22/12/05
全世界2800万部の名作~『チーズはどこへ消えた?』
世界中で知られている『チーズはどこへ消えた?』。発行部数は全世界で2800万部、日本では2000年に出版されてから400万部超えの大ヒットとなっています。発売当時一大ブームになったので、内容をご存じの方、懐かしいと思われた方も多いでしょう。100ページもない短編ですが、幸せをつかむため、またビジネスを成功させるために必要なことが詰まっており、数年前には大谷翔平選手の愛読書として再び注目を浴びました。
小人とネズミの行動が意味することは?
物語仕立てのこの本には、迷路に住む2人の小人と2匹のネズミが登場します。目の前にあった大量のチーズを食べ尽くしてしまった2人と2匹。チーズはいつか無くなると分かっていたネズミたちはすぐに迷路の中を探し始め、新たにチーズを発見します。チーズがいつまでもあると思っていた小人たちはその場にとどまりましたが、何もないままおなかはすくばかり。とうとう小人のホーは、新しいチーズを求めてこわごわ迷路に出ましたが、もう一人の小人ヘムはかたくなにその場を動こうとしませんでした。
チーズが無くなったという状況を前に、新たなチーズを探し始めたネズミたち、とどまったものの恐れに打ち勝って迷路を進みだした小人のホー、今いる場所を離れなかった小人のヘムと、それぞれの行動が異なり、読者は考えさせられます。
いつまでもチーズがあるとは限らない
人生は山あり谷あり。チーズがある幸せな状態が続くわけではありません。この寓話が伝えたいことは、変化を恐れるなということ。「迷路」はビジネスや人生、「チーズ」はいい仕事や愛情など私たちが求めるもの、「ネズミ」は変化を予測し対処するビジネスや人生の成功者を表します。いつの時代も変化に順応できない者は淘汰されるもの。前に進むことの大切さを説くこの本は、20年以上読まれ続けるロングセラーとなっています。
小人たちが古いチーズにこだわり続けたように、成功体験がある人ほど過去の栄光にしがみつきがち。しかし成長するためには常に行動し続けることが大切で、アクションを起こさずにいると周りに取り残される一方です。
以前の自分は柔軟に動けるネズミだったのに、いつのまにか変化を認められない頑固な小人になっていないでしょうか。自分からは動こうとせずに周りへの不満ばかり貯め込んでいないでしょうか。バブルがはじけてから30年の間、日本経済がずっと停滞し続けてきた理由がこの本を読むとわかります。これまで通りにやっていけると考えている人はもちろんのこと、自分が変わるべきだとわかっているのに動く勇気がない人の助けになる一冊です。
名作は時代を超えて
「この本はずいぶん前に読んだからもういいわ」と思った方、ちょっと待ってください。私が20年前に読んだ時の感想は(教訓的だな)というあっさりしたものでしたが、今回久しぶりに読み返してみると、ずっしり胸にこたえました。今の自分は現状に安穏としており、急激に変わり続ける社会の流れに取り残され気味だと気づいたのです。
すでに本の内容を知っていても、自分も周囲の状況も以前読んだ時とは変わっているため、再読すると新鮮な気づきを得られます。名著ほど含蓄が深く、多種多様に咀嚼できるため、折に触れて読み返すことは自分の成長の手助けになるでしょう。
この本は、恐怖心に打ち勝ってチーズを探しに出かけた小人のホーの心理に寄り添っていますが、その場から動こうとしなかったヘムはどうなったのか気になりますね。二人とも無事にチーズを見つけられたのでしょうか。たいていの人が、ヘムはなんて頑固なんだろうと呆れますが、自分がヘムにそっくりではないか注意する必要があります。物語を読み返すことで、自分自身を客観的に確認することもできるでしょう。
この本の続編『迷路の外には何がある?』には、ヘムのその後について書かれています。両方読んでみてはいかがでしょうか。
チーズはどこへ消えた?
【読書ブロガー小野寺理香のブックレビュー】記事
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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