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24/03/21

相続・税金・年金

60歳以降の手取り収入を最大化する方法

60歳以降の手取り収入を最大化する方法

長年がむしゃらに働いてきた人たちにとって定年は人生の大きな節目ですが、みなさんは定年にどのようなイメージを持っていますか。中には、「定年後は給与が減って大変」と周囲から聞いて、定年をネガティブに捉えている人もいるかもしれません。
しかし、税金や社会保険に関する知識を駆使すれば、手取り額の減少を最小限に抑えることは十分に可能です。そこで今回は、60歳で定年後に65歳までの継続雇用が勤め先で用意されているもしくはすでに継続雇用されている人が、手取り額を減らさないために知っておくべき2つの方法を紹介します。

60歳で定年を迎えた人の約9割が選択する「継続雇用」に待ち受ける事実

厚生労働省が公表している「就労条件総合調査」(2022年)によると、一律定年制を定めている企業の割合は96.9%。そのうち72.3%の企業が「60歳」を定年の年齢としているようです。まずは、定年後の働き方や収入の現状について見ていきましょう。

●約6割が「嘱託・契約社員」で継続雇用されている

「高年齢者雇用状況等報告」(2023年)によると、2022年6月1日から2023年5月31日の1年間で、約40万人が60歳定年を迎えました。さらに、そのうち87.4%の人が継続雇用(再雇用・勤務延長)されていることからも分かるように、「60歳定年―65歳まで継続雇用」が、現在もっとも一般的な雇用形態と言っても過言ではないようです。

継続雇用期間の待遇は企業によって異なるものの、それまでよりも下がるのが一般的ではないでしょうか。労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」(2019年)では、60代前半の継続雇用者の約6割(57.9%)は「嘱託・契約社員」として雇用されており、従業員数が多くなるほど正社員の継続雇用者がいる企業の割合は低くなる傾向にあることが示されています。

●60代に突入すると賃金は大きくダウン

「賃金構造基本統計調査」(2022年)でも示されているように、男女ともに、「正社員・正職員」の賃金のピークは50代後半(55~59歳)です。

雇用形態別に見ると、60代前半の「正社員・正職員以外」の賃金(男性:283.6千円、女性:199.1千円)は、男女ともに、50代後半の「正社員・正職員」の賃金に比べて65%前後に低下。男性の場合には20代と同じくらいの賃金水準になりますが、これから賃金が上がっていく期待に満ち溢れていた20代とは違う景色かもしれません。

30~50代の賃金の伸びに合わせて家計支出が大きくなった人や、住宅ローン等の返済が残っている人などは家計の見直しが必要になってきます。さらに追い打ちをかけるのが住民税です。住民税は、前年の所得に基づいて計算さるため、定年を境に急激に賃金が下がる人の場合、定年の翌年は手取り額のあまりの少なさに驚くかもしれません。

定年後は家計を心配することなく、ゆとりあるセカンドライフを送りたいと、誰もが望むところです。では、賃金の減少とそれに伴う手取り額の減少に何も打つ手はないのでしょうか。

給与の減少を補うなら「高年齢雇用継続基本給付金」をまずはチェック

60歳に到達した時点に比べて賃金が75%未満に低下した60歳以上65歳未満の人は、雇用保険の被保険者期間が5年以上あれば、「高年齢雇用継続基本給付金」が支給されるので詳しくみていきましょう。

●高年齢雇用継続基本給付金には税金がかからない

高年齢雇用継続基本給付金は、賃金が61%以下となった場合には下がった後の賃金の15%、61%超75%未満の場合は低下率に応じた支給率に基づき支給されます。高年齢雇用継続基本給付金など雇用保険からの給付は、原則として非課税の扱いとなり、所得税や住民税の課税対象とはなりません。

支給額の目安は、次の表のとおりです。60歳到達時の賃金月額は、486,300円を超える場合486,300円、82,380円を下回る場合82,380円と、それぞれ定められています。さらに、賃金と支給額を合計した金額の限度(支給限度額)は370,452円であるほか、支給額が2,196円を超えない場合には、高年齢雇用継続基本給付金は支給されません。

<高年齢雇用継続基本給付金の目安(2023年8月1日~2024年7月31日)>

厚生労働省(愛知労働局)「高年齢雇用継続給付支給率・支給額早見表」
より筆者作成

原則として、申請手続きは勤務先を通じて行われます。時効までの期間は2年です。申請手続きを行っていなかった人も含めて、支給対象になる人はまず、勤務先の担当者に相談してみましょう。

なお、高年齢雇用継続基本給付金の最大支給率は、2025年度に60歳に到達する1965年4月2日以降生まれの人から10%に縮小し、2030年度に60歳に到達する1970年4月2日以降生まれの人からは廃止予定です。

●年金を受け取っている人は年金の一部が支給停止される点に注意

厚生年金保険への加入歴が1年以上ある、1961年4月1日以前生まれの男性と1966年4月1日以前生まれの女性は、65歳よりも前に「特別支給の老齢厚生年金」が受け取れます。

年金を受けながら厚生年金保険に加入している場合には、高年齢雇用継続基本給付金との間で併給調整が行われる点に注意が必要です。次の例で示すとおり、(在職による年金の支給停止に加えて)下がった後の標準報酬月額の最大6%に相当する年金額が支給停止となります。

<高年齢雇用継続基本給付金と老齢厚生年金の併給調整の例>

(前提)
・60歳に到達したときの賃金:350,000円/月
・60歳に到達した後の賃金:200,000円/月
・特別支給の老齢厚生年金:100,000円/月
(計算)
・高年齢雇用継続基本給付金:30,000円(200,000円×15%)
・在職による年金の支給停止額:0円
・高年齢雇用継続給付による年金支給停止額:12,000円(200,000円×15%×0.4)
・毎月の受け取り額:318,000円(200,000円+100,000円+30,000円-12,000円)

加入期間と平均標準報酬額に応じて決まる老齢厚生年金の報酬比例部分は、この期間も増え続けており、将来の年金額に反映されます。厚生年金保険に加入しながら働き続けることは、やはり年金収入を手厚くする一番の方法なので、併給調整による支給停止は、簡単な理解に留めておくだけで十分と言ってよいでしょう。

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給与の一部を退職金に回して手取り額を最適化させる方法もチェック

高年齢雇用継続基本給付金は、給与の大幅ダウンを補てんするために活用したい制度でした。一方で、これから紹介する給与の一部を退職金に回してもらう方法は、再雇用期間および老後の生活にゆとりのある人が、再雇用期間トータルで手取り額を最適化させるための選択肢になるかもしれません。雇用契約を新たに結ぶ際に、勤務先に相談してみてはいかがでしょうか。

●退職金を一時金で受け取るメリット

退職金を一時金でもらうと、税金および社会保険料の面で非常に有利です。控除枠で一定額まで税金がかからないほか、控除枠を上回っている場合でも課税の対象となるのはその1/2となります。さらには、退職金を一時金で受け取る場合には社会保険料もかかりません。

60歳の定年時に退職金をもらった人の中には、「定年退職のときに退職所得控除は使ったからもう使えないのでは?」と思っている人もいるようです。しかし、今回の記事で想定している「60歳定年―65歳まで継続雇用」のように、5年以上の期間を空けて退職金を受け取れば、再雇用期間を新たに勤続年数とみなして控除額が計算されます。

例えば、月5万円を再雇用期間の5年間(5万円×12ヶ月×5年=300万円)、退職金に回したとしましょう。次のように、退職金にかかる所得税(③)および住民税(④)の額は約7.5万円となります。なお、勤続年数が5年以下の場合には、②において退職所得控除額を差し引いた残額が300万円を超える部分については1/2課税が適用されない点には注意が必要です。

<勤続5年で300万円の退職金を受け取る場合の税金>
①退職所得控除額>
40万円×5年=200万円
②退職所得の金額
(300万円-200万円)×1/2=50万円
③所得税額(復興特別所得税額は除く)
50万円×5%=2.5万円
④住民税額(市町村民税:6%、道府県民税:4%)
50万円×10%=5万円

●退職金に回すのが向いている人、向いていない人

この方法は、先ほど紹介した、65歳に到達するより前に「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れる人にとっても大きなメリットがあります。

1ヶ月あたりの賞与額を含む月額給与と老齢厚生年金の額が、「支給停止調整額(2024年度は50万円)」を超えている場合、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止されます。これが「在職老齢年金」と呼ばれる仕組みです。特別支給の老齢厚生年金は繰り下げ受給ができません。在職老齢年金の対象になる人は、年金をなるべく多く受け取るための選択肢として、給与の一部を退職金に回す方法が機能します。

一方で、この方法が向かない人もいるので注意が必要です。社会保険料の負担が少なることはつまり、社会保険からの各種給付が減ることを意味します。とりわけ、将来もらえる年金の額が少ない人や、もっと年金収入を手厚くしておきたいと思っている人は、給与として受け取りながら年金額を増やす方が望ましい選択と言えるでしょう。

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「知っているとお得」な定年後に向けた準備を始めよう

今回は、65歳までの継続雇用が勤め先で用意されているもしくはすでに継続雇用されている人が、手取り額を減らさないために知っておくべき2つの方法を紹介しました。使える選択肢も多くなることから、定年後は、税金や社会保険をいかに上手に活用するかが定年前以上に大切になります。
雇用保険の「高年齢雇用継続基本給付金」が段階的に縮小および廃止が予定されているように、現在はとりわけ社会保険の過渡期です。現在50代後半~60代前半の人たちは、活用できる制度や仕組みを使い倒して、人生100年時代のセカンドライフを充実したものにしていきましょう。

神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)

1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker

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