国債の利率も上昇し、利息が増えるからです。
変動10年国債が参考にしている基準金利とは、「10年固定利付国債の利回り」です。この基準金利に0.66を乗じた利率が利払日ごとに設定され、変動10年国債の適用利率になるルールです。計算した結果、0.05%を下回る場合でも、年0.05%の最低金利が保証されます。一方で、年0.05%を超えれば、その利率が変動10年国債の適用利率になります。
直近10年間の10年固定利付国債の利回りと、その基準金利に0.66をかけた適用利率をグラフに表すと、次のようになります。
<直近10年の「10年固定利付国債の利回り」の推移(2014年5月〜2024年5月)>
(株)Money&You作成
青が10年固定利付国債の利回り(=基準金利)、オレンジが「基準金利×0.66」の数値です。オレンジのグラフは、途中0.05%の最低金利が長いこと適用されていますが、2022年8月あたりから上昇していることがわかります。実際、変動10年国債の半年ごとの金利も、上昇しています。
<変動10年国債(第147回・2022年7月発行)の適用利率>
財務省のWebサイトを元に(株)Money&You作成
画像内赤枠で示した適用利率(税引前)をみると、0.16%、0.17%、0.29%、046%、0.69%と、徐々に上昇していることがわかります。変動10年国債の場合、このように半期ごとに金利が見直されます。
「変動10年国債」のメリットとデメリット
変動10年国債のメリットとデメリットは、次のとおりです。
●変動10年のメリット
①預貯金よりも金利が高く、日本一低リスクの資産
②中途換金しても元本割れしない
③金利が上昇すれば、もらえる利息も増える(金利リスクヘッジ)
④インフレに比較的強い(インフレヘッジ)
⑤最低でも0.05%の金利がつく
⑥手数料がかからない
変動10年国債は預貯金より金利が高く、日本一低リスクの資産です。元本割れもしません。国が潰れるとしたら、その前に銀行が潰れるはずです。
また変動金利であれば、マイナス金利が解除され、金利が上昇していく時代の中で、もらえる利息も増えていきます。金利上昇リスクにも備えることができます。金利の最低保証があることも嬉しいメリットです。
そもそもインフレとなり物価が上がると、インフレを抑制するために金利が上昇していきます。インフレ対策としても有用な資産と言えます。手数料が一切かからない面もメリットとして大きいでしょう。
●変動10年国債のデメリット
①購入から1年間は中途換金できず、中途換金すると、直前2回分の利子を返還する必要がある
②自動積立ができない
③利子は現金で払い出されるので複利運用できない
個人向け国債は原則として購入から1年間は中途換金ができません(口座名義人が亡くなった場合や、大規模な自然災害の被害を受けた場合などには中途換金が可能)。また、1年経って中途換金すると、直前にもらった2回分の利息は返還しなくてはなりません。ただし、利息を返還したとしても元本割れがない点は安心です。
個人向け国債は毎月発行されるので、毎月購入できるのですが、自動積立の仕組みがないので、毎回自身で購入手続きする必要があります。また、個人向け国債の利息は現金で支払われるので、複利効果(運用で得られた収益を投資することで運用金額が増え、その結果リターンも増えていく効果)を得るには支払われた利息を再び自分で投資する必要がある点も押さえておきましょう。
変動10年国債は「数年以内に使う予定のお金」を備えるために使おう
お金は、「日々出入りするお金」「数年以内に使い道が決まっているお金」「10年以上使わない将来のためのお金」に分け、それぞれに適した制度や商品で貯めるのがおすすめ。変動10年国債は、数年〜10年以内に使う予定のお金を用意するのに向いています。
数年以内に使い道が決まっているお金には、たとえば住居購入の頭金や車の購入資金、留学費用などがあります。これらのお金は、使うまでにまだ時間があるために増やしたいものの、減ると困ってしまいます。変動10年国債を利用することで、堅実にそのお金を準備できます。
5年後に訪れるライフイベントのために個人向け国債を活用する場合でも「固定5年国債」ではなく「変動10年国債」を選んだ方がベター。5年後は金利がさらに上昇し、変動10年国債のほうが高い利息を得られる可能性があるからです。たとえ、直近2回分の利息を返還したとしても、変動10年国債のほうがもらえる利息が多くなる可能性があります。
もちろん、反対に金利が下落すれば、固定5年国債のほうが有利になる可能性もあります。しかし、将来のことはもちろん予測できないものの、17年ぶりにマイナス金利が解除され、金利が上昇する時代になっていることを踏まえると、変動10年国債を購入しておいた方がよいと考えます。
なお、「日々出入りするお金」は生活費やもしものときに対応するためのお金ですので、すぐに使えることが大切です。普通預金を利用して最低6か月分は確保しておきたいところです。
また、「10年以上使わないお金」は子どもの大学資金や老後の生活資金が該当します。たとえば新NISA(ニーサ・少額投資非課税制度)のように、投資の利益にかかる約20%の税金を一生涯非課税にできる制度をじっくり利用することで、お金を堅実に増やしていくことができます。また、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)では出した掛金が全額所得控除になるため、所得税や住民税を節約しながら老後資金を準備可能。新NISAと同じく運用益非課税です。
個人向け国債はどこで買える?
個人向け国債は、銀行や証券会社など多くの金融機関で取り扱っています。財務省のウェブサイトには取扱金融機関の一覧がありますので、自分の利用している金融機関で購入できるかぜひご確認ください。
また、個人向け国債はインターネット上でも購入できます。
<インターネット上で個人向け国債を購入できる金融機関>
財務省のWebサイトを元に(株)Money&You作成
店舗銀行・証券会社はもちろん、SBI証券・楽天証券・マネックス証券といったネット証券でも個人向け国債を購入できます。
マイナス金利が解除され、金利のある世界に向かう中、個人向け国債の金利が上昇していることを紹介しました。個人向け国債、特に変動10年国債は、預貯金よりも金利が高く、中途換金しても元本割れしない、日本一低リスクの資産です。金利の見直しもあるので、今後のインフレにも比較的強いメリットもあります。
元本割れの心配をすることなく、預貯金より高い金利でお金を増やしたいと考えているならば、ぜひ変動10年国債の利用を検討してみてくださいね。
今回の記事の内容は動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
【関連記事もチェック】
・「Vポイント経済圏」はどれくらいお得?経済圏移行時の注意点も解説|マネラジ。#155
・お金の不安ゼロで豊かな人生を目指す戦略「50歳からの新NISA高配当株投資」【Money&YouTV】
・貯金1000万円以上ある人が絶対しない節約
・全世界株と全米株、どちらに投資するのが正解? お金のプロ達の結論【Money&YouTV】
・貧乏人は買うけど、お金持ちは買わないもの5選
頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
この記事が気に入ったら
いいね!しよう