24/06/05
資産は「いつから」「何から」取り崩していくべきか プロが考える資産運用の出口戦略
就職してから、定年後の仕事を辞めるまでは、日々の生活費などにお金は使いつつ、将来のライフイベントや老後のために、資産を形成する時期になります。
しかし、定年後の年金暮らしでは、公的年金に加えて、それまで築いてきた資産を取り崩しながら生活をしていくことになります。
「資産形成期」から「資産取り崩し期」に変わります。
この「資産取り崩し期」に変わるタイミングで悩むのが、資産は「いつから」「何から」取り崩していくべきか、です。
資産は「いつから」取り崩し始めるのがいいか?
資産はいつから取り崩し始めるのがいいのでしょうか。
ひとつの目安として、勤労収入があるうちは本格的に取り崩す時期ではありません。勤労収入があれば、その収入で生活ができますし、長期・積立・分散投資を行うことで資産を増やすことができるからです。生活費が足りない場合は、運用で得た利益を利用します。
仮に年4%で運用できた場合には、取り崩す金額を4%以内にすれば元本が減ることはありません。
多くの場合、本格的に資産を取り崩していくのは70歳以降になるでしょう。
勤労収入があるうちは年金の繰り下げ受給も選びやすくなります。人生100年時代、日本人が今後も長生きになっていくことを考えると、60歳以降も、65歳、70歳と勤労収入を得られるうちは働いて、年金の繰り下げを行いつつ資産形成も継続していくのがよりよい選択といえるでしょう。本格的な資産の取り崩しは、仕事を引退してからです。
ただし、お金をただ貯めるだけの人生では味気なくなります。人生において、やりたいことができる期間は限られています。
60代でできることと70代でできることは違うはずですし、80代、90代となればなおのこと、できることに制約が出てきます。お金は使うために貯めてきたのですから、実現したいこと、経験したいこと、思い出に残したいことがあれば、使っても問題ありません。
だからといって、お金を早い段階で使い切ってしまうと、老後の人生が困ることになるので、限度は考えましょう。
「タイムバケット」でやりたいことを明確に
後悔のない人生を送るために、「タイムバケット」を利用して、いつ何をしたいかを考えてみることをおすすめします。タイムバケットは、自分の年齢や年代をバケツに見立てて、各年代で自分がしたいことをまとめたもの。いわば年齢別の「死ぬまでにやりたいことリスト」です。
<タイムバケットの例>
著書「60歳からの新・投資術」(青春出版)より
現在をスタート、予想される人生最後の日をゴールとし、その間を5年や10年といった期間で区切ります。そして、それぞれの区切りでやりたいことや起こりうる大きなイベントを入れていきます。
タイムバケットを作ると、自由な時間があるからできること、健康だから楽しめること、お金があるからできることが、それぞれ違うことがわかるでしょう。どんな経験にも、いずれ「一生できなくなってしまう」タイミングが訪れます。
やりたいことがあるならば、そのタイミングが来る前にやっておきましょう。残りの人生で何がしたいのかを時系列で考え、今しかできないことに集中して取り組むことで、人生がより豊かになっていきます。
また、タイムバケットはやりたいことに必要なお金をいつまでに用意するかを考えるためにも有効です。貯蓄や投資の目標設定にも役立ちます。
資産は「何から」取り崩していくか?
70歳となり、本格的な資産の取り崩し時期に入ったら、リスクの高い資産から現金化して取り崩していきましょう。
具体的には、日本株・米国株・アクティブファンドといった、値動きの大きな資産から売却していきます。値動きの大きな資産は、大きく値上がりする可能性もありますが、同時に大きく下落してしまう可能性もあります。
年齢が上がると、市場が大きく下落した場合、回復するまで待つのが難しいケースもありますし、資産売却の判断力が衰えるリスクもあります。ですから、相場のいいタイミングで売却しておくのがよいでしょう。そして、そのお金をコア資産の預貯金・債券・投資信託・ETFなどに移していきます。
投資信託やETFにも当然、値動きがありますが、分散投資で値動きが抑えられています。運用しながら取り崩しやすい資産なのです。
最後に、定期預金や個人向け国債などの安全資産を取り崩していきます。万が一に備える資産として、300万~500万円は寿命まで持ち続ける前提で保有しておきましょう。
<資産取り崩し戦略>
著書「60歳からの新・投資術」(青春出版)より
また、キャッシュフローを得るために保有している資産は、心の平穏を保つためにも寿命まで持ち続けることをお勧めします。目安としては300〜500万円はあった方が良いでしょう。
キャッシュフローを生む資産には、高配当株、債券、REITなどがあります。
このうち、株はサテライト資産の対象になりますが、キャッシュフローを得るための高配当株であれば例外として保有してもOK。
キャピタルゲイン(資産を売ることで得られる利益)狙いの株は前述のとおり、先に取り崩しましょう。
資産寿命を延ばす賢い取り崩し方
運用しながら取り崩すことで資産寿命を延ばすことができるのですが、ひとつ注意しておきたいことがあります。それは、運用の結果が必ずしも一定とは限らないことです。
実際は「毎年◯%で運用できる」という保証はありません。運用成果を年単位で見れば、大きく値上がりする年もあれば、少ししか値上がりしない年もあるでしょう。値下がりする年もあるはずです。
さらに、値上がりする年・値下がりする年がいつやってくるかでも、資産残高の推移が大きく変わってきます。
<定額取り崩しによる資産残高の変化>
著書「60歳からの新・投資術」(青春出版)より
上のグラフはともに、1200万円の資産から年96万円を取り崩して(定額取り崩し)、残ったお金を運用した場合の資産残高の推移を示したものです。横軸の「1年目:10%」などとあるのが、毎年の運用成果(収益率)です。ただし、パターン①とパターン②では収益率の推移の順序を逆にしてあります。
パターン①もパターン②も、10年間の平均収益率は同じ4%なのですが、10年間で資産総額に304万円もの差が生じています。
このようになる理由は、前半の元本が大きい時期にあります。パターン①のように、元本が大きい時期に収益率が高い場合は、96万円を取り崩しても元本が元どおりどころか、それ以上に回復しています。
しかし、パターン②のように、元本が大きい時期に収益率が低かったり、マイナスだったりすると、元本が大きく減ってしまいます。
パターン②の場合、後半に収益率が高くなりますが、すでに元本が大きく減ってしまったあとに収益率が多少高くなったところで、それほど資産は回復しません。その結果が、304万円の差につながっているのです。
つまり、毎年の収益率がどんな順番でやってくるかによって、資産残高が大きく変わってしまうというわけです。
定額取り崩しを始めた時に市場が好調であればいいのですが、将来の投資の運用成果がどうなるかは誰にもわかりません。もし大暴落などということになれば、老後後半のお金が少なくなって、回復のしようもないということになってしまうかもしれません。
では、定率取り崩しではどうでしょうか。同じく1200万円を運用しながら定率取り崩しすることを考えてみましょう。
1年目は定額取り崩しと同じく96万円を取り崩すことにするため、毎年資産残高の8%を取り崩すという定率取り崩しを行うことにします。収益率の推移の順序は先の例と同じように逆にしてあります。
この場合、10年後の資産残高は下図のようになります。
<定率取り崩しによる資産残高の変化>
著書「60歳からの新・投資術」(青春出版)より
定率取り崩しをすると、パターン③のように前半の収益率が高くてもパターン④のように後半の収益率が高くても、一定期間(ここでは、10年後)の平均収益率が同じならば資産総額は同じになります。したがって、定額取り崩しの時にあった「毎年の収益率の順番によって資産残高が大きく変わってしまうリスク」を回避できるというわけです。
ただし、資産の引き出し額は毎年の資産残高によって変わります。定額取り崩しの場合は収益率がどうであっても毎年96万円ずつ取り崩すので、10年間の引き出し額はパターン①でもパターン②でも960万円です。しかし、定率取り崩しでは資産の多い前半にお金が増えるパターン③では約945万円引き出せているのに対し、パターン④では約733万円しか引き出せていません。
前半を定率で取り崩す際、取り崩せる金額は毎年の収益率によって大きく変わってしまう可能性があります。しかし、定率取り崩しならば前半に比較的多くのお金を取り崩すことができますし、多少毎年の取り崩し金額が変わったとしても対応しやすいでしょう。
その後、後半を定額で取り崩すと、資産の減りは早くなりますが、高齢になるにしたがって活動範囲も狭まり、お金も使わなくなってきているので、それほど心配はいらなくなるでしょう。
何より、取り崩す資産とは別に預貯金とキャッシュフローを生む資産を確保しているのですから、心の平穏も保てます。
『60歳からの新・投資術』 頼藤太希 著
『60歳からの新・投資術』
(青春出版社)
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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