22/04/24
健康保険の手続きだけではない! 定年後に損しないための4つの手続き
定年を迎えて、長年勤めてきた会社を退職する際には、お金の関わる手続きがたくさんあります。しかし、よくわからないままなんとなく手続きしたり、手続きそのものを忘れていたりすると、大きく損してしまうこともあります。
今回は、定年後に欠かせない4つの手続きを確認。定年後の手続きで損しないためにどうすればいのか紹介します。
定年後の手続き1:健康保険の手続き
会社を退職すると、それまで加入してきた会社の健康保険から脱退します。退職後の健康保険には、大きく分けて次の4つの選択肢があります。
①再雇用・再就職先の健康保険に加入する
定年後も再雇用・再就職で働く場合、退職するまで勤め先の健康保険に加入できます。
【健康保険の加入条件】
・所定労働時間・所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上
または
・週の所定労働時間が20時間以上
・雇用期間が1年以上見込まれる(2022年10月からは「2か月超」)
・賃金の月額が8万8000円以上
をすべて満たすこと
健康保険の保険料はこれまでと同様、会社と折半して支払います。
②家族の健康保険に入る
配偶者や子など、健康保険に加入している家族が生計を維持している場合、扶養してもらう(被扶養者になる)ことで、家族の健康保険に加入できます(74歳まで)。家族の扶養に入るには、年収の条件があります。
【健康保険の加入条件】
・(60歳未満)年収130万円未満
・(60歳以上)年収180万円未満
かつ家族の年収の2分の1未満であること
家族の健康保険に入った場合は、保険料の負担はありません。
③任意継続する
退職する前の会社の健康保険に引き続き加入できる制度を任意継続といいます。任意継続できる期間は退職後2年間です。
【任意継続の条件】
・退職前に健康保険の被保険者期間が2か月以上あること
任意継続では、それまで会社が折半してくれた保険料も自分で支払う必要があるので、保険料は上がります。ただし、任意加入の保険料には上限額があるので、単純に倍になるとは限りません。
④国民健康保険に加入する
国民健康保険は、自営業者やフリーランスなどの方が加入する保険です。上の①〜③の保険に加入しない場合に加入します。
【国民健康保険の加入条件】
・国内に住所があること
国民健康保険の保険料は前年の所得で決まるため、退職してすぐに国民健康保険に加入すると、保険料が高くなってしまう可能性があります。
定年後、再雇用・再就職する場合には勤め先の健康保険に加入するので問題ありません。問題は、定年後、再雇用・再就職しない場合です。
家族の扶養に入れるならば、もっとも保険料が抑えられるのでお得です。しかし、扶養の条件を満たさない場合もあります。
家族の扶養に入れない場合のおすすめは、「退職1年目は任意継続、2年目は国民健康保険」を検討することです。
国民健康保険の保険料は前年の所得で決まるため、特に現役時代の給与が多かった人は、退職1年目は任意継続を選んだ方が保険料を抑えられるでしょう。
退職2年目の国民健康保険の保険料は、退職1年目の所得で決まるため、任意継続よりも保険料が抑えられる可能性が高まります。
なお、国民健康保険の保険料はお住まいの市区町村でも変わるので、どちらが得になるかはお住まいの自治体で確認していただくのがいいでしょう。
定年後の手続き2:国民年金の手続き
国の公的年金には、国民年金と厚生年金の2種類があります。このうち、国民年金には原則20歳から60歳までのすべての人が加入するので、仮に60歳より前に会社を退職して働かない場合は、国民年金保険に切り替える必要があります(家族の扶養に入る場合を除く)。
国民年金保険への切り替えは、お住まいの市区町村の役場で行います。国民年金保険への切り替えは退職日の翌日から14日以内に行う必要があるので、忘れずに手続きしましょう。なお、国民年金保険料は月1万6590円(2022年度)です。年度により変動しますが、おおよそ年間20万円かかることを覚えておきましょう。
また、20歳から60歳までの間に国民年金保険料の未納期間がある場合には、国民年金保険料の未納期間に応じて将来もらえる国民年金が減ってしまいます。1年未納だと、もらえる国民年金の金額はおおよそ年2万円減る計算です。
国民年金が減ることを防ぐには、国民年金の任意加入がおすすめです。任意加入は、60歳以上65歳未満の方が自分で国民年金保険料を支払うことで、国民年金の加入期間を増やせる制度です(厚生年金・共済組合加入者は除く)。仮に、任意加入で国民年金の加入期間を5年(60か月)増やせれば、単純計算で年10万円ほど国民年金額が増えます。
また、年金は原則65歳から受け取る仕組みですが、66歳〜75歳まで受け取り開始を遅らせる繰下げ受給を行うと、1か月あたり0.7%、最大で84%受給額が増やせます。この受給率は一度受け取りを開始したら生涯続きます。日本人の寿命は年々延びていることを考えると、できるだけ長く繰下げ受給を行い、もらえる年金額を増やしたほうがいいでしょう。
定年後の手続き3:雇用保険の手続き
退職時点でまだ仕事が決まっておらず、新しい仕事を見つけて再就職したいという場合、雇用保険の手続きをすることで失業手当(雇用保険の失業等給付の基本手当)がもらえます。失業手当をもらうには、ハローワーク(公共職業安定所)で求職の申し込みが必要です。
ハローワークでの手続きに必要なのが、雇用保険被保険者証と離職票(雇用保険被保険者離職票)です。雇用保険被保険者証は、多くの場合会社にあり、退職すると返してもらえます。また離職票は、退職から10日程度で退職した会社から届きます。離職票が届いたら、お住まいの地域のハローワークに行き、求職の申し込み、失業手当の手続きを行います。
失業手当の受給資格があると確認されたら、後日雇用保険の受給説明会に参加し、雇用保険制度の説明を受けます。その際、第1回の失業認定日も通知されます。
失業認定日とは、ハローワークから「失業している」と認定される日のことです。失業認定日は、原則4週間に1度あります。この日までに求職活動を行いつつ、失業認定日にはハローワークに足を運び、失業の認定を受ける必要があります。失業の認定を受けると、後日指定した口座に失業手当が振り込まれます。
失業手当の受給期間は、原則として離職後1年間です。「すこしゆっくりしてから手続きしよう」などとしていると、失業手当がもらえなくなってしまう場合もあるので、早めに手続きすることが大切です。
定年後の手続き4:住民税の手続き
住民税の支払いは1年遅れとなっています。住民税の金額は、1月から12月までの1年間の所得をもとに計算され、翌年の6月から翌々年の5月の間に支払います。そのため、定年退職の翌年に前年の住民税(現役時代の所得をもとにした住民税)を支払う必要があります。
たとえば、定年退職の年に年収800万円だった人が翌年支払う住民税は約45万円(所得控除を基礎控除と社会保険料控除のみで試算した場合)です。しかし、退職翌年の年収が半分の400万円になったとしても、あるいはまったく収入がなかったとしても、約45万円を支払う必要があるのです。退職翌年の住民税は、結構な負担になるのです。
ですから、退職翌年の住民税は、事前に確保しておくことが大切です。
なお、退職金にかかる住民税は退職金から天引きされます。したがって、あとから請求が来ることはありません。
まとめ
健康保険、国民年金、雇用保険、住民税と、定年退職前後のお金の手続きについて確認してきました。よくわからないままに手続きしたり、手続きを忘れたりすると、大きく損する可能性もあります。わからないからといって放置せず、自分にとって一番いい方法をよく調べていただくことをおすすめします。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「定年後ずっと困らないお金の話」(大和書房)など書籍100冊、累計180万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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