23/03/14
雇用保険料率がまた上がる!引き上がるのはなぜなのか
「雇用保険」は毎月保険料を納付することで、失業した際や育児のために休業した際に給付を受けられる公的保険制度です。しかし、雇用保険料率が2022年10月に続き、2023年4月からも引き上げられることなりました、労使ともに保険料の負担が大きく増加することが予想されています。
そこで今回は、2023年4月に控えている雇用保険料引き上げの概要とその背景や理由について解説します。また、雇用保険を最大限活用するために知っておきたい制度についてもご紹介いたします。
雇用保険の対象は?
厚生労働省によると、次の2点に該当する労働者は、事業所の規模に関わりなく、原則として全て雇用保険が適用され、被保険者となり雇用保険料を払うことになっています。
① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
② 31日以上の雇用見込みがあること
つまり、正社員だけでなく、パートやアルバイトの方であっても、31日間以上働く見込みがあり、所定労働時間が週20時間以上の方は、雇用保険の対象となります。
学生の方は原則対象にはなりませんが、企業から内定をもらっていて、入社前からその会社で働くようなケースや、学業と仕事を両立するような学校の形態である場合は例外的に対象となることがあります。
また、日雇いや30日以内の期間を定めた雇用契約で派遣労働をしている方は「日雇労働被保険者」となる場合があり、特別な雇用保険に加入することができます。
もし雇用保険の対象であれば、会社から支給される給料から雇用保険料が天引きされていますので、自分が対象かどうかは給料明細で確認することができます。
雇用保険料はどのくらい上がるのか
今回引き上げとなる雇用保険料率は事業の種類によって異なります。事業の種類は、一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業の3種類に分かれています。
●2023年4月からの雇用保険料率
厚生労働省「令和5年度雇用保険料率のご案内」より
今回の引き上げでは、労働者負担と事業主負担がそれぞれ0.1%ずつ、合わせて0.2%あがります。一般の事業の場合、2023年3月までは「労働者負担0.5%+企業負担0.85%=合計1.35%」であった雇用保険料率が、「労働者負担0.6%+企業負担0.95%=合計1.55%」まで引き上げられることになります。労働者が給与から直接天引きされる雇用保険料は0.5%から0.6%になります。
例えば月給20万円の方の場合、額面の給与額から毎月1000円天引きされていた雇用保険料が、200円上がって1200円となるイメージです。これが、月給30万円の人だと、1500円から1800円になります。つまり、月給20万円の人だと200円、30万円の人だと300円、手取りが減ることになります。数百円ではありますが、身の回りのさまざまなものの値段が上がるなか、毎月の手取りが減ってしまうインパクトはなかなか大きいのではないかと思います。
雇用保険料は、なぜ引き上げられるのか?
雇用保険に加入している労働者や企業が支払う保険料は、失業保険の受給者数や保険料の積立金などをもとに毎年見直しがおこなわれています。過去20年間の雇用保険料の推移については以下の通りです。
●雇用保険料の推移(過去20年間)
筆者作成(2022年度は10月引き上げ後の料率を適用)
上記のグラフを見ると、過去には十分な財源が確保されていると判断され、雇用保険料率が引き下げとなる年もめずらしくありませんでしたが、近年は上昇傾向にあることが分かります。最近では2022年10月の引き上げに続き、2023年4月の引き上げと雇用保険料率の引き上げが続き、大幅に引き上げられています。これは新型コロナウイルスの感染拡大が大きく影響していると言われています。
今回、雇用保険料の引き上げに至った理由は主に2つあります。
①雇用調整助成金の特例措置により給付が急激に増えた
雇用調整助成金とは、従業員を休業させるときや休業させたときの手当を支払ったときなどに給付される助成金です。皆さんも記憶に新しいと思いますが、感染拡大防止のために休業していた飲食店や、業績の悪化によってやむを得ず従業員を休ませた企業などが増え、そういった場合に従業員への給与の一部を助成する制度である「雇用調整助成金(雇調金)」が使われました。
通常は、直近3か月間の売り上げなどが前の年の同じ時期と比べて10%以上減った企業が対象となりますが、新型コロナウイルスで多くの企業が長期にわたって影響を受けたことから、2020年からは、助成率と上限額を引き上げる特例措置が設けられました。その後も感染拡大が続き、2022年10月時点には支給決定額はなんと6兆円まで膨れ上がりました。これだけの給付をおこなえば、財政の悪化は避けられません。そのため、今回のような雇用保険料の引き上げをおこなう必要性が高まったのです。
ちなみに、この特例措置については2022年度で終了し、2023年度からは通常の運用に戻すことが決まっています。
②失業手当(基本給付)の給付が増えたため
また、新型コロナウイルスの影響で、失業手当(基本給付)の給付も増加傾向になりました。企業の業績不振に伴い、廃業や倒産、人員整理を余儀なくされた企業もあり、新型コロナウイルスの影響で多くの失業者が生まれました。
失業手当(基本手当)は、職を失った人に対して給付をし、生活や再就職の支援をするための制度です。新型コロナウイルスによって業績の悪化や、事業縮小を余儀なくされた企業に解雇される労働者は少なくなく、雇用調整により職を失った多くの人が失業手当(基本給付)の給付を受けています。独立行政法人労働政策研究・研修機構の「国際比較統計:失業給付受給者数・申請者数」によると、ピーク時の2020年9月には国内でも月に約50万人の方が失業手当の申請をしていました。2022年12月時点の失業手当の申請者は約40万人ですから、約125%にも相当する人数です。失業手当の受給者が増えれば、雇用調整助成金と同様に財政を圧迫することは避けられません。
このようなことから、雇用調整助成金に加えて失業保険の給付増加により、雇用保険の積立金はほとんど底をつく寸前となっており、すぐにでも財源を確保することが喫緊の課題となっています。このような背景から、雇用保険料の引き上げが決定されたというわけなのです。
この傾向はまだ続いておりますので、来年度以降も雇用保険料の変更がある可能性は高いといえます。最新の情報をしっかりとチェックしておきましょう。
雇用保険を最大限活用しよう
手取りが減る中で、こうした保険料の引き上げや物価高がつづくと不安になりますね。そんななかでおすすめしたいのが、雇用保険を最大限活用することです。雇用保険は、会社の倒産や解雇などで失業した場合にももらえる給付というイメージですが、実はそれ以外にも給付を受けられるケースがあります。ここでは、最大限活用したい雇用保険のお得な給付を2つご紹介いたします。
●雇用保険のお得な給付①:「就職促進給付」~転職活動のための引越し代ももらえる~
失業した際の給付金については、求職活動をするなど条件を満たした上で、ハローワークで申請をします。失業給付は「基本手当」という形で、前職の給料や働いた期間などをもとに計算されますが、そのほかに、プラスアルファでもらえるものがあります。失業給付には実は、失業してから毎月もらえる定額部分に加え、次の就職に向けての必要な経費など、就職促進のための給付が含まれているからです。
例えば、遠方で求職活動をする際に使った交通費なども条件を満たせばもらえる可能性があります。さらに嬉しいのは、転職先が見つかった場合、就職をするために引っ越しをしないといけない場合の引っ越し代ももらえる場合があります。親の介護等で離職し、親の近くで就職先を探さなければならない場合、ただでさえ無給の状況で、転居のための引っ越し代を捻出するのは大きな負担ですよね。この給付金を申請することで、引っ越し代が雇用保険から給付してもらえるなら、使わない手はありませんね。
●雇用保険のお得な給付②:「教育訓練給付金」~在職中でもスキルアップのためならもらえる~
雇用保険に加入しているともらえる給付金の1つである「教育訓練給付金」は、失業している人だけではなく、在職中の人も対象となります。そのため、働きながらスキルアップしたいと思ったり、取得すると昇給されるような資格があったりする場合、この制度を活用することで、おトクにスキルアップや昇給が実現できるため、ぜひ知っておいてほしい制度です。
・教育訓練の種類と給付率、対象講座の例
※厚生労働省の資料より抜粋
給付対象となる教育訓練は、厚生労働大臣が指定したもので、約1万4000講座あります。介護福祉士、社会福祉士、看護師、美容師、歯科衛生士、保育士、調理師など専門性の高い資格の取得をめざす講座から、英語検定や簿記検定などの資格取得のための講座、MBAなど修士・博士の学位などの取得を目標とする課程まであり、その種類によって給付率に違いがあります。また、転職する際にも資格が活用できるケースもあるので、まずは興味のある資格がないか、調べてみることをおすすめします。具体的な対象講座は、教育訓練給付制度の検索システムで調べることができます。
まとめ
今回の雇用保険料の引き上げは、新型コロナウイルスの感染拡大が大きな要因です。いまだに新型コロナウイルスの収束はみえず、収束したとしても影響は当分続くものと思われます。そのため、雇用保険料の引き上げは楽観的に考えず、今後も引き上げられるものと考え、積立型の貯金や保険を始めたり、適度なリスクを取り投資を始めたりするのも有効な生活防衛手段です。また、今回ご紹介した「教育訓練給付金」を活用して、業務に役立つ資格を取得することで昇給を目指すのもよいでしょう。社会保険料の値上がりなど政策により決められてしまうものは、個人の力ではどうしようもない部分はありますが、そんな中で、何もしなければただただ手取りが減っていくだけになってしまうので、一人一人が「自ら調べ、能動的に動く」ことがますます重要な時代になってくると思います。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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